百花繚乱
百合ひろし:作

■ 外伝-02章 部下の自立と頭の自律4

その後良は、かえでがこの試合を提案した事も含めて試合の事等を細かく聞いた。かえでと美里の直接のやりとりに関しては美里は頑として答えなかったので分からなかったが、試合については詳しくわかった。美里と新人二人の合わせて三人対亜湖のハンディキャップマッチ―――。
「クククッ……、アッハハハハハッ」
良は美里が出て行った後大声で笑った。これはもう亜湖が負ける事、いや、亜湖に負けさせる事を前提に組んだ試合としか思えなかった。いくら美里達のランクが低くても亜湖は一対一以外では闘えない受けのスタイル―――。美里達にジワジワ体力を奪われるのは目に見えてる。
「あれ―――? だから三十分なのか? クソお嬢、考えたな」
良は気付いた。そう―――、ジワジワ奪うだけでは亜湖の体力は奪い切れない。それこそ三人とはいえ、攻撃力が足りずにこの間の香の様に攻め手を失ってしまい時間切れ―――。
「多分美里の奴、クソお嬢には絶対勝てとか言われたんだろうな。で、お嬢は時間を短くして条件を厳しくした―――と」
良はニヤリと笑い呟いた。

「オイ、エロ良。何企んでんだ?」
良の高笑いを聞いてプルトニウム関東が入って来た。良はバン、と壁を叩き、
「誰がエロだって?」
と返した。プルトニウム関東は、
「まあ何にしろ楽しげじゃんか。あたしも混ぜろよ」
と言った。良は、
「いいよ―――」
と答えて、美里のコーチを引き受けた事について説明した。プルトニウム関東はそれを聞いて、
「そりゃ面白れえ。どうコケたってあたし達が特じゃないかよ!」
と声を大にして言った。良は、
「でしょ? でしょ?」
と聞いた。プルトニウム関東は、
「お前にしちゃ考えたな! 最高だ」
と笑った。良は、
「お前にしちゃ、は余計だよ」
と笑った。暫くそこに二人の笑い声が響き渡っていた―――。


「草薙とプルトニウムに頼んだのね……。予想外だけど、悪い選択では無いわ―――」
廊下に出て更衣室に向かった良とプルトニウム関東の会話から、かえでは美里がこの二人にコーチを頼んだと判断した。そしてすれ違ったがかえでは無言のままだった。すると、
「オイ、クソお嬢かえで! 挨拶も無しかよ」
プルトニウム関東は無言ですれ違ったかえでにふっ掛けた。かえでは、
「人の事を糞呼ばわりするあなたみたいな品性、知性の欠片もない人にする挨拶なんて無いわ」
と返した。プルトニウム関東は、
「あれ〜、そんな事言っていいのかな? 大事な部下を血祭りにするぜ」
と挑発した。するとかえでは両腕を広げて掌を上に向け、首を傾げて心底呆れる仕草をした。そして、
「美里があなた達を選んだのは美里の意思よ。でも美里にコーチを頼まれたからって自分が好きに扱えるとでも思ってるのかしら?」
と聞いた。プルトニウム関東は、
「何なら試してみるか? お前こそ保護者面してるんじゃないか?」
と更に挑発を続けた。するとかえでは、
「あまり調子に乗らない方がいいわよ。美里に何かあったら只じゃおかないわ」
と闘気を全面に出してゆっくりと凄味を効かせて言った。良はその空気に耐えられず、かえでとプルトニウム関東の間に入り、両者を止めた。
「プルトニウム。無駄にかえでを挑発するなよ。かえでは後回し! 今は亜湖なんだから」
とプルトニウムを止めて、
「かえで―――。今は休戦だからあんたを謝らせるのは後、後。だから退いて」
とかえでを止めた。プルトニウム関東はかえでの闘気に押され掛けたが、良の介入で気を持ち直し、舌打をした。一方かえでは、
「草薙に免じて退くわ。ただ、美里に何かあったら許さないから……覚えておきなさい」
と言って練習室に入っていった―――。


美里達三人は良とプルトニウム関東に指導を受けながらグラウンド技を練習した。そして逆に掛けられたらロープに逃げる練習もした。
そしてダブルでキン肉バスターを掛ける練習を最後にやった。最初は体重の軽い良に掛けてみた。ダブルのブレーンバスターの様に右に立った人は左腕で良の首を極めて右手で良のズボンのベルトを掴み、左に立った人は逆に掴んだ。
「そこでベルトじゃなくて足を掴んで」
良が指示をし、それに従い足を掴んだ。
「持ち上げる!」
良の指示に従って持ち上げた。
「そこから尻餅!」
二人が指示に従って尻餅を着き、キン肉バスターが決まると良は声を上げて股間と腰を押さえながらのたうちまわった。
そして苦し気に、
「と、兎に角……、やり方は解ったでしょ?」
と聞いた。三人はコクリと頷いた。
「とりあえず、これからは落とすの無しで練習して」
良は股間を押さえたままフラフラと立ち上がって指示した。
美里達は三人がどんな組み合わせでもキン肉バスターを掛けられる様に練習した。そして次は良が足を取られない様に逃げてみた。その時は美里がフリーの状態だったので、良の足を動けなくして二人に足を掴みやすくした。

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