百花繚乱
百合ひろし:作

■ 外伝-02章 部下の自立と頭の自律6

レフリーのメイドの合図の後ゴングが鳴り響いた。それと同時に亜湖と握手した新人二人は下がり、コーナーで毒霧を吹いた美里が素早く前に出て来て手四つに組んだ。亜湖は思わず振りほどき、仕切り直しとなった。
美里は右手の甲で口を拭き、もう一度亜湖に向かって突っ込んで行った。ガチッと音を立てて二人が手四つに組み合った。身長差が15センチ以上あるので美里は力負けして押し込まれた。
美里はロープに背中を着けたが、手四つをほどこうとしなかったので亜湖は美里の腕を解きそのまま掴んでロープに振った。美里は走って行き、ロープの反動を利用して亜湖に突っ込んで行った。亜湖は浴びせ蹴りを出し、美里の胸にヒットさせた。美里は勢い良く倒れ、そのまま転がって場外に逃げた。
「……痛ぅぅ」
美里は後頭部を押さえながら歩き、小さく声をあげた。亜湖は場外に追い掛けては来ないでリングの中央で美里が戻って来るのを待っていたので美里はゆっくりとサードロープを掴み、リングに戻った。そこを亜湖は捕まえて、美里の首をきめてナース服のベルトを掴んでロープ越しにブレーンバスターを決めた。
「あぐっ―――!」
美里は声が潰れそうな勢いで叩き付けられ、背中を押さえ、そのまま動けなかった。やはり、体格、体力の差は如何ともし難かった。
しかし、普段からかえでと、そして今回は良だけでなくプルトニウム関東とも練習したので重量級ないしは重量級と対戦している人の技を受け続けていたのでまだなんとか耐えられた。
「ワン、ツー」
亜湖がフォールに入ると美里は足を振り上げて返そうとしたが、その時恭子と好美がカットに入った。
「ああっ!」
亜湖が声を上げた。恭子と好美は普段はジャージ姿だが、試合では様々なコスプレをしていた。この試合では恭子はデの付く某ファミレス店員の、そして好美はスクール水着だった。そのコスプレの新人二人は亜湖の髪を掴んで起こし、ロープに振った。亜湖がそのまま走り、ロープの反動を利用して跳ね返って来ると、恭子と好美は正面からドロップキックを入れ、そして起き上がった美里は倒れた亜湖にエルボーを落とした。
「ああっ!」
亜湖は声を上げた。美里はそのまま亜湖の足を抱えてフォールした。
「ワン、ツー」
レフリーのカウントが入り、亜湖はいつもの様に正確にカウントツーで返した。美里は亜湖の髪を掴んで起こし、場外に振った。亜湖は場外に転落し、待っていた恭子と好美に捕まった。

「……」
丁度かえでの目の前―――とはいっても最後列なので数メートルは離れてるが―――で場外戦が始まったがかえでは表情ひとつ変えずに腕を組んで見ていた。一方事務所でモニター観戦している良と香もまあいつもの亜湖だな、といった感じだった。
亜湖は前半は殆んど攻めない―――。中堅上位に入った今でも、前半は相手のランクが低くても攻めさせる。亜湖は性格が大人しく攻撃が苦手な為になるべく攻撃無くして勝ちたいと思い、相手を疲れさせてから仕留める方法を採っている。それなのでハンディキャップマッチではあるが、美里達が攻撃しているのは当然の流れであり、特に驚く事は無かった。亜湖を滅茶苦茶にしたいという願望を抱き続ける香も、美里達がやってる攻撃は普通に過ぎないので何とも思わなかった。

