百花繚乱
百合ひろし:作

■ 第18章 亜湖 vs 香11

隙が大きい技は返せ―――。丸紫の鉄則。
亜湖はキャサリン・デービスを投げた時と同様に髪を掴んでた香の右腕を強引に左脇に引っ張り込み、右腕を香の左脇に差して反しながら、右足を踏み込んだ。香は右腕を抜こうとしたが亜湖は上半身は何も身に付けてないパンティ一枚姿―――。肌は意外に滑らない上に亜湖の脇を締める力が強く、抜けなかった。
香は一回転し背中から叩き付けられた。更に亜湖は素早く一歩下がり、低空のドロップキックで倒れている香を場外に叩き落とした。


「センパイ―――」
さくらはモニターを見ながら呟くと、美紗は、
「亜湖は強くなってるよ。いつまでも弱いと思って前半遊びすぎたな、香」
と言って最後の一口を飲んだ。
「……」
さくらが何も言えずにいると美紗は、
「まあもっとも受けタイプの亜湖の成長はいつも一緒にいて初めて解るんだ―――。香には解る筈が無い」
と付け加えた。

亜湖は頭を押さえながら歩き、ロープをくぐって場外に下りた。すると香が頭を起こしてマットに手を着いて首を振っていた。まさか自分が亜湖にこれだけ攻撃されるなんて信じられない、といった表情をしていた。
亜湖は指と指の間から香が見えるように両手で顔を覆った。
「手段選んでたら香さんには勝てない……体ごとぶつけないと……」
亜湖は恥ずかしくて赤くなった顔を隠した。そして意を決すると顔を隠した手をどけて香に向かって走った。香もそれに気付き片膝立てて立ち上がろうとした。亜湖が飛込んで来たら受け止めて逆に抱えあげて鉄柱なり机なりに叩き付けてやろうと思ったが、滑って尻餅を着いてしまった。
一方亜湖はジャンプして立ち上がった香に抱きつく様に体ごとぶつけ、押し倒そうとしたが、香が滑ってしまった為、視界から消えた。その時、
「うぶっ!」
鈍い音と香の篭った声が上がった。亜湖の股間が丁度良い高さに来ていた香の顔にクリーンヒットした。そして受け止められた先程とは違い今度は押し倒し、香は後頭部から背中に掛けてをマットに打ち付けた。
「ああ……」
一方亜湖は横向きに倒れて苦し気に声を上げ、両手で股間を押さえて首を振った。パンティ一枚姿で相手の顔に股間を押し付けて倒す―――何て嫌らしい攻撃なんだと。わざとじゃない、香さんが尻餅をついたからだ―――と心の中で言い訳をしながら、股間の痛みと恥ずかしさで歯を食い縛り顔を真っ赤にして涙を流しながら何度も首を振った。
香は動けなくなっていた。レフリーが下りて来て香の手を握った。香は握り返したが力が無かった―――。これが攻め疲れ。そして今の亜湖の文字通り"捨て身"の攻撃で意識を半分以上飛ばされた影響だった。

亜湖は股間の痛みが収まってくるとゆっくりと体を起こし、涙を拭いてピッと飛ばした。顔はまだ赤いままだったが―――。
それから汗で濡れたパンティを直し、香の髪を掴んでリングに入れた。香は余程今のが効いたのか、まだグロッキー状態でリング上で大の字になっていた。
亜湖は香の様子を見ながらフラフラと歩き、ゆっくりとリングに戻った。そして、決めるなら今しかない―――、時間を置くと香の意識がはっきりと戻り体力も回復され、また香の攻撃に晒される事になると思い、
「私が勝つ―――」
亜湖は小さく呟いて右手で香の乱れたポニーテールを掴んで左手で拳を握った。
そして香を立ち上がらせて後ろから香の左脇に頭を入れて胴をクラッチした。香は投げられたら返せないと本能的に感じ、左腕に力を入れて亜湖の首をキメようとし、更に足を掛けて防ごうとした。しかし、亜湖は足をずらして掛けられた足を外すとあとは構わず引っこ抜き、綺麗に弧を描く様に後ろに放り投げた。亜湖のフィニッシュ技であり、文字通り必殺技の臍投げ式のバックドロップ―――。
その瞬間はとても時間が経つのがゆっくりに感じた。

「ブラジャー返して欲しかったら私に勝つ事ね。但し、タッグ戦の時は亜湖が私からスリーカウント取った時に限るわ」
「疲れたでしょう。食事にでも行かない?」
過去に香から言われた事を次から次へと思い出した。
「良く考えたら、下着姿以外を見るのは初めてね。かわいいんじゃない―――?。下着姿もかわいいけど―――」
「亜湖だけでいい、さくらは帰っていいわ(中略)負けてイライラしてるのにこんな事言わせないでよ!」
どんなにきつい事を言われても、恥ずかしい技を掛けられたりブラジャーをはずされたりしても、それは丸紫にいる先輩としてここの厳しさというものを香なりのやり方で指導し、亜湖やさくらがランクを上げて追い付いてくるのを先輩として待ってくれているのだと思い、亜湖は耐えていた。
しかし、そうではなく香はただ亜湖やさくらで楽しみたいだけだったと宣言されてその本性を見せられ、裏切られた気持ちになった。さくらは前からその本性には気付いていて香に敵対心を持っていたが、亜湖はそれを宣言されてからも悩んでいた。
それを断ち切るには勝つしかない―――例え再びブラジャーを外されてパンティ一枚姿になっても、次の日立ち上がれない程ボロボロにされても。
その為、試合までの時間が無い中、生徒会長が課した2対1での練習試合で60分耐えきるメニューをこなし、最後の日は洋子とさくらの攻撃に耐え切った―――。それだけこの試合に賭けていた―――。

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