Midnight Hunter
百合ひろし:作

■ 第二章 伝統2

理彩はゆっくりと無惨な姿になった葵に近付き、、段ボールに引っ掛けた右足の足首を掴んで少し持ち上げた。全く反応が無かったのでそのまま戻した。葵の右足は2回ほど揺れて止まった。その後スカートの右のポケットに手を入れ、葵の携帯を取り出した。そして本体にデータがコピーされていないか確認した後マイクロSDカードを取り出して、ブラジャーの中に入れ、携帯は葵のスカートのポケットの中に戻した。
「真面目で大人しくて、それでこれだけ闘える……。貴方、私に憧れてる様だけど私は貴方が羨ましいわ」
理彩は少し寂しそうに呟き、窓を開けてから指笛をピーッと長く3回鳴らした―――。それから、
「また後で、会いましょう」
と言ってマスクを拾って顔に着けてから学習室を後にした。気を失い、上半身を段ボールなどの中に埋め、パンティを丸出しにした無惨な格好を晒したままの葵がそこに残された―――。


「う……くっ……」
葵は目を覚ました。目線は天井を向いていた。古風な蛍光灯の電灯がぶら下がっているだけの今まで入った事の無い部屋だった。時計の秒針の音が聞こえそちらを見ると、時計は2時をさしていた。視線を移すと小さなタンスが1つ有り、そして制服が壁に掛けてあった。
葵は飛び起きた。それから自分の体を見るとブレザーは掛け布団の上に置いてあったが他はきちんと身に付けていた。
「私―――負けたんだ…………」
葵は壁に掛ってる制服が自分ので無いとすれば、理彩のものである事は間違いない。その事によって、自分は理彩に負けたという現実を思い知らされた。その時、小屋のドアを開ける音がした。足音が近付いて来てそして部屋に入って来た。
「目を覚ました様ね」
理彩だった。マスクをしていた。葵は立ち上がったが理彩には目を合わせられず、丁度理彩のパンティの辺りに視線を落としていた。
「ミッドナイトハンターについてどの位知ってるのかしら」
理彩が言うと葵は、
「下着姿で学園の夜を守る……って、噂レベルで」
と答えた。理彩は、
「そのミッドナイトハンターには掟があるわ」
と言った。葵は、
「それは―――?」
と聞いた。理彩は、
「私は正体を見破られたわ、貴方に。ミッドナイトハンターの正体を見破った人は次にその任務につかないといけないわ。だから貴方が首を縦に振るまでは逃がさないわ」
と言った。葵は逃げようとは思わなかった―――。あれだけ実力差があったのだ。逃げてもどうせ捕まるだけだろう、と。更に理彩は、逃げれば葵が社会から抹殺されると言った。
葵は夜の校舎に忍び込んだ訳でそれだけでも懲戒対象である。その上、下着姿の女性と一戦交えたなんて言えば葵が下着姿の女性を襲った―――いや、女を襲って服を脱がせたという話になるといった寸法だった。しかし、それでもはい分かりましたと首を縦には振れなかった。
「時間は幾等でも有るわ。私もそれまで待てるわよ」
理彩は言った。葵は、
「私が朝までこのまま返事しなくても―――ですか?」
と聞いた。理彩は、
「ええ、待つわ」
と答えた。どうやら学校を休む形になっても構わないらしい―――。葵は、
「どうして、ミッドナイトハンターをやろうと思ったんですか?」
と聞いた。理彩は、
「私は小さい頃から知ってたわ」
理彩の答えに葵は驚いた。理彩はマスクを外した後、タンスの上にあるアルバムに目をやり、
「10年半程前に、実際に見たのが最初ね」
と言った。当時は理彩は7〜8歳で葵は6〜7歳である―――。


11年前―――。
「あーっ!何で来年からブルマ廃止よ」
屋島学園1年生の権田原奈緒は言った。それを聞いて兄の権田原宗一は、
「仕方ないだろ、世の中の流れだ。やらしい目で見られるのが嫌とかいう意見や、盗撮されたのが社会問題になってるからな」
と答えた。兄の宗一は、父が屋島学園の理事長になったのをきっかけに24歳という若さにも関わらず学園の経営に携わる理事に非常に近いポジションにあり、実際次の年に理事になる事は確実だった。
宗一は大学在学中にベンチャー企業を興し、経営の手腕を発揮した。大学を卒業するとすぐにその会社を売却し、屋島学園の理事長になった父の側に見習いという形で付き人をしながら、様々な学園改革の意見を述べて手助けした。その手腕を買われて早くも理事がほぼ決定したのである―――。
しかし、それだけの兄でも妹の奈緒の今のぼやきだけはどうにも出来なかった。しかしそこは対案をきちんと持って来た。
「大学には履修規定というのがある。それは入学した時のが卒業まで生きる。つまり自分が入学してから学科改組されて学科名が変わっても次の年からって訳だ。解るかい?」
と言った。奈緒は、
「つまり、ハーフパンツは来年の1年からね」
と答えた。宗一は、
「そうだ。他にも改革は沢山しなきゃいけない。いきなり一度には変えられないさ」
と言った。奈緒は、
「流石お兄ちゃん」
と耳の下まで隠れる位のやや長めのショートカットの髪をいじり、礼を言った。

奈緒は色んな面で変わっていた。今のブルマーの話にしたって周りとは正反対の考えだったのである。周りはブルマー廃止の噂が上がると歓喜の声を上げたが奈緒は不快な表情を見せていた。それについて聞かれると、
「可愛いと思うんだけどなー」
とはっきりと言った。
「奈緒は変わってるね」
「権田原さんみたいに可愛ければ似合うかもしれないけどあたしはヤダ」
「盗撮されるし、男子の目線もエロいし―――」
様々な事を言われた。奈緒は、そんなものかなあ、と思っていた。
それだけにブルマー廃止は来年の新入生からと分かると落胆の声が広がったが、事情を知ってる奈緒は落ち着いていた。なんせ少しだったが思い通りになったから。自分がブルマー姿になるだけでなく、可愛い人のその姿を見るのも好きだったから―――。

奈緒は家に帰ってからも制服を脱がない。また、服をそれほど持っていなかった。父が理事長、兄が来年から理事というだけあり、家は裕福である。それならば何故―――?
要は面倒だったのである。女子高生の制服は今はもう1つのファッションであり、どれだけ可愛くきこなせるかが勝負だった。それだけ鉄板なファッションを毎日身に付けてるのに何故新たに着飾って更に化粧に時間を掛けねばならないのか?それを非常に無駄に感じていた。その事も少しだけ教室で言った事がある。貰った反応はさっきのブルマーの時と一緒だ。
「スッピンで可愛いから言える事」
という事だった。勿論顔に何もつけない素のスッピンではなく、最低限の事はたしなみとしてやっているが、それ以上は面倒だった。
制服もブルマーも指定されたものを少しいじれば可愛くなれる、そういったものがあるのだからそれをフル活用し、後はそんなに要らないという事だった。因みにスカートは言うまでもなく短いのを買っているがブルマーも標準よりハイレグ気味の可愛いのにしていた。
「ハイレグじゃない?」
と聞かれたりした事があるが、
「気のせいよ」
と答え、いつもブルマーを上げているからではないか、と言っていた。

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