美里達が試合を『盛り上げる技』を繰り出せば香は面白くないのだが。あくまで亜湖と対戦して、亜湖を滅茶苦茶にして盛り上げられるのは自分だけ、と思っているから―――。

恭子と好美は亜湖を鉄柵に振った。亜湖は鉄柵に走り、向きを変えて背中から激突し、
「あああーっ!」
と声を上げた。そこに間発置かずに美里が突っ込んで来て宙返りして背中で攻撃し、美里に続いて好美がラリアット、恭子がドロップキックをお見舞いした。亜湖は腰から崩れ落ちた。
美里は恭子と好美に、
「背中、向けさせて」
と指示した。二人は亜湖の髪を掴んで起こし、亜湖を前屈みにさせた。亜湖は右手で髪を掴む好美の手首を掴み、左手でパンティを直した。
美里は鉄柵の外から椅子を持ち出し、更にマットを剥がした。それから思い切り椅子で亜湖の背中を打ち付けた。
「あああーーっっ!」
その瞬間好美と恭子は亜湖を離したので亜湖は倒れて背中を押さえて声を上げた。
美里は、亜湖の髪を掴んで起こして抱え上げ、マットを剥がした床にボディスラムで投げつけた。
「―――!!」
亜湖は声にならない感じで背中を反らし、背中と腰を押さえた。美里は亜湖の髪を掴んで起こし、リングに入れて自分も戻った。そして、恭子と好美も自陣に戻った事を確認して、好美にタッチした。
好美は亜湖の髪を掴んで起こすと、間発入れずに亜湖の頬に平手打ちをした。その音は会場中に響き渡った。亜湖はバランスを崩し、左足を後ろに下げて何とか倒れずにいた。
パーン!
好美がそこにもう一発平手打ちをしたした。すると亜湖は好美の頬に一発平手打ちを返した。
ドォォン!
好美はそのまま真後ろに倒れた。そして小刻にピクピクと痙攣していた。
「よ、好美!」
恭子は好美が亜湖の平手打ち一発で気絶してしまったのをまの辺りにして驚いた。スク水姿の好美がリングの中央で大の字になって小刻みに痙攣しているのは下着姿の亜湖が大きくビクッ、ビクッと痙攣するのとはまた違う嫌らしさがあった―――。
レフリーは試合を止めて好美の回復に努めた。一方亜湖は自陣に戻り、右手でロープを掴み、左手で頬を押さえて中腰になって休んでいた。
亜湖は顔を張られたのでついカッとなって思い切り平手打ちをしてしまったと思った。体格が全く違うので亜湖の平手は好美には威力が有りすぎた。香、かえで、プルトニウム関東、栄子、そして美紗らと闘いそしてランクを上げてきた亜湖は攻撃力もかなりあった―――。ただ、亜湖がさっきも述べたように積極的には攻めて来ないだけだった。

レフリーが好美の回復を確認すると試合は再開された。亜湖は好美の髪を掴み起こすとすぐに抱え上げてボディスラムでリングに叩き付けその後エルボーを落とした。そしてフォールに行った。
「ワン、ツー、ス―――」
「ああっ!」
好美は全く動けなかったので危うくカウントスリーが入りそうになったが、美里と恭子がカットに入った。その後二人でストンピング攻撃をした。
それから美里は左手で亜湖の髪を掴み上半身だけ起こして恭子に背中を向けさせた。
『出来ればでいいからさ―――ブラは』
と、良が言ったのを思い出し、右手で亜湖のブラジャーのホックを指差し、
「ここ蹴って」
と指示した。恭子はステップを踏んでサッカーのフリーキックの要領で思い切り蹴飛ばした。
「あああっっ!」
亜湖は両拳を握り締めて目をきつく閉じて声を上げて耐えた。美里は仰向けに倒れようとする亜湖の髪を掴んで起こし、正面から蹴りを入れた。恭子がそれに続いて蹴りを入れる。二人でワンツーワンツーと蹴った。
亜湖は次々に繰り出される二人の蹴りを避けることも返す事も出来ず何発も受けて、耐えられなくなり後ろに倒れた。すかさず美里が馬乗りになり、亜湖の顔面を鷲掴みした。
「ああっ! ああああーっっ!」
亜湖は痛みに大声を上げ、美里の掴み技を振りほどこうと暴れたが、美里は離さなかった。そして恭子に好美とタッチするように指示した。
好美は漸く頭を起こした。恭子に自陣まで引きずられた。恭子は一旦リングから出てタッチをして直ぐにリングインした。そして美里の所に来ると美里は亜湖の顔面をかきむしり、解放した。
亜湖は両手で顔を押さえて足をバタつかせた。

「美里の握力はギブアップ取れる位はあるわ……流石に効いたでしょうね。その気になれば今の倍の時間は出来るわね―――」
かえでは腕を組んだまま呟いた。

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