母はアイドル
木暮香瑠:作

■ 妄想を誘う肢体6

 午後、星野奈緒のマネージャーが現れた。
「へえ、今日は仕事なんだ」
「うん、10月から撮影に入る映画の打ち合わせがあるの。帰りは夜になると思うから取り込んでおいてね、洗濯物……。夕食は冷蔵庫の中に作って入れておいたから、レンジでチンして食べてね」
 まさみは、仕事に行くのを済まなそうに言った。洗濯物を取り込むまで、ちゃんと全部したかったと言いたげに……。
(アイツのパンツも……、ブラジャーもオレが取り込むのかよ。警戒心が足りねえじゃねえか? オレだって年頃の男なんだぜ)
 耕平はベランダの方を見やる。物干しには、小さな面積のまさみのパンツと大きなブラジャーが耕平のトランクスと一緒に風に揺れている。

 イライラと身体を揺すり待つマネージャーの横で、まさみがバックの中をチェックしている。ザクッと編んだ三つ編みのメガネッ娘、しかし服装は清楚な白のブラウスに膝が隠れるスカートとまさみと奈緒がシンクロしている。
「お出かけする時は鍵、忘れないでね」
 まさみは、母親らしい台詞を口にする。
「あぁあ、外ではそんな所帯染みたこと喋らないでくれよ。生活臭のするアイドルなんて……、アイドルは夢を売るのが仕事なんだから」
 マネージャーが陰険な表情を作った。自分に言われたわけではないが、耕平はなぜだか肉親を貶されたような怒りがこみ上げる。
「なあ、マネージャーが家まで迎えに来るのはどうかと思うんだが……。近所の人に見られたら怪しまれるぜ」
 耕平は、マネージャーに会わなくてすむ様に提案してみる。
「そうだね。これからは、ちょっと離れたところまでにするね」
 そう言うと、まさみは迎えに来たマネージャーと出かけて行った。

 一人になった家の中、今までにない耕平は寂しさを感じた。まさみが来る前までは、普通のことであった。まさみが来て三日と経っていないのに、彼女がいないだけで急に切なくなる。
(なんなんだ? この雰囲気?)
 耕平は、自分さえ気付かないほどアイドル・星野奈緒とまさみに惹きつけられていた。


「耕平、もう一つお勧めDVDがあったから持って来てやったぞ」
 耕平の寂しさを紛らわすように、龍一が訪れた。
「まあ、上がれよ」
 龍一は、上がり込むなり一枚のDVDを差し出した。そして、耕平に勧められ、龍一は一緒に耕平の部屋に上がった。
「まさみちゃんは? 今日はお出かけか?」
「ああ、ちょっとな」
 龍一の問いに耕平は、曖昧な返事をした。

 しばらく音楽の話をしたり、昨晩見たDVDの話題の後、龍一が立ち上がった。
「ちょとションベン、トイレ借りるな」
 龍一はそう言って、部屋を出る。足音を残し階段を降り、トイレのある一階に降りていく。しかし、龍一の向かったのはトイレではなくバスルームだった。バスルームの手前の脱衣場、そこには洗濯機も置かれている。龍一は、洗濯機と壁の隙間に、無線で映像を飛ばせる盗撮用の小型カメラを仕掛けた。都合よくコンセントに空が合った。そこから電源を取り、本体を置くに忍ばせる。真っ黒のカメラは、洗濯機の影になり見えない。
「下半身しか映らねえな。まっ、良いか。黒子があるかどうかさえ判ればいいんだから」
 カメラを仕掛け終わった龍一は、何事もなかったかのように耕平の待つ部屋に戻っていった。
「オレ、帰るわ」
 龍一は、もって着た新しいDVDだけを残しかえっていった。

「洗濯物でも仕舞うか」
 再び一人になった耕平は、誰に聞かすでもなく呟いた。龍一が持って来たDVDを見るには、まだ日が高すぎる。どうせまさみが帰ってくるのは、夜遅くなってからだろう。時間は十分にある。

 洗濯物を取り込むだけなのに、心臓が鼓動を速くする。今まで触れたことのない柔らかな小さな布地をそっと掴み、洗濯籠の中に落とす。まさみの下着が、自分のトランクスと重なるだけでドキドキする。お互いの股間を包んでいた布切れが籠の中で重なり合っている。取り入れたばかりの洗濯物を一つ手に取った。クルクルッと丸まった小さな布切れを裏返し、奈緒の秘部を包んであった場所に鼻を近づける。そして大きく息を吸い込んだ。
「ふうーーっ、いい匂い」
 もう一つの洗濯物に持ち替え、こっちも匂いを嗅ぐ。カップの中に鼻を押し込み、また大きく息を吸い込んだ。芳香が、鼻腔に広がる。
「なんだ、洗剤の匂いか。そうだよな、洗い立てなんだから……」
 興奮していた自分がばかばかしくなる。そして虚しさが襲ってくる。耕平は、興奮していた自分が誰かに見られていなかったか周りを見渡し、急いで残りの洗濯物を取り込んだ。

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