百花繚乱
百合ひろし:作

■ 外伝-02章 部下の自立と頭の自律10

美里は亜湖の髪を掴んだ。亜湖はなかなか起き上がれず、美里はより強く亜湖の髪を引っ張った。亜湖は股間を押さえていた右手をマットについてゆっくりと起き上がり、その後両手で腰を押さえながらフラフラしていた。美里は亜湖の手を腰から引き剥がし、その腰に蹴りを2発入れ、更に前から一発蹴りを入れ、次にロープに振り、亜湖が何とか跳ね返ってきた所にドロップキックを入れた。亜湖が倒れるとそこにギロチンドロップを入れ、もう一度髪を掴んで起こした。
それからコーナーに振ると亜湖はフラフラとコーナーに走り、背中から激突した。そこにすかさず美里は体全体をぶつけて行った。亜湖はまともに食らい、腰から崩れ落ちた―――。
流石にキン肉バスターは効いた様だった。今迄は三人にどんな攻撃を受けてもこんなにフラフラにはならなかったが合体パイルドライバーとダブルキン肉バスターで、ごっそりと体力を奪われてしまった。いくらしぶとい亜湖でもこれらの攻撃は相当堪えた―――。
美里は亜湖の髪を掴んで起こした。亜湖はセカンドロープを掴みながら何とか片足ずつ立ち上がった。しかし、もう足に力が入っていない―――。美里がフェイスクラッシャーをすると、あっけなく食らい両手で顔を押さえ、仰向けになった。美里がフォールに行くと、
「ワン、ツー、ス……」
とカウントスリーが入りそうになった所で亜湖は何とか返した。美里は亜湖の髪を掴んで起こした。
「かえで様……、ここで決めます……」
美里は呟き、亜湖の股間に右腕を入れ担ぎ上げた。亜湖は美里の腕が股間に当たるのに対して苦痛の表情を浮かべた。まだキン肉バスターのダメージがたっぷり残ってるので、何かが当たれば激痛が走るのであった。
美里は自分より遥かに大柄な亜湖を持ち上げてコーナーに向かって走った。そしてサードロープに乗り、そのままパワースラムを仕掛けた。

ドォォォン!

リングに叩き付ける音が鳴り響き、美里はそのまま亜湖を片海老に固めた。かえで式パワースラム、これが美里のフィニッシュ技であった―――。
「ワン、ツー」
レフリーのカウントが入った。亜湖は足を振り上げ、何とか返そうとしたが、
「スリー」
と無情にもカウントはスリーまで入ってしまった。その後足を振り下ろしたが遅かった―――。
美里はカウントスリーを聞いて飛び上がり、
「かえで様……! 勝ちました……」
と言った。そして恭子と好美の二人と三人で抱き合い勝利を喜んだ。それからかえでの方を見ると、かえでは腕を組んでいたのを解いて両手を下ろしていた―――。

「美里―――、良くやったわ。ハンディキャップだったけど、ね」
かえでは呟いた。美里が手段を考え教わるコーチを選び、それで得た勝利なのだ。かえでに唯付いてきた今迄とは全く違う勝利に心から喜び、労った。もっともキン肉バスターは想定範囲外だったが……。そしてリングに向かって歩いた。美里はかえでの方をじっと見つめ、目が合った。かえでは、
「おめでとう―――」
かえでは美里に向かってそれだけ言い、リングに登った。そしてリング内に入ると、美里はかえでに抱きつき、
「かえで様―――! 勝ちました。勝ちました……。嬉しいです……。私達で考えて……、亜湖を崩して、倒しました……」
とドレスに顔を埋めて泣きじゃくる様に言った。かえでは美里を抱き締めて頭を撫でてやり、
「良くやったわ―――、自分で考えてやる事がどれだけ大事か解ったでしょう……。シングルやるならそれを知って欲しかったのよ」
と言った。そして新人二人にも、
「貴方達も良くやったわ、おめでとう。今度はハンディキャップじゃなくて、この経験を活かしてひかり、草薙やさくら辺りを目標にしなさい」
と労いそしてアドバイスをした。恭子と好美は、
「はいっ」
と元気に返事した後、二人でボソボソ話し合った後、
「私達もかえでさん、いや、かえで様のチームに入れてもらえないでしょうか?」
と頭を下げた。かえでは、
「いいわよ。ここ、丸紫は一匹狼の場所―――。でも四人でチーム組むのも悪くは無いでしょう」
と快諾した。こうしてかえでと美里の二人だけだったチームは四人になった―――。

亜湖はかえでと美里、そして恭子と好美が喜び合っている所でようやく起きた。そしてパンティを直した後股間を押さえながら立ち上がり、
「う……くっ」
と声を上げ、涙が出て来るのを堪えた。キン肉バスターのダメージだけではない、引き分けに持って行く予定だったのに負けてしまった悔しさがあったからだった。
かえで達には目を合わせずに痛めた腰や股間をかばいながらゆっくりとリングから下りて控え室に戻った。するとそこにはさくらが待っていた。
「センパイ……」
さくらは最初の一言はそれしか言えなかった。さくらは悔しさを滲ませた表情で亜湖を見つめていた―――。
「病院……行きましょう……よ」
さくらは言った。亜湖は、
「うん……。ごめんね……」
と謝り、膝に手をついて中腰になり首を振った―――。

香にとっては悪夢だった。亜湖が美里達に気絶、キン肉バスター、そして敗北とやりたい放題やられてしまった事。そして事もあろうにその指示をしたのは良―――。香は亜湖の敗戦を立ったまま見届けると椅子に座り直して両手で顔を覆った。
「何―――負けてるのよ……信じられない」
ブツブツ呟いた後両手を離して顔を上げ、
「みんな―――潰してやるわ」
と言ってゆっくりと立ち上がり、良を睨み付けた。美里にキン肉バスターをやるように吹き込んだ良、実際にやった美里と新人二人のチーム、そして美里の頭であるかえで、そして術中に嵌り敗北した亜湖―――。全員潰さなければ収まらない怒りに燃えていた。良は、
「アハハッ。あたしだって前のあたしとは違うよ。簡単に行くとは思わない事だね」
と返した。香は何も言わずに事務所を出た。闘気全開である―――。良はこれから面白い事が起こりそうだと思ってついて行った。

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