百花繚乱
百合ひろし:作

■ 外伝-02章 部下の自立と頭の自律8

試合時間は10分を超えた。亜湖の体は汗びっしょりになっていて、激しい呼吸に合わせて胸が上下していた。
三人は自陣に戻り、恭子は美里にタッチし、美里がリング内に入った。いや、これだけダブル、トリプルの攻撃をしていれば、リング内に『戻った』という表現が正しいかも知れない―――。
美里は亜湖の髪を掴んだが亜湖は起き上がらなかったので一回ギロチンドロップを入れた。

「あぐっ!」
亜湖は声を上げ、ギロチンドロップの反動で足と腰が少し浮いて落ちた。美里は亜湖の右足を抱え、片海老固めでフォールした。
「ワン、ツー」
レフリーのカウントが入った。亜湖は足を振り上げ、振り下ろして正確にカウントツーで返した。
美里は直ぐに亜湖に馬乗りになり、さっきと同じ様に顔面を鷲掴みした。
「ああああーっ!! あああっ! あーーっっ!」
亜湖は美里の手を振りほどこうと美里の手首を掴んで暴れたが美里は離さなかった。亜湖は直接離させる事は諦め、なんとか顔面鷲掴みから逃れようと手を伸ばして美里の髪を掴み、引っ張ったり揺すったりした。
「痛ぅぅ―――」
美里はうめき、両手に力を更に入れた。亜湖は思わず手を離してしまったので美里は顔面かきむしりを最後にして亜湖から離れた。それからヘッドバットを入れた。
「ああーっ!!」
亜湖は額から頭を押さえてころげ回った。美里は倒れてる亜湖に低空ドロップキックを入れ、場外に叩き落とした。
「……凄い体力」
美里は手の甲で額の汗を拭い、ナース服の腰の部分で拭いた。美里も相当汗をかき、ナース服の背中に汗が染み出て来てブラジャーが透け始めて来た。もっとも生地がそれなりに厚いので香の体操服程では無いが―――。
美里は靴下を直し、場外に降りて恭子と好美に指示した。二人も降りてきた。美里は亜湖を持ち上げてボディスラムを決めた。そして声を上げる亜湖を起こし、鉄柵に振った。亜湖は美里を振り返し、美里は向きを変え背中から激突し、
「あぐうっ!」
と声を上げ、腰から崩れ落ちて足を前に投げ出した。やはり亜湖の反撃は一発一発が重いし、今の様に打撃では無くとも強引に振られたら従うしかない―――。美里と亜湖の差はそれ位あった。
しかし、その後亜湖は恭子と好美に捕まり、鉄柵の外の机に顔面を叩き付けられ、背中ががら空きになった所に二人は椅子攻撃をお見舞いした。更に二人で亜湖を持ち上げて机にボディスラムをした。
亜湖は鉄柵に片足を引っ掛けてもう片足は机の外に投げ出し、背中を反らして背中と腰を押さえた。顔は完全に顎が上がり、机に頭のてっぺんがついていた。つまり頭のてっぺんと腰で体を支えながら背中をそらしていた―――。
亜湖は技を受けるだけでなく時々返すが多数に無勢、すぐに別の人に捕まりこの様に再び守勢に回ってしまう。かといって一気に勝負をかけてバックドロップには行けない。というのは、バックドロップを仕掛けは相手の脇の下に頭を入れる関係で視界が殆んど塞がる事で仕掛けた相手以外のパートナーの動きを殆んど見る事が出来ず、相手の胴をクラッチして投げに行く間にパートナーに攻撃されてしまうからだった。
美里はかえでを見た。かえでが立っている所は薄暗く表情はあまり良く見えなかったが、美里達が優位に進めているので満足そうにしてる感じはした。


「もうすぐ15分よ。どうする? 美里―――。亜湖はまだまだ余裕あるわ」
かえでは呟いた。そう―――亜湖はまだ気絶・痙攣していないし、カウントツーで正確に返している。
「亜湖からスリーカウント取るには後半の闘い方が重要よ―――」
かえでは続けて言った。勿論美里には聞こえてないが―――。
亜湖が中堅の中位に上がったのは香を倒したから、そしてそこから上位に上がったのはプルトニウム関東を倒したから―――。どちらも亜湖の粘りにペースを狂わされ、今日の自分では亜湖には勝てないのではないのか、と思うようになってしまい、攻め手を失い力尽きて亜湖のバックドロップ の餌食になった。
今回は三対一なので余程のミスをしない限り美里達の負けはない。しかし、今のままではかつて負けた香やプルトニウム関東の様に攻め手を失い時間切れ引き分けになってしまうのは明らかだった。

