百花繚乱
百合ひろし:作

■ 外伝-01章 偶像と現実の闇9

再び事務所―――。銀蔵とメイドと純子が待っていた。良は純子に、
「あたしは、ここでプロレスやるよ―――」
と言った。純子はコクリと頷いて、
「お互いに頑張ろうね」
と言った。社長は、
「稲取さんは、今から高校に入れるように編入試験の勉強をしなさい。先生は後で紹介します」
と言って銀蔵に純子を帰らせるように言った。良は、
「折角友達になったのに、何だか暫く会えそうに無いね」
と寂しそうに言ったが、それに対して純子は、
「そうだね。でも、お互い頑張ってそれから会おうね。それに、メールはいつでも出来るじゃん」
と精一杯の笑顔を見せた。そして銀蔵に連れられて帰って行った。これが純子の顔を見た最後だった―――今の所。

生徒会長は事務所に戻ってきた時には髪を解き、目を前髪で隠しているという闇のレスラーの姿に戻っていた。それから丸紫の闇プロレスのルールを説明した。
その時かえでと美里は事務所のドアが開いていたので、ドアの陰から生徒会長が楽しそうに良に丸紫の事を説明していたのを見た。
「誰かしら……? 美恵子があんなに楽しそうに」
「そうですね―――」
かえでと美里は生徒会長がここ、丸紫に入った初日から一緒に居た間柄だった。

良が新人戦をやる一週間前―――、たまたま事務所でかえでと生徒会長がテレビを見ていた。そこに社長も来た。見ていたのは普通の歌番組で、出てくる人は新曲をひっさげて出てきていた。ベテランの大物歌手から新人のバンド、そしてアイドルもだった―――。
良は息を切らせて事務所に飛び込んで来た。前情報として、7月のオーディションで選ばれた5人アイドルグループがデビュー曲を発表し、CDとダウンロード発売予定日も告知するという事だった。
「純子も見てる?」
良は携帯電話で純子と会話した。純子は、
「うん」
と返事した。会話は手短に済ませ、テレビを見た―――。
『では、新人の「ナイトメア」の皆さんデーす』
司会が言うと会場から歓声が沸き起こり、5人が出てきた―――。
「あたしと純子以外でも―――1人辞めたんだ」
良は呟いた。手をカタカタ震わせて悔しそうに―――。そしてもう一度画面を注視すると、
「4、8、7、1、3―――」
思わず呟いた。そう、センターからの順番である。やはりあの時、相当4番の人は『良い印象』を与えたのだろう。そして多分それから何度も犯されたに違いない。そして仕方なく体を許して印象もそれ程良くなかった1番と3番は二人とも端―――。

「今の数字はなんですの?」
かえでが聞いた。良は、
「オーディションでの番号―――いや、その後でやった打ち合わせって名の裏オーディションでの番号さ。あの糞プロデューサー、セックスで決めたんだよ。配置」
と悔しさを滲ませながら言った。かえでは今の良の言葉は本当であると思った。窃盗団のリーダーとして裏の世界を見て来ただけに人を見る目は確かだった。ただ一度の失敗を除いては―――。その失敗ゆえにここ、丸紫にいるのである。
「そう―――」
かえでは興味無さそうに返した。
テレビでは歌い終わった5人にインタビューしていた。4番の人は可愛らしいというより色気を振り撒き他の4人とは異質だったがそれが逆に斬新、と言葉を変えて巧くその不自然さを覆い隠し塗り替えてしまった。
「何かかえでに似てない?」
生徒会長がそのセンターの4番の人の事を楽しそうに言うとかえでは不機嫌そうに、
「失礼な……。私を―――草薙の言う通りなら売女じゃないの。一緒にしないで下さる?」
と言った。生徒会長はクスクスと笑った。良は、
『テレビでは身長高く見えるけど全員あたしより小さいよ。4番は160位だったかな』
と思った。
その後プロデューサーにマイクが向けられるとまた歓声が上がった。
「私も楽しみです。何処まで伸びるか―――。年末、実はカウントダウンもやりますから皆さん見に来て下さい」
プロデューサーが話すと再び歓声が上がった。それを聞いて良はギリッと歯を鳴らした。


あの場で―――、4番の人が犯される中プロデューサーはそれを見ながら高笑いをしていたのだ。
『プロデューサー、こいつ最高ですよ! 締まる締まる』
『ハッハッハッ』

同じ様に本社でテレビを見ていた純子も悔しさと悲しさを思い出して目を閉じて首を振った。もし自分がこんな事務所ではなくきちんとした所でオーディションを受けて受かっていたら自分がテレビで歌っていたのだ。しかしもう叶わない―――。この事務所とプロデューサーの影響力は大きい、どんなに上手でも二度とオーディションに合格しない様に他の健全な事務所含めて手が回っているのである―――。
良から話を聞いていた綾乃もテレビを見ていた。しかし、綾乃は良や純子とは違い当事者では無いのでこのグループ自体には特に何も思わなかったが、良の夢を奪ったプロデューサーや事務所に対しては不信感を持っていた。その為見たくは無かったが、他でもない良が見てくれと頼んできたので見ていたのである。

「どんなグルーブかは解ったわ。まあ―――貴方も稲取さんも、仮に巧いことやって一緒に歌ったとしても長くはいられなかったでしょうね」
社長はそう言ってナイトメアがプロデューサーと共に下がった後事務所から出ていった。
社長は良や純子と色々話していくうちに2人の性質を理解していた。良も純子もソロないしは2人組としてアイドルを目指すべきだったのだ。2人共アイドルになる事を焦り、自分の適性を考えなかった―――そして全てを棒に振ってしまった。もっともアイドルの低年齢化が進んでいるので、間も無く成人する良は勿論、中学を卒業した純子でさえも遅い位だから焦る気持ちは解るが―――という所だった。社長自身11歳でデビューしたのである。

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