百花繚乱
百合ひろし:作

■ 外伝-01章 偶像と現実の闇10

良の新人戦は散々だった。もっとも散々じゃない新人なんていなかったのだが、生徒会長が例外を作った。これは例外過ぎて参考にならないが。
それでも良は悔しかった。4ヶ月前に新人戦に勝った生徒会長に聞くと、
「草薙先輩は―――、軽いからじゃない?」
と言った。良は持久力には自信があった。アイドルとして2時間のコンサートに耐えられなければならない。つまり、踊りも含めてという意味である。その為の体造りは中学生の時からやって来た。しかし、相手の攻撃に対して力尽きてしまったのである、たった5分で―――。
良の持久力はマラソン選手的なものだった。しかし、丸紫で求められるのは相手の攻撃を受けても力尽きないもの、相手のプレッシャーを受けきれるだけの体力が必要なのである。それには良は細すぎた。生徒会長は後に美紗に対して、
『体重にこだわる限り私には勝てないよ』
と言うが、体のぶつかり合いをする以上はある程度の体重が居る事は解っていた。つまり適性値の範囲で体重をコントロールしてるのだからそれをとやかく言われる筋合いはないという事だった。良は適性値よりも軽すぎるという事である―――。
良は生徒会長のその言葉に納得したが、そんなにすぐに体重を増やせる筈ないし、細目の体型を維持していた事から体重を増やす事には少なからず抵抗があった。それを踏まえて生徒会長に相談すると、
「先輩は―――グラウンド向きだと思うなっ」
と笑って言った。良は今までは打撃、投げ、グラウンドとまんべんなくやっていたが、それを聞いてからはグラウンドを重点的にやるようになった。
そしてかえでとの試合―――。
かえでは良より身長体重共に一回り違う。その為かえでの打撃は良には重かった。良はその攻撃を受けながらもグラウンドを挑んだ。そしてかえでがドレスの重さから力尽き、良もかえでの打撃でダメージを受けすぎた為終盤は両者まともに動けなくなり、60分で引き分けになった。これは丸紫史上初の60分引き分けであり、現在でも未だにこれに続く引き分けは無い(30分でならある)。
こうやって紹介すると凄い試合をしたように感じるかも知れないが、新人の良と良より4ヶ月早く入っただけの新人のかえでである。両者共にランクは下位でフィニッシュ技も無く筋力も足りない―――。良い試合とは言えなかった。
もっともかえではこの後急速に中堅上位までランキングを駆け上がるのだが。


かえでが中堅に入り、良が下位の中での上位に上がった頃―――、良は丸紫に来て、更衣室で着替えた後練習室に向かった時―――、
「いだっ!!」
思い切り激突されて尻餅を着いた。良にぶつかってきた人は―――、かえでの部下の美里だった。しかし美里は良に謝りもせずにただ尻餅をついていた良を見下ろしていただけだった。良はその美里の態度に腹を立て、立ち上がるや否や美里の胸倉を掴んだ。
「ぶつかっといて何だよその態度!!」
美里はそれでも何も言わない。良は壁に美里の体を押し付けた。そこにかえでが来た。かえでは良が美里に対して暴行を働いているのを見て驚き、そして―――、
「草薙! 何やってるのよ。美里を離しなさい!」
と言って良に掴みかかって来た。良は、美里を離さずに、かえでに向かって、
「コイツがぶつかって来たくせに謝りもしないのが悪いんだ!」
と叫んだ。かえでは、
「後で私が注意するから直ぐに離しなさい!」
と言ったが良は、
「何でだよ! コイツが自分で謝ればいいじゃないかよ。それとも何か? コイツはあたしがこうすればあんたが出て来てその隙に逃げようとでも思ってたとでも言うのか?? とんだ腹黒女だコイツは!」
とまくし立てた。かえではその良の言葉に頭に血が上り、
パーン!
と平手を打った。美里を侮辱する事は許さない―――。
良は美里を離し頬を押さえた。美里はかえでの側に寄り添った。良は、
「かえで……あんたってそういうヤツだったんだ……。どっちが悪いかなんてどうでもいいのかよ」
と声を震わせて言った。かえでは我に返り、
「叩いた事は謝るわ。でも、そんな事したら、首絞めたりしたら美里が謝りたくても謝れないじゃないの。殺すつもりなのかしら……」
と言った後、美里に謝るように言った。美里は、
「ごめんなさい……」
と頭を下げた。ぶつかった事に関しては良は許したが、この件で元々それ程良い訳では無かったが良とかえでの仲は事実上決裂してしまった―――。それから二人は何かにつけて対立するようになった―――。

練習室―――。グラウンドで活路を見出そうとする良に生徒会長が近づく様になった。生徒会長は良がコーチから一つグラウンド技を教わると恐ろしい早さでものにした。それを目の当たりにして、
「草薙先輩。私にも教えて」
生徒会長はニコッと笑って言った。良は、
「ああ……、いいよ」
と言って教えた。すると生徒会長も飲み込みが早く、すぐに出来るようになった。この様にしてお互いに技を教え合い上達して行った。
かえでは生徒会長に練習を持ち掛けたが断られた事があった。
「草薙先輩とやるから―――」
という事だった。かえでは納得行かなかった。
「何で? 私じゃ駄目なの?」
と聞くと、生徒会長は、
「だって、かえではグラウンド系じゃないでしょ? それに草薙先輩のこと嫌ってるし」
と笑顔で答えた。かえではその答えに対して悔しそうに歯を食い縛って、
「解ったわよ……」
と答えるしか無かった。生徒会長は、
「明日は一緒にやろうよ。別に草薙先輩の事嫌いだからってかえでの事嫌いになったりなんかしないから―――」
とニコッと笑って答えた。生徒会長にとって良とかえでの不仲はある意味面白い事だった。それだけ二人の試合は激しくなるだろうと思ったから―――。この間みたいなグダグダな引き分けなんて面白くも何とも無い、という事だった。良に対する尊敬の気持ちが芽生え始めて来た事に気付いていたが、かえでも大切な友人―――、生徒会長は二人の事をそう思っていた。

良が勝った。そして中堅に上がった。その試合を見た生徒会長は、一緒に見ていたかえでに、
「草薙先輩、尊敬するな……。私、最初に先輩の事軽い、って言ったけどそれにめげずにああやって勝つんだもん」
とニコッと笑って言った。かえでは複雑な表情でそれを聞いた。そして、
「美恵子にとって―――私達は?」
と聞いた。明らかに嫉妬心からだったし、かえで自身それに気付いていた。生徒会長は、
「ふふっ。私がいつ、かえでの事尊敬出来ないって言ったかな?」
と言った。かえでは、
「ありがとう……嬉しいわ」
と言った。

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