15分経過の放送が入った。かえではもう一度呟いた。
「ここからどう攻める―――? 美里」
かえではドレスやゴスロリ衣装で闘う為体力の消耗が激しい。そんなかえでといつも一緒に練習して来た美里―――。どうやって亜湖を崩すか? 答えはいつもやっている練習にこそある、かえではそれに美里がいつ気付くか、と思っていた。
美里は何も考えずかえでに従って来たし、タッグ専門に甘んじて来た為ランクは低い。
「あなたの体には何年も積み重ねて来たものがあるわ―――。早く気付きなさい」
かえでは言った。美里は実際に結果を出していないので自信が無いだけで、積み重ねて来たものを信じれば三対一のこの試合では勝利はすぐそばの手に届く所にぶら下がっているのである―――。


美里は二人に指示して亜湖を場外鉄柵の中に戻した。亜湖は髪を掴まれて頭を下げさせられていた。亜湖はパンティを直した。美里はそれを見て亜湖の後頭部に肘を入れリングに登り、宙返りで亜湖の背中を攻撃した。亜湖は崩れ落ちてうつ伏せになった。
「ここから崩すよ……」
美里はすぐに起き上がり、亜湖の声の出方から畳み掛ける決断をした。
亜湖の頭を股に挟み胴をクラッチした。だだ、このまま技の掛け合いになれば100%亜湖が美里を後ろに放り投げる―――。その為、美里は恭子と好美に指示を出し二人は亜湖の背中に交代で攻撃をした。そして亜湖の踏ん張る力が弱まった隙に美里は亜湖を逆さまに持ち上げた。亜湖は暴れる事で美里が手を離してしまい、床のマットに脳天を打ち付けたりしないよう、持ち上げられた後は大人しく天井に向かって足を伸ばした。
美里は亜湖の足が真っ直ぐに伸び、恭子が亜湖の右足、好美が左足を掴み、固めたのを見計らって、
ゴスン

と三人合体パイルドライバーを決めた。亜湖は横にゆっくりと崩れ落ち横向きに倒れた。美里は立ち上がり亜湖を見下ろした。亜湖は気絶し痙攣していたので美里は亜湖の肩を蹴飛ばして仰向けにしすぐに体一つ分離れ、亜湖を見下ろした。レフリーがすぐに下りて来て試合を一時中断した。


「セ―――センパイっ!!」
控え室のモニターで試合観戦していたさくらは叫んだ。一方事務所で試合を観戦している良と香はお互いに牽制しあった。
「羽富だってやれば出来るみたいだね」
良が言うと香は、
「だから何?」
と返した。良は、
「亜湖の気絶・痙攣姿はみんなのもの―――って所かな?」
とニヤリと笑って言った。香は、
「好きにしたら?」
と答えた。しかし内心は―――、穏やかでは無かった。自分の楽しみを横取りした美里には後できついお灸を据えてやりたい、かえでを目茶苦茶にするといった美里自身に攻撃するのではなく精神的に強烈な打撃を与えてやるという方法で―――。
良は香の返事を聞いて、
「好きにさせてもらうよ」
と言って心の中で笑った。美里達がキン肉バスターを決めた時の香の顔が見物である―――。それを考えると声に出して笑いそうになったが、それは何とか抑えた。今笑ってしまったら全てが台無しである―――。


かえではレフリーが下りてきて試合が中断された事で亜湖が気絶したと理解した。かえでの位置からでは椅子や机が邪魔で床に転がる亜湖の姿は全く見えなかった。美里、恭子、好美の見下ろす視線の先で亜湖は痙攣してるんだろうな―――。位に思っていた。


亜湖は仰向けで顔は横を向いた状態で大の字になっていた。顔にはボサボサに乱れたボブカットの髪が被さり表情は見えなかった。腰を中心に大きくビクッ、ビクッと痙攣していた。
場外なのでリング上で痙攣した時の様に足の方から股間を映す超ローアングルは出来ないが、その分臍から膝までが入る様に斜めに映したり、前に付いてるリボンの細かい折り目やサイドの可愛い模様もはっきり映る様にバッチリとピント合わせをして白いパンティ姿で痙攣するいやらしさを強調していた。
レフリーが亜湖の手を握りながら回復を図っていてしかも場外なのでカメラの位置がうまく取れず、胸は映せなかった。普段だと腰から遅れて胸が揺れるのも収めるがこの時はレフリーが覆い被さる様な体勢でいた。

「メイド空気読めよ」
良は悪態をついた。

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