百花繚乱
百合ひろし:作

■ 外伝-01章 偶像と現実の闇6

次の日―――。良と純子は一つのビルを訪れた。そこには株式会社丸紫と玄関に大きく刻印されていて綺麗なビルだった。良は純子を後ろに守るようにビルに入り、受付の女性の所に行った。
「草薙良です……」
良は自分の名前を名乗ったが、その先は何と言えばいいのか分からず話せずにいると受付嬢は、
「どちらに御用ですか?」
と聞いた。良は、口で何と説明すればいいのか解らなかったので社長の古びた名刺を出して、
「社長にお願いします……」
と言った。受付嬢は、
「少々お待ち下さい」
と言って電話を掛けた。そして暫くすると、
「佐々岡は今支店に出ているのでここには居ません。確認しますので少々お待ち下さい」
と言って、良と純子を招いた。その部屋はお客様用の待合室だった。そしてお茶を出して、
「30分ほどお待ち下さい」
と言って出て行った。


「社長―――、社長に取次ぎをと10代に見える二人の女性が見えましたがいかが致しますか? その人が出したのは社長の名刺―――丸紫のロゴの下に薔薇の刻印のある名刺でしたが……」
受付嬢は”支店”に電話を掛けて社長に指示を仰いだ。社長は、
「解りました。銀蔵さんと二人でそちらに向かいます」
と答えた。そう―――良に渡したのは普通の名刺ではなく薔薇の刻印のある名刺―――。この名刺には特別な意味があった。その為社長は銀蔵を呼び、急いで本社に向かったのである。


30分後、社長は本社に着いた。受付嬢がお客様用待合室に二人を案内した事を告げると、社長は銀蔵と一緒に入った。
「久し振りです……」
良はそう言って頭を下げた。続いて純子も礼をした。
「そんなに緊張しなくてもいいわ。兎に角、場所を変えましょう」
社長はそう言って良と純子を車へと連れて行った。
銀蔵の白ベンツの前部に自分が乗り、後部に良と純子を乗せて出発した。
「アイドルは辞めたのね?」
社長は車が動き始めると第一声でいきなり核心をついた。良は特に驚きはせず、
「はい―――、辞めました」
と答えた。社長は、
「何で辞めたのかは大体想像は付きますが、あそこは辞めて正解よ」
と言った。良は、
「え? 知ってるんですか?」
と聞いた。今、芸能界では売れに売れてる系統が3つあるがそのうちの1つで、他の2つの事務所より色々な事を一般公開して親しみ易さを全面に打ち出している所だ―――。
「ええ。プロデューサーに気に入られれば幾等でも売れるようにしてもらえるわ。歌手でもタレントでも。でも代償が大き過ぎるわね」
社長は静かに語った。良と純子は黙って聞いている。
「この前、大隅ちゃんAV出演―――ニュースになったでしょう」
社長が言うと良は気付いた―――。
「ま、まさかああいう所! みんな録られてる―――とか!?」
良が叫ぶと社長は一つ息を吐き、
「ああいう所? あなた―――見たのね? 現場を……」
と聞いた。良はきつく目を閉じて首を振った。そして、
「見ては居ない……でも聴いてた。廊下で―――。面接だか何だかの部屋の中であたしの前の人が何人かの男と―――。それで、あたしの番で……辞退したよ……」
と言った。社長は、
「もう一人のあなたは?」
と聞いた。純子は、
「部屋で体を求められて―――。上はブラまで見せましたがそこで……やっぱり無理と」
と答えた。社長は安心して、
「本番やってたら後には引けなかったわね。本番後に逆らえば―――世間に晒されておしまいよ」
と言い、更に続けた。
「大隅ちゃんは事務所の意向に従わなかった―――だから貴方達が求められたのと同じ様にオーディションを受かった後から今年まで何年も、何回も男と寝て仕事を取ってたのを晒されたわ。可愛そうだけど彼女はもう終わりよ」
それを聞いて良は疑問に思った。
「でもあの時みたいにプロデューサー立ち会いで犯してたの流出させたらバレない? 事務所ぐるみって。だってアイツ有名じゃん」
社長はそれを聞いて、
「あなた動画サイトでいろんな人が、有名人の歌とか合成音声ソフトに歌わせた歌をカバーしてるの知ってるかしら?」
と話を変えた。それを聞いて良は、
「知ってるけど何の関係が―――」
と聞いた。社長は、
「彼等はCDに入ってるカラオケバージョンをバックに歌うか、音源から元の声を抜いてそれから歌ってるわ―――」
と答えた。純子はそれを聞いて、
「つ、つ……つまり、プロデューサーの声は抜いてる―――と」
と言った。社長は、
「パソコン使えばどうにでも出来るというものよ。つまり、アイドルは知らない男とセックス遊びをしてる―――という訳よ。相手してるのはプロデューサーの部下のCDのクレジットにも載らない誰も知らない一般社員。だから事務所の意向で報復として流されたといくら騒いでも証拠が無いわ」
と答えた。良は、
「じゃあ……1番も3番も4番も―――言う事聞かないと大隅ちゃんと同じ目に……特にあたしが聴いた4番は相当遊んでたらしいし、声凄かったしそれでユニットのセンターを下さいなんて言ってたから―――」
と声を震わせて言った。社長はふう、と息を吐いて、
「いつまでいられるかしらね―――。貴方の話を鵜呑みにすると、その4番の娘は何か1つやる事にAVに出来るコレクションが1本増えるわね。番組出演で1回、コンサートで―――ツアーならその日数分は持て遊ばれるわ。一年でどれだけ出来るかしらね……」
と残念そうに言った。その後もその事務所の闇を次から次へと明かしていった。良と純子はそれを聞くと怒りの感情がどんどんと沸き上がってきた。
きっと一緒に集まった他の6人はユニット組んで活躍するだろう。そしてポジションや役回りはプロデューサーの言う事―――つまりプロデューサーが指名した男に持て遊ばれた人程いいものを得るだろう。しかし、その先には闇しか残っていない―――。

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