百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第17章 丸紫5

ひかりは彼女達を見て、銀蔵が何故自分に体術を仕込んだのか理解した。彼女達を従えるには力で従えなければならないからだった。
ひかりは暫定の社長、銀蔵、そして銀蔵が連れて来たメイド―――。このメイドもメイド喫茶で暴行事件を起こした曰くつきのメイドであり、ひかりと同様銀蔵から体術を学んでいた。この4人でルールを策定した。

ガチンコで闘う。マッチメイクは無い。
技を受けてそれに耐えて返すのは普通のプロレスと同じ。
凶器は禁止、厳しく取り締まる。
レフリーへの暴行は凶器以上に厳しく対処する。
ネットの有料チャンネルで放送し、視聴者つまり観客はどちらが勝つか賭ける事が出来る。

という事に大筋が決まった。そしてレフリーはこのメイドが努める事になった。
社長になるだろうひかりだけではない。選手を従わせるにはレフリーも強く無ければならなかった。ひかりはこのメイドと一緒に特訓を受けていたが彼女はレフリーになる為に選手を従わせるべく訓練を受けていたのだった。

試合は現在とは違い空中戦が多かったが、現在と同様潰し合いになった。

亜希子は最初は洋子と組んだが小柄な体格が災いしさらにそれを克服する戦術を開発出来ず、勝てなかった。
その為洋子とパートナー対決を最後に引退した。その対決は今でも時々丸紫の掲示板で語られる。この闘いが丸紫の今後の在り方を決めたと言っても良かった。
二人は互いに隙を突いて攻守を入れ替えながら約40分間闘い続けた。お互い親友で、パートナーでありながら容赦なく攻撃した。それが観客、視聴者の興奮を誘った。
場外に振っては場外に有るもの―――椅子や机や鉄柵やらを使い、相手をグロッキーにした。凶器は禁止されていたがその場に有るもの(消火器等据え付け義務の有るものは除く)は例外としてレフリーが認めたのだ―――。更に、レフリーは場外でカウントを取るのを忘れた。
気を取り直してカウントをしようとしたら、指示が来た。
「取らなくて良い。両者リングアウトじゃ興醒めだ」
指示を出したのは銀蔵だった。

結果、後半は洋子優勢になり、洋子は亜希子を場外引きずりまわしにしたり、場外にあるものを使いまくった。畳んだ椅子を積み上げてそこに亜希子を叩き付けたり、亜希子をよつんばいにさせ、背中に机を投げつけたり、奥のドアを開けて用具入れに向かって亜希子を投げつけ、亜希子を動けなくしてしまった。
亜希子は声を上げるタイプだったのでダメージを受けて声を上げる度に視聴者の興奮が上がった。
そして強引に抱え上げてリングに戻し強引に立たせてから、フラフラの亜希子に向かってトップロープからのドロップキックを放った。亜希子は吹っ飛ばされコーナーに叩き付けられた。反動で前に倒れたが動けなくなってしまった。
洋子は亜希子が気絶したのに気付き、目が醒めるまで待った。そして亜希子の四肢が動いたのを確認すると髪を掴んで起こし、パワーボムで沈めた。

この試合は両者がリングインして試合が始まる前に、お互いギブアップやKOを狙わない―――、徹底的に体力を奪い合う消耗戦をする事を確認し合っていた。
ひかりは試合が終わった後、洋子が亜希子を背負って退場するのを見て、この消耗戦こそが丸紫の闇プロレスの在り方だと思った。
それまではギブアップ、KO等で試合がすぐに終わってしまう事がそれなりにあった。その為、ギブアップ、KOは極力狙わない。
上記の理由で顔面攻撃を制限する。
レフリーは気絶した選手を回復させる。

顔面攻撃を完全に禁じてしまえば、胴体をボコボコ殴りあう滑稽なものになるので、掴み技やビンタは制限しなかった。
また、返したくても返せない状況まで追い詰める為にレフリーは気絶した選手を回復させ試合を続行する、とした。それにより、過酷さがより引き立つと思ったからだった。

亜希子は引退後、実況をする事になった。今までは実況が無かったので丁度良かった。
今でも丸紫の掲示板では、亜希子は最初は選手だった、と書き込みがあると荒れることがある。それは、その事を知っているのは僅しかいない最古参の視聴者のみだからである。
新参は実況の亜希子しか知らないし、亜希子自身選手期間が非常に短く、かつそれを話していない為だった。だから視聴者どころか、選手である亜湖やさくらは勿論、香やある程度古参の美紗も知らない事である―――。
亜希子の実況は好評だった。元選手だっただけあり、視聴者に分かりやすいように話していた。


1年半後、ひかり18歳―――。
選手やトレーナーが帰った後、真夜中に銀蔵はひかりとレフリーのメイドをリングに呼んだ。ひかりはリングに上がり、
「どうしたんですか?」
と聞いた。銀蔵は、
「彼女を倒してみてください」
とだけ答えた。銀蔵が言い終わるのと同時にメイドは戦闘体勢に入った。
「ご覚悟を」
そう言って闘気を身に纏った。ひかりは、メイドの闘気に押され、一歩下がったが、銀蔵が制した。
「二年経ったら社長にって言いましたよね。少し早いですが」
と言った。ひかりは、
「条件として彼女を倒せ―――と?」
と聞いた? 銀蔵は、
「そうです。その為の訓練です」
とサングラスに手を触れて答えた。メイドは、
「私はひかりさんに倒される役目―――。最初からそういう約束でした。でも殺すつもりで行きますよ、社長として私を従えるつもりなら私を倒して下さい」
と言い、間合いを一気に詰めた。

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