母はアイドル
木暮香瑠:作

■ 明かされた秘密5

「はあ、はあ、あんっ、はあ、あうん……、はあ……」
 まさみの部屋からは、今日も溜息交じりの喘ぎ声が聞こえてくる。まさみが早く帰ってくるようになってからの数日間、このような夜が続いている。
(まさみ……、今日も自分で慰めてるのか? 龍一とは会っていないのか?)
 しかし、絶頂を告げるような声が聞こえてくることは無かった。苦しげな喘ぎ声だけが延々と続き、そしてフェードアウトしていく。
(逝けないのか? もう……、龍一でなければ逝けない身体になってしまったのか?)
 耕平にとっても、胸がキリキリと締め付けられる夜が続いている。まさみと龍一が会っていないということは喜ばしいことな筈なのだが、それを上回る杞憂が耕平を苦しめた。

 しばらくまさみの喘ぎ声が聞こえてこない。その静寂の時間に、やっと耕平の心も落ち着きを取り戻そうとしていた。
「まさみも寝たのかな……。俺も、もう寝るか……」
 耕平は就寝前の儀式のようにトイレに向かった。

 トイレから戻り自室に入ろうとした時、まさみの部屋のドアが開いた。部屋から出てきた憔悴しきった顔のまさみ。耕平は心配そうに声を掛けた。
「寝れないのか?」
 パジャマを押し上げている双乳に目が行く。その存在感に目を奪われたのではない。その頂点で尖り出した乳頭がパジャマを押し上げていたからだ。
(どうして? まだしたりないって言うのか? 逝けないのか? 逝くまで満足できない身体になってしまったのか?)
 まさみは虚ろな瞳を床に這わせ口を開いた。
「ううん、寝る前に……シャワーを浴びようと思って……」
 そう言うとまさみは、よろよろと階段を下りていった。耕平はまさみの様子が心配になり、気付かれないように後を追った。

 まさみがバスルームに消え、そしてシャワーの音が聞こえてくる。

 シャワーの飛沫が身体を弄る。
「あんっ、ああん……」
 壁の影に身を隠している耕平に、まさみの声が漏れ聞こえてくる。
(まさみ……、シャワーにも感じてるのか?)
 まさみには、バスルームの外にいる耕平の存在に気付く余裕など無かった。火照った身体を醒まそうと浴びたシャワーでさえ、身体は官能を求め刺激を味わおうとする。

 胸に当てた手は、無意識に指を乳房に食い込ませていた。ノズルを持つ手はゆっくりと下って行き、シャワーの宛先を股間に向ける。勢いよく飛び出す飛沫は、肉の割れ目を抉じ開けその中に隠れている淫芽を弄った。
「あんっ、いい……。ああん、あん……」
 もうまさみに躊躇は無かった。
「んっ……、こっちの胸も……」
 弄る手をもう一方の胸に移す。しかし、手が逃げた方の胸の寂しさが増すだけだった。まさみは、シャワーのノズルを股間から空いた胸に移動させる。乳首に強い水流を当てながら、もう一方の胸に指を食い込ませる。
「オッ、オマ○コも弄ってっ! あん、足りないの!」
 しかし股間を攻める手はない。じれったさが不満を募らせるばかりだ。

 胸を摩り指を食い込ませる。乳首を摘み転がす、そして強く指で押し込む。
「うっ!! あんっ……」
 甘い痺れに声を漏らす。胸に広がった刺激は、新たな刺激を渇望する。
「龍一さん……、も、もっと……」
 龍一の荒々しい愛撫を思い浮かべ、乳丘を握り潰した。
(どうして? どうして逢ってくれないの? わたしの身体は……こんなに求めてるのに……)
 逢おうとしない龍一に不満が募り、恋しくなるばかりだ。
「あんっ、足りないの。もっ、もっと……、こっちも……」
 シャワーのノズルを落とし、両手で身体を弄る。
「ああん、あん……。もっと、もっと……」
 エクスタシーを得るには、二本の手だけでは足りなかった。龍一に与えられた快感は……、手で口で、舌で……、怒張で、身体全体を使って与えられていた。それと比べると、まさみの二本のか細い手だけの愛撫ではあまりにも力不足だった。
「ああん……、あん……あ……」
 まさみの喘ぎ声は、次第に小さくなっていった。


 まさみの声が聞こえなくなり、シャワーの水音だけが耕平の耳に届いている。
(やっぱり逝けなかったのか? ……まさみ……)
 耳を済ませていると、うっ、うっ……と息を詰める声がシャワーの音に混じり聞こえてきた。そして、その声は一気に溢れ出した。
「うううっ……、どうして逢ってくれないの? 龍一さん……。わたしを気持ちよくしてくれるって約束したじゃない。それなのにどうして? ううっ、うううっ……」
 バスルームから声が漏れることも厭わず、まさみは声を上げて泣いた。

 まさみの泣き声が、耕平の胸に突き刺さる。何も出来ない自分が情けなかった。耕平はそっと自分の部屋に帰っていった。



 翌朝、耕平が二階から降りていくと、キッチンからパンのトーストされた匂いが鼻を擽った。
「おお、耕平! 起きてきたか」
 父親は耕平に一声かけるとすぐに、まさみに語りかけた。
「まさみ、疲れてるんじゃないか? 目の下に隈ができてるぞ」
「そう? ドラマの撮影、佳境に入ってるから……。ファンデーションで隠れるかな?」
 心配は無いよと言いたげに、二コリと笑みを浮かべ答えるまさみ。そして耕平の朝食を用意し始める。

 昨夜も逝けなくて、何度もオナニーを繰り返していたんだ。仕事に加え、連夜のオナニー、それも逝けなくて止めどなく続く連鎖。まさみの笑顔が、そのことを知っている耕平を憂鬱にする。
(俺に出来ることは何かある? まさみ……。俺には何も出来ないのか?)
 そんなことを考えているうちに、耕平の前にトーストとコーヒーが置かれていた。

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