百花繚乱
百合ひろし:作

■ 外伝-02章 部下の自立と頭の自律7

美里は亜湖の上体を起こさせて、先程恭子が見せた様なサッカーボールキックを決めた。
「あーーっっ!!」
亜湖は声を上げて耐え、仰向けになり、背中を押さえた。美里は素早く亜湖の右足を取り、恭子に左足を取るよう指示した。恭子は左足を取った。美里と恭子は亜湖の足を丁度三角を描く感じで開かせ、そして二人はそのまま左右に落とした―――股裂きである。
するとその瞬間、好美が飛び込んで来て亜湖のがら空きとなった股間にヘッドバッドを決めた。
「ああああっっ!!」
亜湖は股間を押さえてのたうちまわった。
「……!!」
まるでこの瞬間を狙っていたかの様な好美の追撃は美里も予想外だった。
恭子と好美は、美里がコーチを良に頼み、良が『キン肉バスターをやること』と条件を付けてきた事から、下着姿の亜湖に対してキン肉バスターを要求する位だから亜湖が恥ずかしい姿を晒す目に遭う事を望んでいるのは理解した。となると、キン肉バスタークラスの技をもう一つやるのは小柄な二人がやるには厳しかった。そこで二人は美里が居ない時に話し合い、美里も驚かせようと思った。話し合いの結果、何らかの形で亜湖が仰向けの体勢で足を開いていたら股間にヘッドバットという、体力を大して使わないでインパクトの高い攻撃にすることにした。つまり、今の美里と恭子の股裂きは絶妙のタイミングだった。二人が亜湖の足を掴んだ時にスタートを切りヘッドバットをしようと飛び込んだら、好美の飛び込みに気付かなかった美里と恭子は股裂きを決め、亜湖の足が丁度180度に開いた時に好美のヘッドバットがヒットした―――。という具合いで偶然だったが綺麗に決まった。

カタッ……。
事務所でモニター観戦している香は僅かに音を立て、両拳を握り締めた―――。亜湖やさくらは自分の玩具、他の人が亜湖やさくらで遊ぶなんて許せない―――、ましてやかえでの腰巾着で根暗な美里や、新人戦でボロ負けしてその後も全く勝利が見えて来ない無能な恭子や好美なんかに―――。
しかし、香は我に返った。隣で良が観戦している。最近良は精神的に香を揺さぶって来るようになってきたので、ここで動揺すれば間違いなくつけ込まれる―――。いや、新たにつけ入る隙を探す為にわざわざ亜湖の試合に合わせて香を探し、香の隣で観戦しているのだ、と香は推測し、落ち着きを取り戻したのだった。

良の目的は香の思った通りだったが、良はこの香の動揺には気付かなかった。何故なら、亜湖を辱める為に美里達のコーチを引き受けたが、今の好美のヘッドバットは全くの想定範囲外で、思わぬものを見て思わず立ち上がって画面を見入ってしまった為、香の僅かな隙を見る事は無かったのである―――。


美里は亜湖の髪を掴んで起こした。亜湖は右手で股間を押さえ、左手で涙を拭いた。美里が亜湖をコーナーに振ると亜湖は振り返し、美里はコーナーに勢い良く背中から叩き付けられた。亜湖は直ぐにコーナーにもたれる美里にラリアットを決めた。美里は腰から崩れ落ち、両足を前に投げ出した。ナース服からピンクのパンティが丸見えになった。
亜湖は右手でパンティを直し美里の髪を掴もうとした時、背中に激痛が走った。
「あああっ!」
亜湖は声を上げて背中を押さえた。恭子と好美は後ろから亜湖の髪を掴んで顔面をコーナーに叩き付けた。亜湖は右腕で顔面をかばったが、ダメージを受けて美里の隣に倒れ込んだ。美里は背中を押さえて軽く首を振った。それから自分の太股に乗っかってる亜湖の足を退けてから片膝を立てて、それからロープを掴んで立ち上がった。その際ピンクのパンティが丸見えになり、その様な状態である事には気付いたが、美里は全く気にする素振りは見せなかった。
スカートを直し、シニヨンにまとめた髪が崩れていないか気にしてから亜湖の足を取ってリングの中央まで引きずった。それから太股にエルボーを二回落とし、更に足を取ってエルボーを入れた所と同じ所に蹴りを入れた。
「ああっ!!」
亜湖は美里の攻撃に声を上げて耐え、右足を上げて膝を曲げ蹴られた所を押さえた。
美里はそのまま自陣に下がり、中腰になって背中を押さえた―――。そう、試合権利は美里ではなく恭子にある。

