百花繚乱
百合ひろし:作

■ 外伝-01章 偶像と現実の闇4

オーディションの内容には水着審査もあった。良はそれだけは例外で自信が無かった。もし最終選考がそれだったら落ちるだろう―――できれば最初になって欲しいと思っていた。というのは良は体育会系の体型で胸はそんなに大きくない。ウエストもそんなに無いので腰のクビレが目立たない―――。とは言ってもアイドルになれば、沖縄、ハワイ、カリブ、モルディブ等でのグラビア撮影がある。その時に体育会系アイドルとして売り出せば上手く行く―――。そう、良が昔から描いていたアイドルのステレオタイプとは違うやんちゃなアイドルとして売ればいい。つまりなったもの勝ちという考えだった。そしてなったもの勝ちになるためには体型的に不利な水着審査はじっくり見られる最終審査より見方が甘い最初にやって通ってしまった方がいいといったあんばいだった。


実際にオーディションを受けた。選考は第3次まであり、水着は第2次審査だった。最初ではなく良は残念に思ったが最終ではなくラッキーだと思うことにした。
1次審査はあっさり通った。良の明るいイメージがもうハンディキャップになり掛っている年齢をカバーした。周りはみんな年下で、19歳の良はかなりの高年齢だった。
日を改めて2次審査―――。最初1000人でスタートした審査はこの段階で150人にまで減っていた。学校の教室の様な場所でグループでの水着審査。10人グループで最終審査に残るのは1人ないしは2人、つまり、15〜20人にまで絞られる―――。
赤い紐ビキニに黄緑の野球帽でで挑んだ良はその10人グループの中で最後の順番だった。審査員は他の9人に対してイマイチ不満そうだったので、それで良に対しても不満なら、不満な中から1人最終に出さねばならない。しかし、そうしたくは無かった。そうしてしまうと最終審査にアピール度の低い人を出してしまう事になり自分達の審査能力を疑われかねないので何とか良を満足行く形で最終選考に出したかった。

良は様々な自己アピールをしたがイマイチ受けが悪かった。
「君さぁ、水着で海岸にいるイメージ出来てる? ホラ、そんなに元気なんだから、元気がウリならもっと"開放的”にならなきゃさぁ―――」
審査員の一言の意味を、普段から男子との接点が多かった良は理解してしまった。しかし、見知らぬ審査員4人とライバルの9人の目の前で出来る訳がない―――。良は体が固まってしまい唇を噛んだ。
一人の審査員が動かない良に対して業を煮やしたのか、眉をしかめながら審査の用紙に何やら書き掛けた―――。あれは不合格と書くのではないか? 良は瞬時にそう思った。
高校を卒業後家を飛び出して友達の所に居候してまで受けたオーディション。そしてここを通過すれば、最終審査に残れば自分は夢破れてもこうやって夢に向かって歩んでいる良を応援しようと綾乃は見に来てくれる約束をしている―――実際にチケットが取れたと連絡も受けてる―――。

こんな所で負ける訳には行かない。その気持ちだけが良を動かした―――。
良は背中に手を回し、ブラジャーの結び目に手をやってスルッとほどいた。そして恥ずかしそうに顔を赤らめて右手でそのまま紐を持ちながら被っている帽子を左手で深く被りなおし、それからゆっくりとブラジャーをどけて完全に外してショーツ一枚になった後、その場に後ろ手に座り、ブラジャーを腰の横に置いて足を前に投げ出し首を軽く振った後、ゆっくりと片膝を立てて両手で抱えこむ様にしてから上目遣いで審査員に笑顔を作った。
これを見て最初に良に注文つけた審査員は用紙にササッと書き込み、眉をしかめていた審査員も書き掛けた事を消しゴムで消して書き直していた―――。他の審査員も同様に何やら書き始め、ライバル達は呆気に取られていた。
良は合格したのである、乳房を晒すことと引き換えにして―――。


日を改めて最終審査―――。市民ホールで一般公開での審査だった。ここまで残ったのは17人。僅か1.7パーセントに過ぎなかった。ここで合格するのはその中から5人と発表があった。
内容は―――、
「今までで一番好きだったものをやって下さい」
という事だった。歌でも踊りでも劇でも―――流石に漫才落語をやる人はいないだろうが。アイドルのオーディションなのでそちら方面の人は1次審査で落ちている。

良の順番が来た。良はステージの中央に出て、
「13番、草薙良。笹山忍のサムタイムを歌います!」
と元気に挨拶をした。何をやるかは予め、2次審査に合格した後本部に伝えてある為、バックの演奏は用意してある。勿論審査員には良が、いや、最終審査に残った人が何をやるのかは伝えていない。何をやるか、それも審査の対象だからである。
良は今までどれだけ練習したか、もう分からなくなってしまったこの曲を明るく楽しく懸命に歌って踊った―――。笹山忍の動きを完全にコピーしながらも落ち着いた感じだった忍とは違い、明るさを前面に出して歌った。
客席が思った以上によく見える―――。応援すると約束した綾乃がいた。リズムに合わせて手を叩いてくれている。そして別の所には―――、
蝶のマスクをしている女性―――、株式会社丸紫の社長がいた。2年程前に一度会ったきりだが、あの風貌と存在感を感じる話し方は忘れる事は無かった。
だけどどうしてここに?
良は頭が真っ白になり掛け一瞬動きが止まった。本当に僅か一瞬―――。

「何か困った事があったら来なさい―――」
「オーディションとは名ばかりよ」

不安になった。何故ここに丸紫の社長が居るのかと。困ったら来なさい、と言っていたと言うことは、このオーディションで誰か困る人がいるのだろうか―――??
しかし、すぐに気を取り直して歌い続けた。そして歌い終わると客席に向かって深々と礼をした。顔を上げた時、綾乃の笑顔が目に入り、丸紫の社長を見た時に抱いた不安を吹き飛ばしてくれた―――。

結果発表―――。
「13番!」
良の番号が呼ばれ、それを聞いて思わず飛び上がってしまった。しかし―――。
合格者は5人と聞いていたのに、3人も多い8人だった。
「毎回辞退者が出るので多目に合格者を出しているのです」
司会者である先輩のアイドルがそう説明していた。

何故多目に合格者を出す必要があったのか? いってしまえば何故毎回辞退者が出てしまうのか―――?
そして丸紫の社長が何故見に来ていたのか―――?

合格して舞い上がっていた良にはこの事を考える余裕は全く無かった。
この後は合格者に対する今後の打ち合わせをしただけで解散となった。

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