君の瞳の輝き
あきんど:作

■ 第二部9

その日の夜だった。
裕美子「鈴、ご飯早く食べちゃいな!」
 鈴はその日一日部屋から出なかった。健司が自分の下着を盗んで穿いているという嫌悪感で部屋から出る事が出来なかった。
母に相談しようと思ったが、健司が母より私に興味を持っていることを知ればキット私がしかられる。
そう考えて相談できないでいた。

しかしずっと部屋の中にいるわけにもいかず、居間に顔を出す鈴。
居間には健司が晩御飯を食べていたが鈴の姿を見るといやらしい笑みを浮かべだした。
鈴は居間に置かれた晩御飯を見ながら何か入っているのではないかという不安にかられた。
ご飯に、おかずに、毒でも・・いやそもぞも私の下着を穿くような男だ。きっといやらしい細工をしているに違いない。
鈴は食事もとらずにバーに向かった。
店内で皿を洗っている方が気がまぎれた。
母はお客といいムードで抱き合ってダンスをしていた。
皿を洗っていて、鈴はカウンターにいる男の視線に気が付いた。
鋭い目つきを鈴に向けているその男を一目見て鈴は普通の客ではないと感じていた。
「ねぇ君・・鈴ちゃんだよね。佐々木鈴。ビデオに出てる子だよね?」
その男の一言で鈴は頭を真っ黒な闇が襲った。
今朝見た夢のような展開だった。
「普通はモザイクとか入ってるんだけど、僕ね元のマスターテープを見たんだ。君、すごいいやらしく乱れていたよね?」
鈴「ひ、人違いです。私そんないやらしいビデオに出たりはしません。」
 男は「そうかな?じゃこれどうかな?」
男は傍らに置いたかばんからビデオのパッケージを出した。
そこには胸に6−2佐々木と書いた体操服を着た鈴が大股開きをしていた。大事な部分には葉っぱが張り付いていた。

鈴「・・・そ・・そんな・・」
 鈴は皿を放り出してそこから逃げ出そうとした。
「あはは、うそうそ、実はね俺こういう者なんだ」
 男は財布から名刺を出した。

  近藤企画 専務 桐嶋信二

鈴「近藤企画?」
「そうそう、鈴ちゃんを次のビデオにどうしても出てもらいたくて・・」
鈴「その話はお断りしました。」
「そう・・でもねぇ次でないとなれば、このパッケージ・・ぼかしのないそのままで出すことになるけどいいのかな?」
鈴「そんな・・倉田さんは?」
「もちろん倉田さんもOKもらってあるよ。君のマネージャーだよね?」
 そこへ鈴の母の裕美子がやってきた。
裕美子「なぁに、どういうお話?鈴・・こういってくれているんだし、別に変な撮影とかじゃないんだろ?出たらどうだい?」
鈴「おかあさん・・」
「そしたらこうしよう。倉田さん立会いで簡単なソフトイメージなのを撮影しよう。それならいいだろう?」
 鈴はため息を付いて自分の境遇を考えてみた。
 この家にいてもいずれ母の恋人の男に身体をもてあそばれてしまうに違いない。
それに元はこの家から出たくて下着を売りに行った自分おおろかさもある・・
鈴「本当に前みたいなのじゃないんですよね?」
「もちろんだよ。・・約束するよ」
鈴「じゃあ・・少しだけなら・・」


 翌日鈴は迎えの車の後部座席に座っていた。
裕美子「行ってらっしゃい。がんばって・・」
 鈴の母の裕美子は撮影がTVの芸能プロダクションの撮影だと勘違いしていた。
運転席には見知らぬ男が、助手席には昨日の桐嶋が座っていた。
桐嶋「それじゃおかあさん、鈴ちゃんをお預かりします。」
裕美子「よろしくお願いします。」
 鈴を乗せた車は神戸から南の方角へと走らせていた。
 明石海峡を越えて淡路島まできた鈴は不安になっていた。
鈴「倉田さんは、本当に来るんですか?」
桐嶋「もちろんだよ。もうこっちに向かっているはずだよ」
 今日が土曜日で話では日帰りということだったが、鈴はこんな遠くまで来て帰れるのか不安でいっぱいだった。
 やがて車はある古いホテルの地下へと入っていった。
 鈴は潮の香りを感じていた。
 この潮のように遠くまで流れていきたい・・そんな気持ちが胸を締め付けていた。
桐嶋「さぁ着いたよ。降りて鈴ちゃん。」
 ドアを開けてもらい、降りた鈴はホテルが異様に古いことに気がついた。
 ホテルの前には近藤が出迎えに立っていた。
近藤「よく来たね〜。長いかっただろ。ここはホテルは古いが露天風呂があって結構疲れを癒すにはもってこいさ」 
桐嶋「さぁさぁ中に入って・・」
 二人に促されるまま鈴はホテルのロビーへと入った。
近藤「晩御飯に海の幸がたっぷりあるんだぞぉ」
 鈴はその言葉に少し微笑んでいたが泊まることになるのだろうかという不安はあった。
 ホテルのロビーでチェックインを済ませた一行は部屋へと案内された。
 ミシミシいう廊下を渡って、埃くさい部屋へ入った鈴はようやく足を伸ばせて座ることが出来た。
 ずっと車の中で窮屈だったためか鈴の表情はすこし和らいでいた。
近藤「じゃ、鈴ちゃんはそこで少し寛いでいて・・」
鈴「はい。」
 近藤と桐嶋が出て行った部屋で鈴は窓から見える外の景色を見ながら不安を拭い去ろうとしていた。

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