母はアイドル
木暮香瑠:作

■ 妄想を誘う肢体2

「どお? 美味しい?」
 まさみは、耕平の顔を覗きこんだ。下から見上げるように、腰を折り上半身を低くする。上半身を折り曲げた姿勢は、重力の手助けもあり胸をより大きく見せた。その胸が耕平の目の前にあるのだ。耕平の視線は、どうしてもまさみの胸に向かってしまう。
「美味しいもないだろ? ただ野菜を切って、ドレッシング掛けただけじゃねえか」
「そりゃあ、そうだけど……。ちょっとは褒めて欲しいな」
 耕平には、まさみの声もBGMとしか届いていなかった。
(オヤジに揉まれて大きくなったのか?)
 卑猥な妄想が頭の中を駆け巡る。
(結婚するんだもんな。何も問題があるわけじゃないんだ、Hしても……)
 結婚を認めたわけじゃないが、同居を始めたという事実は拭い去れない。現に星野奈緒が、目の前にいる。
(オヤジとヤッてるのかな? セックスを……。親父に揉まれて大きくなったんだろうか……、あんなに……。オヤジのザーメンを浴びてこんなに色っぽいスタイルになったんだろうか)
 次々と卑猥な妄想が浮かんでくる。
(結婚するんだもんナ、オヤジとこの娘……。ヤッていて当たり前なんだ。男と女だもんナ……)
 言葉では結婚は認めないと言っているのに、心の奥に父親と奈緒の関係を認める自分がいた。

「やだあ、どこ見てんの? 恥ずかしい」
 まさみが耕平の視線に気付き声を上げる。
「いやっ、そ、その……、テレビで見るのとイメージが違ったもんで……、服装が……」
 いつもの清楚な服装と違う格好を、驚いてる風を装った。
「おかしい? こんな格好……。私だって普通の十七歳だよ? こんな格好もするよ」
 まさみはTシャツの裾を引っ張り、ちょっと照れくさそうに言う。
「いいんじゃない。結構似合ってる」
 耕平は、服装の話題にまさみが乗ってきたことに安心した。

 しかし、まさみがTシャツの裾を引っ張ったことで胸の膨らみが強調された。
「結構、巨乳なんだな、おまえ」
 耕平は、つい本音を漏らしてしまった。
「いやだあーー、もう……。普段は締め付けてるんだ。芸能活動では、きついブラで締め付けてんの。あんまり大きいと、バカに見えるって……。清純派で売るには問題があるって……」
 まさみは、恥ずかしさも忘れ笑顔で話した。今朝まで、耕平が一言も口を利いてくれないのでは不安を持っていた。昨晩、絶対母親とは認めないと自室にこもった耕平を見て不安を抱いていたのだ。しかし、ぎこちなくはあるが何とか会話を交わしている。ぶっきらぼうではあるが耕平からも話しかけてくれた。そのことが嬉しくて、口が弾んだ。

 なんとなく家族になれた気がする。そのことが嬉しくて、まさみの口はさらに饒舌になった。
「ねえ、わたしのこと、なんて呼んでくれる? ママ?」
「呼ばねえ」
「お母さん?」
「呼ばねえ」
「じゃあ、かあちゃん?」
「呼ばねえ」
 耕平のぶっきらぼうな返事でも、まさみは嬉しかった。話しかければ返事が返ってくる。そのことだけで心が弾んだ。ついつい答えをしつこく求めてしまう。
「そう、でも母上ってのは無いよね……」
「呼ばねえって言ってるだろ! お前を母親って認めたわけじゃねえからナ! 俺にとって母親は、十二年前に死んだ母さんだけなんだ!!」
 まさみの執拗い質問に、耕平は大きな声を出してしまった。

 まさみの顔が一瞬に曇る。メガネの奥の瞳が、悲しそうに潤んでくる。女性の涙を見て、耕平の胸がキュンッと締め付けられる。耕平は、言いすぎた自分を悔やみ言葉を続けた。
「まだ、結婚は認めてないけど……。ど、同居は……、認めるけど……」
 耕平の言葉に、まさみの口元が綻ぶ。
「うん、わたし待つから……」
 まさみは耕平の『まだ認めない』と言う言葉に、いつかは認めてもらえると、認めてもらえるようがんばろうという思いを強くした。さっきとは違う涙、嬉し涙が溢れそうになる。瞳から零れそうになる涙を耕平に見られないように、まさみは立ち上がり背を向けた。

 ポニーテールのメガネっ娘。
(あんな子供みたいな女、お母さんなんて呼べないよな)
 しかし、細い首、狭い肩幅、小さな背中、そして括れた腰……。腰から滑らかな曲線で続くツンッと盛り上がったまさみの双尻が、クリッ、クリッと左右に揺れながらキッチンに遠ざかって行く。

 背中の向こう側ではバストが揺れているんだろうな、そんなことを思ってしまう。頭では『あんな女!』と思っていても下半身は素直に反応する。
(どうしたんだ、俺?)
 耕平は股間の変化を悟られないように、まさみの作った朝食をガツガツと貪った。

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