百花繚乱
百合ひろし:作

■ 外伝-02章 部下の自立と頭の自律11

香は美紗とすれ違った。睨み合いになったが、香の対象は今は美紗ではない為すぐにお互いに目をそらした。美紗は香の目付きから自分は対象外だとすぐに気付いた。
「あたし以外にそれを誰に向けるんだ? かえでか? エーコさんか?」
美紗が聞くと香は、
「貴方は後回しよ。今は沢山居すぎて答えきれないわ」
と答えて別れた。その後タイミング良くと言うべきか―――、かえでチームが控え室から出て来た。美里は香の後ろからついてきている良に向かって、
「お陰で勝てました……ありがとうございます」
と駆け寄り礼を言って頭を下げた。良は、
「また敵同士に戻るけど、あたしもたっぷり"楽しめた"から礼を言うよ」
と言った。香は会話に割って入り、
「何和んでるのよ」
と言って良と美里を睨み付け、更にはかえでにも矛先を向けた。かえではそれに応戦する構えを見せ、二人は何も言葉を交さずただ睨み合いをしていた。そして暫くして香が口を開いた。
「あなたも羽富も潰してやるわ……覚えてなさい」
かえでは、
「何の事で怒ってるのか解らないけど、そういう事なら私も貴方を潰してやりたいわ。この前侮辱してくれたしね―――」
と返した。それに合わせる様に美里と恭子、好美がかえでを囲むようにかばった。香はそれを見てフッと笑い、
「腰巾着を増やしたのね。あなたって化粧にドレス、腰巾着―――。本当に自分を飾らないと何も出来ないのね。そういう人に限って中身が無いわよね」
と挑発した。かえではドレスは勿論、そればかりか大切な美里と新たに部下になった二人をネタに馬鹿にされ、頭に血が登ったが、部下三人の前で醜態を晒す訳には行かなかったので堪えて、
「基が無ければいくら飾っても何にも無いわ。国大行っててそんな事も解らないのかしら」
と返した。香はそれには直接返さずに、
「お嬢というより女王様ね―――。まあ精々女王様振ってなさい。三人にはかえでが如何に見せかけだけなのか思い知らせてやるわ。それから一人ずつ叩き潰してやるわよ」
と言った。かえでは、
「そのつもりならいつやりましょうか―――。貴方いい気になり過ぎじゃないのかしら。やれるものならやってご覧なさい」
と返した。二人は間に人一人しか入れない位の距離でお互い言い合った。香は、
「そうね、ここは丸紫―――。勝った方が正しいわ。口で言い合っても無意味よね」
と言った。香は満足した―――。同じ上位とは言え、その中でランクの低いかえでの方から試合する、なんて言って来たという事は香は自分のペースに持ち込めた事を確信した―――。


と、そこに亜湖とさくらが来た―――、というよりシャワー室に向かおうとしていただけだったが―――。
良は口に手を当てて笑いを堪えていた。香とかえでが非常に険悪な状態になってる所に亜湖とさくらが来れば何が起こるか解らないからだった。まあ何が起こるにしろ良にとっては面白い事になりそうな感じだった。

「お疲れ様」
かえでは亜湖に声を掛けた。亜湖は、
「いえ……、ありがとうございます」
と何と返せばいいのか解らずつっかえ気味になりながら答えた。一方さくらは、部下の美里達が亜湖をこんな目に合わせたのによくもかえでは声を掛けてこれる、と思ったが、試合をお願いしたのはかえでで亜湖はそれを受けた事―――。そしてかえでがさくらに、美里がコーチを頼んできたら引き受けるように頼んで来た事を思い出しつっかかる事を思い止まった。そう―――この闘い方はかえでも予測していなかったのである。
しかし、美里が指示をしながら試合を進めていたのは事実―――。その為美里をキッと睨み付けた。今までの美里ならば、かえでの影に隠れる―――までは行かないが、横にくっついてかえでと一緒に睨み付ける感じだった。
しかし、美里は変わった―――。かえでの前に進み出てさくらとの睨み合いに応じた。美里自身タッグ戦でさくらに負けている。その借りは返さなければならなかった。
「かえで様の言うように次はさくら……あなたの番。シングルで倒す……」
美里はさくらをしっかりと見据えて宣戦布告した。さくらは、
「望む所です。センパイが受けた屈辱、倍にして返すから」
と答えた―――。

香とかえで、そして美里とさくら―――、とそれぞれがまたぶつかる。それが実現するのは一ヶ月半後になった―――。

亜湖はダメージが多かった為大事を見て二ヶ月は試合を組まず、復帰戦はプルトニウム関東との試合になった。ダメージ回復とプルトニウム対策として生徒会長に来てもらう回数を増やした。その時はかえでも付き合いで一緒に練習した。
かえでは今までと同じ様に美里と二人で一緒に行動する様になり一見前に戻った感じがするが、今までとは違い、美里がかえでに提案したりする様に変わった―――。かえではそれを嬉しく思った。そして美里の成長や部下が増えたのに合わせて自分も成長しなければと更に強く思い、生徒会長と激しい練習をしたり美紗にコーチを借りて練習したりした。対香を想定して様々な状況からポニードライバーに入ってもらって返す、ということもやった―――。美紗の男性コーチ相手ではまず返せなかったが。
美里はさくら対策の為、時々かえでと別メニューで練習した。そう、かえでが生徒会長と一緒に亜湖を指導している時である―――。当然さくらもその場に居るので美里もついていくのはおかしいし、手の内を晒すことになる。そうならないように、他の人にコーチしてもらい対策を立てているのである。
良はプルトニウム関東と一緒に行動しているが、時々美紗の所へ行き香やかえで対策を立てた。香は全員潰すと言っていたがそれは良も同じ―――。実際に表を作ってチェックするのを始めたり、新たなコーチを探して、得意なグラウンドの技術を伸ばして行くようにした。
香はかえで、良、そして亜湖の対策をする為に生徒会長にかつて言われた事、美紗対策して全て制した気になってる、と言われてから元々持ってるセンスを活かしたテクニックを磨くようにもなった。そして普段のコーチを増やして力、技それぞれを鍛えた。
さくらは美里対策―――、自分より遥かに小柄な選手相手にどう闘うかを洋子と研究し、攻めと守りと両方を強化する練習した。そして中堅の中位に入る事を目指した。その仕上げとして亜湖との対戦を望み、亜湖もプルトニウム関東戦の一ヶ月後にということで了承した。初めて対戦してから、またやりたいと言ったがそれが叶う形になった。

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