狂喜への贐
非現実:作

■ くたびれた街7

無駄だったというのは重々承知していた訳であり、得たのは疲労と空腹のみ。
大体、2人でローラー作戦とか言っている時点でどうかしていたのだ。
風俗店が閉まる時間と同時に捜査は終了したのだが完全に足が棒と化していた。

「もうね、何度も聞かれましたよいいかげん耳にタコが出来るくらい」

空腹は満たされた五反田がファミレスのテーブルに突っ伏して言った。
どうやら風俗初心者が何処にしようかとウロウロ彷徨っていると勘違いされたそうだ。
目黒本人は町に顔が知れているので全く声は掛からなかったので、少し五反田には同情する。
こんなにも寒い夜中にサボらずに頑張ったのにも褒めてやりたいところだが、目黒自身がかなりの不機嫌・・・いや焦っていた。
全く持って何も成果がない・・・これでは調書すら書けない。

「明日もコレ、やるんですかねぇ〜出会い系に突撃した方が良いのでは?」
「無駄だろ、出会い系はただ仲介だからな、それに俺達が出張っても追い返されるのがオチだわ」

せめて登録者の名簿さえ手に入れられたら進展するのだが提供するわけないのだ。
出来ることが限られている今の自分が本当に苦々しく思う。
苛々をぶつけるかのように、フォークで鶏のから揚げをブスリと刺した時だった。

「おうぃ久々じゃねぇかい」

後ろながら声で察知した目黒とは対照的に顔を上げた五反田は明らかに表情が強張りだした。
そんな五反田を無視しつつ目黒は会話を進める。

「オヤジ、サボってんのか?」
「馬鹿野郎、トイレ休憩だ」
「年取ると小便が近くなるって言うよな」
「たわけっオイ小僧、ちょっと詰めろ」

小さくなっている五反田が腰をずらすと、初老の田端がドカリと座ってきた。

「あ、あの田端さん?」

田端の後ろに立っていた女性が声を戸惑いながら声を掛けた。

「おぅ、少しだけ休もうや、座れ座れ」
「で、でも・・・お、お仕事は?」
「いいから座れってんだよ、オイ目黒、席ずらしたれ」
「相変わらず強引だなオヤジは」

そう言いながらも目黒は席をずらし、再び口を開いた。

「解ってると思うがオヤジは頑固だからな、諦めた方がいいぜ?」

小さく溜息を付いた女性が遠慮がちに目黒の隣に腰を降ろした。

「そういやコイツ等とは上野は初対面だな」
「一般の方にコイツ等とは・・・」

上野という女性は随分生真面目な性格なのだろう。

「そんなこたぁいいんだよ、でも名前聞けば上野も解るはずだ。
でだ先ずはコッチの黒尽くめが目黒だ、目黒ユウスケな。」
「えっぇ・・・あの目黒刑事っ、ですか!?」
「オヤジぃ、何を言ったんだよ?」
「別に変な事は言ってねぇわ、元ワシの相棒で優秀だった元刑事としかなぁ、ちなみに今は探偵な」

この時点で目黒は自分の印象を修正する事に諦めた。
どうせ「ああだこうだ」と面白おかしく言い触らしたのだろう。
鶏のから揚げを串刺しにしたフォークを揺らしながら自傷気味に言う。

「ま、どえらい無茶して首になったんですけどね」
「そんな、目黒刑事の武勇伝は結構有名ですよ?」
「行動力と腕っぷしは確かに語り草にはなっとるぞ、剣道4段柔術2段はダデじゃないわな。
そんでもってコイツは五反田君だ、五反田・・・えぇとなんつったか?。」

隣で小さくなっている五反田の肩をバンバンと叩きながら、オヤジこと田端刑事は「思いだせねぇ」と付け加えた。
苦笑しながら目黒が茶々を入れた。

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