百花繚乱
百合ひろし:作

■ 外伝-02章 部下の自立と頭の自律5

一週間練習してみて―――、
「じゃ……、基本は恭子と好美が掛けることにしようか……私が試合の流れ見て合図するようにすればいいと思う」
色々練習してみて美里はそう感じたので、良とプルトニウムが席を外し、三人だけになった時に好美と恭子に言った。二人は納得して返事した。それから、
「でも合図はどうやるんですか?」
と恭子が聞いた。美里はナース服のポケットに手を入れてボール状のものを摘んで口に入れた。そして一回噛む様な仕草をした後、天井に向かって噴いた。毒霧だった―――。
「今のは緑だけど、合図は赤ね……だからフェイクで他の色も噴くから……」
と説明した。三対一なので亜湖に毒霧を浴びせる気は無いがこうやって毒霧を噴く事で、過去に毒霧の洗礼を受けた亜湖に毒霧を警戒させると同時に毒霧がキン肉バスターのサインである事に気付かせない様に考えた作戦だった。
美里の合図の後、キン肉バスターを仕掛けるが、持ち上げて落とす時、掛け声掛ければ亜湖が受ける心の準備をしてしまうのでそうさせないように抱えあげた二人が互いに膝で小突いたら落とす―――、という事で抱えあげる格好をして小突き、尻餅を着く練習をした。


試合の日が来た。美里、恭子、好美の三人対亜湖のハンディキャップマッチ―――。賭けの対象にもランクの変動の対象にもならないが、ネットでは放送される事になった。相手が亜湖だからである。
亜湖は控え目な性格ながら下着姿でありかつ、気絶して痙攣した時の嫌らしさから相当な人気だった。その為ただの消化試合にも関わらず放送される事になったのである。

亜湖の控え室―――。
「センパイ、頑張って下さい」
さくらが声を掛けた。亜湖は白のブラジャーとパンティを整え、黒の靴下を上げて糊でズリ落ちない様に固定した。それからさくらの方を向き、
「うん。兎に角時間は短いし三人は攻撃力低いから粘って、引き分けに持ってくよ」
と言った。亜湖はもう中堅の上位―――、プルトニウム関東と同じ位置にいる。昔とは違い、きちんと相手を調べそれに合わせた作戦を立てられる様になっていた。もっとも作戦といっても、どれだけ相手の技を受け続けて消耗させるか、に尽きるが―――。
美里達の欠点は攻撃力の低さと、勝った経験が極端に乏しい事。生徒会長に教えてもらう前の亜湖とさくらにある意味似ていた。しかし三人は小柄な体格のため、亜湖はもとよりさくらよりも遥かに少ない体力がその欠点を目立たせていた。亜湖は相手が三人だから自分は攻撃出来ないだろうし、また三人がいくら個々が体力が無いからといっても、交代する事によって攻め疲れる事は無いと見た。
ならば狙うは引き分けのみ、という事だった。


一方美里達の方は―――。
「じゃ、今までやった事を全て出し切って……20分で勝つよ……」
美里は円陣を組んで恭子と好美に言った。そして三人は中心に右手を差し出して合わせ気合いを入れた。
今までやって来た事はキン肉バスターだけではない。美里は握力は異常に強く、それだけならかえでや亜湖より強いのは勿論美紗にも迫る。かえでの指導でそうなったのである。それを活かした掴み技や三人でのコンビネーション、更には三人だから出来る派手な空中戦も練習していた。

美里達は挑戦者扱いで先に入場し、レフリーのメイドにボディチェックを受けた。
「今日は随分持ってるのね」
メイドが美里に言った。美里は胴体から足へチェックしているメイドを見て、
「はい……」
とだけ答えた。そして顔を上げるとリング下―――、一番後ろの列の壁に寄り掛り、腕を組んでかえでが立ってるのを見つけた。
「かえで様―――。必ず勝ちますから」
美里は呟いた。

それから亜湖が入場し、ボディチェックを受けた。いつもの事だが下着姿の亜湖のボディチェックはすぐに終わる―――。
「何かコメントは―――」
メイドが言うと亜湖は、
「ありません」
と答え、恭子と好美は亜湖に握手を求めた。亜湖は快く握手した。一方、コーナーに下がって寄り掛っていた美里はそれを見て、
ブッ
と天に向かって黄色の毒霧を吹いた。
「えっ?」
亜湖は軽く驚いた。美里が毒霧を誰に掛ける訳でもなく、いわゆるパフォーマンスに使ったからだった。
メイドはそれに合わせて右手を上げ、そして振り下ろして試合開始を告げた。

「あ、香」
事務所でモニター観戦している香は声を掛けられた。香は、
「草薙さん?」
と返した。香は練習の合間の休憩に入ってて、ポニーテールを解き、眼鏡を掛けていて、タオルで汗を拭っていた。良は、
「香はこの試合、どう見る?」
と聞いた。香は首を振って、
「何の為に組んだ試合か理解出来ないわ……。亜湖が粘って引き分けでしょうね」
と眼鏡を直して答えた。良はそれを聞いて安心した。美里達の対戦者である亜湖やパートナーのさくらは勿論、他の人達にもなるべく美里達の練習内容は知られない様にやって来たつもりだったので、香がこの様な予想をした事によって知られていない事を再確認出来て作戦の成功を予感した。
「ま、そんな詰まらなそうに言わなくても―――。多分面白い事になるよ」
良は言った。香は美里達がどう試合を面白くするのか想像が出来なかった。
「無理よ、あんな根暗な腰巾着の羽富じゃ―――。かえでがいないと何も出来ないわ」
と首を振った。良はそれを聞いて、練習内容どころかかえでと美里が別行動してる事すら知らないんだ、と思った。それならば好都合、美里チームが亜湖にキン肉バスター掛けた時の香の表情が見物だと思った。
「隣、座るよ」
良はそう断って香の隣の席に着いた。まさか"根暗な腰巾着"がそんな作戦を立ててるだなんて夢にも思わないだろうな、と思いながら―――。

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