百花繚乱
百合ひろし:作

■ 外伝-01章 偶像と現実の闇8

一週間後、二人は丸紫―――、とはいっても本店ではなくマンションの地下の核施設風の方に行った。
二人は社長に会うなり、今までを捨てて尽力する事を伝えた。社長は、
「解りました。ならば早速―――最初は現場で働いて貰いましょう。そういえば名前を聞いてなかったわね」
と言った。良と純子はそれぞれ簡単に自己紹介をした。社長は、
「稲取さん―――貴方は大学まで行く気はありますね?」
と確認した。純子は、
「あ……はい。でも何の関係が……」
と聞いた。社長は、
「貴方は本社がいいと思ったからよ。経済や法律等を仕事しながら覚えなさい。後は―――」
と言ってメイドに目配せした。メイドは純子に深々と礼をした後一気に間合いを詰めて喉元に手刀を寸止めで止め、
「体術は私と銀蔵さんで仕込みます―――。貴方は小柄なので今のままでは自分の身も守れないでしょう」
と言った。純子は、
「は……はい……」
と気の抜けた返事をした。社長は、良に視線を移し、
「貴方は―――、こちらでどうかしら? 嫌なら稲取さんと本社でもいいですが」
と言った。純子と一緒に本社ということは、法学部か経済学部を出なければならないという事である。良はまた勉強か、と思い、
「見せてもらえますか?」
と言った。元々勉強は好きじゃない、ただアイドルを目指すことを認めさせる為にある程度の成績を維持して頑張っていただけなのである―――。社長は良を連れて社長室を出て、銀蔵、メイドと純子は残った―――。

社長は更に奥へと進み、一枚のドアを開けて入ると―――そこにはリングがあり、丁度二人の女の人が試合をする所だった。
「そういえば今日は新人戦だったわね」
社長はそう言い、陳腐な電光掲示板を指差した。そこには、

新人:生徒会長

とあった。良はその名前に度肝を抜かれ、対戦相手を見なかった。どこの高校なのかわからないがもし本当に生徒会長がレスラーをやっているなら正気とは思えない。
生徒会長を見ると、彼女は前髪を伸ばして目を覆い、長い髪を特にまとめもしないでいた。目を隠しているものの、他の部位から顔は可愛いのだろうと予想がついた。そして衣装である―――。体のラインを強調するシャツの上に可愛らしい上着を着て、フリルの可愛いピンクのミニスカートを穿き、スカートの下にはしっかりとスパッツをはいている。靴下、靴と見てみると高校生らしい紺の靴下に黒のスニーカーだった。
レフリーはボディチェックをした。良はレフリーがゴスロリ衣装だったので、生徒会長の格好と合わせてギャグというのか萌えプロレスというのか、そういう類のものかと思った。
しかし、試合が始まるとその考えは間違っていた事を思い知らされた。
「新人戦は新人がランク上位に位置する選手に洗礼を受ける試合よ。上位選手は如何に新人を叩きのめすか―――ですわ」
社長が説明した。

良はテレビや動画でプロレスというものを見ていた事があるので大体理解していた。確かに丸紫の地下リングで行われているのはプロレスだった。相手の技を受けて、そして返す。ロープに振ってはねかえって来た所を攻撃する。場外に落として鉄柵や椅子で攻撃する―――。
しかし何かが違う。良は、
「これが―――プロレス??」
と思わず聞いた。社長は良が何かを感じ取ったのに気付いた。
「ええ。プロレスよ」
と答えた。相手の技を受けてそれに耐えて返すという本質を追求しながら更にスポーツ競技性を高める。その為過酷だった―――。

前半は相手が先輩レスラーかつ上位のランクの選手らしくほぼ手玉に取るような感じで生徒会長を攻め続けた。大体、生徒会長の攻撃時間は2割から3割といった所だった。社長もその展開を見て、
「まあ新人戦はこんな感じだわ……。新人戦で新人が勝った事は今迄無いですから」
と良に説明した。良は場外に放り出されて仰向けに倒れ、足を押さえている生徒会長を遠巻きに見てゴクリと唾を飲み込んだ。
相手が生徒会長の髪を掴んで起こし、鉄柵に振った。そして生徒会長は鉄柵に背中から激突し、鉄柵は大きな音を鳴らし、生徒会長は苦しそうに歯を食い縛った―――。そして追い討ちを掛け、生徒会長が崩れると思ったその瞬間。
「グハァッ!!!」
一瞬の隙を突いて生徒会長の攻撃が入った。生徒会長は膝から崩れながら肘を相手の腹に入れていた。そして髪を掴んで反撃をしたら後はやりたい放題だった―――。
「な……!」
生徒会長は相手をリングに入れた後抱え上げ、膝に落として背中にダメージを与えた後、ジャーマンスープレックスを決めた。
「ワン、ツー、スリー」
相手は足を振り上げたが既に遅く、生徒会長が新人戦で勝利を飾った。
「これは驚きね……まさか、新人戦で新人勝利が出るとは……」
社長も全く予想できなかった生徒会長の勝利だった。生徒会長は勝利の名乗りを受けると、社長が見ている事に気付き、リングから下りて向かって来た。
「勝ちましたよ。私……勝つつもりでいましたから」
と笑顔で、いや、前髪が目に被さってて見えなかったので目付きは分からなかったが恐らく目も笑っていたのだろう。満面の笑みで言った。そして社長の隣に良が呆気に取られて立っていたのに気付いた。
「あれ……? 草薙……先輩??」
生徒会長は呟いた。良はその言葉で我に返った。
「え?? そうだけど?? あたしは……あんたとは会った事無いけど……」
良が返すと、生徒会長はニコッと笑い、フリルのミニスカートのポケットからゴムを取り出して髪を纏め、目を出した。少し太めの眉毛に大きな目で少し幼さが残るものの良は文句なしの可愛い顔だと思った。それからニコッと笑って、
「オーディション、見てましたよ」
と言った。良は、
「あの時……見てたんだ……」
と言った。生徒会長は、
「ふふっ……。あの曲凄く良かったね。笹山忍の曲歌って、それでここに来たなんて運命感じるな」
と言った。良は、
「きっと……運命だったんだよ……。でもゴメン、その事は忘れさせてくれないかな」
と生徒会長から顔を逸らせて言った。生徒会長は、
「うん、いいよ。忘れる」
と言った後、
「ここに入るの?」
と聞いた。良は、
「正直、試合始まるまでは、何だ萌えプロレスかって思ったけど―――、違ったんだね。だからやりたいと思った」
と答えた。それを聞いて社長は、
「そう―――。なら貴方を選手にしましょう。ルールは、折角ここで会ったんだから生徒会長に説明してもらいましょうか」
と言って2人に付いて来る様に言った。

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