美里達は勝った経験が乏しく、しかもこの三人タッグは急遽こしらえたタッグの為、攻めがチグハグである。その為、攻めが苦手な亜湖に三対一ながら反撃を時々許している。もしこれが一対一だったらバックドロップの餌食になってるかも知れない。
美里は最初に食らった亜湖の攻撃、そして今の反撃の重さを考えてそう思った―――。
美里はポケットから毒霧の元を取り出して口に入れて上に向かって吹いた。色は緑―――。兎に角亜湖の重い攻撃を受けてダメージを受けた自分に気合いを入れる為に吹いた。そして、ロープに寄りかかって恭子を見守った。

恭子は四の字固めを決めた。亜湖は両手で顔を押さえながら首を左右に振り、声を上げて耐えた。痛い事は痛いが耐えられない程ではない―――。恭子の四の字はまだ完全では無かった。
亜湖は上体を起こし、恭子に平手を入れようとしたが、恭子が避けたはずみで四の字固めが完全に入ってしまった。
「ああああっ! あああーっっ!!」
亜湖は痛みのあまりバタバタ暴れて大声を出した。そして、暴れてるうちに体が移動し、腕がロープに掛ったのでしっかりと握り、
「あああっっ! ロ、ロープっ!」
と叫んだ。レフリーはすぐさま恭子に四の字を解かせた。恭子は亜湖をリング中央まで引きずり膝にストンピングを入れ、今度は膝固めを入れた。
「あああーーっ!」
亜湖は声を上げ、恭子を引きずり、ロープブレイクした。恭子は素早く解き、亜湖をリング中央に引きずり、髪を掴んで上半身を起こした。亜湖のブラジャーのホックが目についたので、さっきの美里の指示を思い出し、思い切りサッカーボールキックをし、亜湖に倒れる間を与えず、右後ろからドラゴンスリーパーを決めた。亜湖は空いた左手でギブアップの意思が無い事をレフリーに示した。
恭子は時々絞め上げたが亜湖は左手を振ったりしてそれなりに余裕がある感じだった。好美は恭子に、
「完全に絞まって無い、ってか無理!」
と声を掛けた。恭子はそれを聞いてドラゴンスリーパーを解き、亜湖の背中に蹴りを入れてから髪を掴んで起こした。
亜湖の頭を上げさせてしまうと反撃されるので、亜湖を前屈みに押さえ付けたままブルドッキングヘッドロックに行こうとした。すると美里が出て来て亜湖の頭が上がらない様に押さえ付けながら、
「ダメ。後ろに投げられるよ」
と耳打ちして自陣に戻り、コーナーに登った。恭子はそれを見て亜湖の首を正面からきめ直した。また、好美は逆側のコーナーに登った。
亜湖は恭子に首を決められたまま動けず、前屈みで背中ががら空きの体勢で立っていた。美里はその亜湖の背中に向かってトップロープから宙返りして背中で攻撃した。続いて好美が逆サイドのトップロープからギロチンドロップの体勢で飛び込み背中に攻撃した。恭子は好美の攻撃が決まると亜湖を離した。亜湖は伸びをする感じで両手で背中を押さえ、歯を食い縛った。
三人は体勢を整えて三方からドロップキックを決めた。亜湖はふらつきながらもそれでも倒れなかったので今度は三人でサンドイッチラリアットを決めた。バチン!! という物凄い音と同時に亜湖の汗が飛び散った。そして亜湖は後ろに崩れる様に倒れて、大の字になった―――。

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