百花繚乱
百合ひろし:作

■ 外伝-02章 部下の自立と頭の自律1

かえでが完全復帰してから暫く経った。かえではランキングが上がり、漸く悲願の上位に入った。
「おめでと」
生徒会長は電話で短くだがかえでを称え、美里も自分の事以上に喜んだ。
その後、かえでは社長に呼ばれた。社長室に入ると、
「早速ですが試合のカードよ」
と社長は説明した。かえでは長い髪をかきあげながら少し暑そうにして、
「誰ですの?」
と聞いた。社長は、
「香さんよ」
と答えた。かえでは驚きはしなかった。自分も香を常々標的にし、対戦の機会を狙っていたのだから―――。そう、"自分も"なのである。香は長い間上位にいる。上位のランクの人は自分よりも下の人全て、特に中堅の最上位から中位位までの人に標的にされるのである―――。
かえでは今まで長い間中堅の最上位という微妙な位置に居た。その為、上位を標的にしながらも中堅の上位、特にプルトニウム関東に標的にされていた。美貌と派手な衣装、そして威圧的な言動からであった。
しかし、上位に入るとほぼ全員に標的にされるようになり、更には上位同士での潰し合いもある。

かえでは社長室を出て廊下を歩いていると、香とすれちがった。お互い振り返り、睨み合いになった。かえでも香も両手を下ろしたまま、顔を向けて何も言わずに睨み合っていた。
プイッとお互い顔をそらし、それぞれ持ち場に急いだ。かえではその後何人かの中堅選手とすれ違ったが、誰も彼もがかえでに対して敵対心を向けて来た、―――亜湖を除いて。
「あなたは変わらないのね。周りは私が上位に入った途端に敵視してきてるのに」
かえでが言うと亜湖は、
「あ……はい。かえでさんのランキングで態度変えるのは……」
と答えた。かえではクスッと笑い、
「ふーん。で、目標はあくまでも美紗や香かしら?」
と意地悪い質問をした。亜湖は手を顔の前で振って、
「い、いえ。そんなこと無いです。かえでさんも目標ですよ……」
と答えた。かえでは亜湖のブラジャーの上から胸をツンとつついた。
「やっぱり貴方は変わっているわ。そこがいいんですけど」
そう言ってドレスを翻して亜湖の前から去った。亜湖は顔を赤くして両手で胸を覆っていた。下着姿なのだから―――。

かえではその後更衣室に行き、練習用のドレスに着替えた。それは木綿の生地で出来ている少々薄汚い感じのものだった。白の無地であるが、その白さが試合や普段に着ている物に比べて黄ばんでいて、所々ツギアテがしてあるからだった。それは、かえで自身がやっているのである―――。
かえではお嬢様を装ってはいるが、元々は貧乏人の子供でかつ捨てられ、施設とは名ばかりの施設に入った経験から一通りの事は出来る―――。いや、出来なければ生きていけないと言った方が正しかった。その為こうやって練習着は自分で直しているのである。勿論試合着や普段着のドレスは直した箇所が分からないように出来る高い技術を持った仕立て屋に持っていくが。
かえでは着替え終わると第一練習室に行った。そこにはトレーナーと美里がいた。美里はかえでを見るなり、
「かえで様―――。大事な話がしたいんです。練習終わったらいいですか?」
と言った。かえでは、
「いいわよ」
と答えた。そして二人はそのまま練習に入った。
上位に入るとトレーナーより選手の方が強い。これはかえでだけでは無く、かつての生徒会長や美紗、栄子、そして香もそうなのだが、各自色々工夫する。例えば美紗は男性に相手をさせた。香は力タイプと技タイプの二人が交代しながら相手する二対一形式でやったり―――等である。
かえでも基本はその様な形を取っていて、最近は美紗の男性コーチとやることもある。その時どうしてもついてこれない美里の事が気にはなっていた。
「かえで様。この間のタッグの時からずっと考えてました。私、シングルに復帰したいんです」
美里は練習後にかえでに打ち明けた。かえでは理由を聞いた。美里は、
「今の状況にずっと甘えてました。それがこの間のかえで様の怪我に繋がったと思うと―――。だから私が強くなってかえで様を支えたいんです……」
と言い、下を向いた。美里はかえでがシングルから外すように社長に直訴して以来ずっとタッグのみでいた。守ってくれるかえでに甘え、今までずっと来た。
今までは良かった―――。かえでが作戦を立ててその通りに、または相手に読まれたとしても修正しながら闘えば―――。
しかし、亜湖とさくらにあっさり負けてしまいそれが崩れると馬脚を現した。そこをプルトニウム関東と良に叩かれたのである。
タッグだから弱い方を狙うのが定石。それを逆手に取り毒霧やその他の技で仕留めるかえでの作戦とは反対に、良とプルトニウム関東はかえでを狙い、かえでを半殺しにしてしまったのだ。
何とか隙を見て逆転勝ちしたものの、かえでは骨折という大怪我を負い長期離脱してしまったのだった。美里はその原因は、守ってくれるかえでに甘えすぎた美里自身のせいだと思っていた。
「美里がそう思うならいいと思うわ。但し、強くなるのは私も一緒よ。美里独りじゃないわ」
かえではそう答えた。美里は、
「かえで様……ありがとうございます」
と頭を深々と下げて言った。

しかし、美里は丸紫に入ってから数試合しかシングルはしていない、かつ負け試合である。その為、シングルの試合の組み立て方は全くといっていい程解っていなかった。そこでかえでは一つ考えた。
シングル云々以前に美里に必要なのはかえでの力無しで勝つ事だった。その為、社長に自分が考えた事を言った。
暫くすると美里は社長に呼ばれた。
「貴方にはハンディキャップマッチをやって貰います。貴方がリーダーとなって新人二人と組みなさい」
社長は説明した。美里は、
「はい」
と返事をした。ハンディキャップマッチが丸紫では行われた前例は数例しか無かった。しかも、二対一とはいっても美紗や栄子が相手をしたので、レベルが違いすぎて、一人を戦闘不能にしてもう一人からピンフォールをするというパターンになっていた。
美里はそんな事は気にしなかったが、別の事で不安になった。新人二人と自分、合わせて三人チームになるのだが、相手はかえでなのではないか―――との不安があった。しかし、強固なパートナー同士の試合はたまにある。知ってる限りで古くは生徒会長対初代ポニー、生徒会長対かえで。最近では亜湖対さくらの試合をしていた。だからかえでとの試合も無いとは言えなかった。それにそうなったとしても、かえでが考えてくれてそうなったのだからそれは受け入れるべきだと考えていた。
「相手は亜湖さんですよ―――。三人で体力を奪ってみせなさい」
社長はそう告げた。新人二人も美里と同様かなり小柄な選手だった。生徒会長、美紗、香、亜湖達の様な期待の新人では無かった―――。その為大柄な亜湖を相手に指名した。

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