獣欲の生贄
フェラ男優:作

■ 復讐1

次の日、やはり迎えの車は来ていた、授業中何度も夢であったらいいと願ったが、校門を出るとすぐに黒いスーツの男が車に乗るようにと言ってきた、昨日とは違う男だった。
車の中で菜実は男に小さな錠剤を二錠渡され飲むように命じられた。 最初は睡眠薬でも飲まされて辱めを受けるのだろうかと思ったが一向に眠くなる気配はなかった。 それどころかだんだんと身体が熱く火照ってくるようなきがした、菜実は風邪で熱っぽいのかなと不思議に思っていると、車は目的地に着いたようだった。
着いた場所は新しい駅ビルで菜実も知っている私鉄駅だった、都心に近く利用客も多い、今日もこれから夕方のラッシュを迎えようとしている。

内装を建築中の新たな駅ビルは4階建てで二階が駅になっている。 社長は4階にできる予定の小さなネットシアターの下見に来ているとのことだった。
昔でいう映画館なのだが、100席ほどの広さでスクリーンにはインターネットで配信される映画が上映される。 すでに席はできてスクリーンもできているようだった、昔の映画館ほど大きなものではないが、席がスクリーンと近いせいもあって視界いっぱいに画面が飛び込んできそうだった。

坂井敏一社長はその最前列の中央に座っているようだった、館内には他に誰もいないような気配だった。 菜実は連れてこられた男に促されて社長のもとへ歩いていった。
「やあ、よく来たね。 どうだいこのシアターはこんな大画面で映画を楽しむのもいいもんだよ、菜実ちゃんは映画は好きかい?」
無邪気に笑いながら楽しそうに訊いてくる、まるで自分と映画でも観るようなつもりなのだろうか……そんなはずはない、昨日あれだけの辱めを受けて菜実はこの男を信じることができなかった。
「今日はこのスクリーンの試写会さ、まだ内装が出来てないんだけど君が最初のお客さんだ。 ほら、そこなんかまだ床が透けているだろう……」
社長に言われて菜実はぎょっとした。 なんと二人の周りの床が剥がされ下の階の様子が見えるのだ。

「えっ! うそっ……」
菜実はうろたえたが床には充分な強度があるようだった。
「ふふ、大丈夫。 強化樹脂でできているから、鉄板より丈夫なんだよ、これも演出のつもりだったんだがここに居る人はともかく下に居る人は上を見てあまり気分のいいものじゃないと言うんで直すことにしたんだ」
当然だろうと菜実は思ったここに居ても気分のいいものじゃない、下階のショッピングモールを大勢の人が通りいつこちらを見るかとどきどきする。
(この人……おかしいんじゃないかしら、こんな趣味ありえない……)
「ああ、でも下からはこっちは見えないようになっているんだ。 マジックミラーと言う感じかな、特殊な液晶パネルが仕込んであってね、下からは天井に広告の映像が流れるような仕掛けになっているんだ、面白いだろ」
恥ずかしいやら、落ち着かないやら、こんな状況で映画を楽しむ人の気が知れなかった。 菜実は幾分あきれ顔で坂井社長の自慢げな説明を聞いていた。

「さて、そろそろ始まるぞ」
坂井は少し照れくさそうに言うのだった。
坂井社長の視線につられて、菜実もスクリーンに浮かび上がる映像に目を向けた。
自社のネット配信サービスのCMが流れ、しばらくして古びた感じのする映画配給会社の名前が大きくスクリーンに映る。
画像が少し悪いのは、やはり新しい作品ではないことを物語っていた。
「これはね……」
坂井がスクリーンを見つめながら話し始める。
「今から二十八年くらい前の純愛ラブストーリーなんだ」
「二十八年……ですか」
十六歳の菜実には、観たことはもちろん、題名さえ知らない映画だった。
「そう、僕が大学生で菜実ちゃんのお母さんも大学に入ったばかりの頃、流行った映画なんだ……」
そう言って、坂井は話の間をおいた。
(ママが大学生になった頃……、まさか、ママと一緒に、この映画を?)
菜実はハッと気づいたように、坂井の顔を見た。
「ふふ、そうなんだ。 その頃、僕は菜実のママと知り合った」
坂井の表情は、気味悪いほど愛しげにスクリーンを眺めている。
「母と……、お付き合い、していたんですか?」
菜実は恐る恐る、訊いてみた。
坂井はボーッと映画に見入っている。
「あっ、ああ。 ごめん、あまり映画が懐かしかったものだから、少し昔のことを思い出していた……」
「そう、知り合ってすぐに、二人は互いに惹かれあった、いつでも、どこでも、何をするにも一緒だったな……」
至福の想い出のように、坂井は言った。
「そして、同期のきみのお父さんとも、同じ研究室、親友だった……」
そこまで言って、坂井の表情が曇る……。
スクリーンには主演の二人が初めてキスを交わすシーンが流れていく……。
(パパがこの人から、ママを奪った……)
菜実はこれ以上、坂井に訊けなかった。
 
「菜実……」
呼び捨てだった、声のトーンが低い。
「この映画、二人は結婚というありきたりなハッピーエンドで終わるんだ……。 でも、その頃の俺と真菜実には最高のストーリーだった」
坂井は菜実の母の名前を初めて言った。 菜実は母の真菜実の二字を貰ったものなのだ。
「そして、この映画を観た後……、二人は初めて、結ばれた……」
坂井の声が微かに震えている。 菜実は息を呑んだ。

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