Midnight Hunter
百合ひろし:作

■ 第二章 伝統3

そんな奈緒が遊び心である事を始めてみた。夜中の学園に忍び込んだのである―――。初めての時は制服姿にサングラスで、そして2回目はカラスマスクに体操服を着てブルマー姿にサングラスをかけていた―――。
その時、学園内で問題になっていた不純異性交遊を目撃し、その時は脅してやったらそのカップルの生徒は逃げていった。
それで味をしめ、何回も見回りをするようになった。ある時はタバコを吸っている不良を見付け、格闘になったが兄と共に小さい頃から拳法をやっていたので不良を倒し、用務員に引き渡した。用務員のおじいさんは驚いて警察に通報し、次の日、その不良は停学になった。当然不良の仲間が奈緒に―――とは言っても"権田原奈緒"が仲間をやったのではなく、謎のブルマー女くらいにしか思っていなかったが―――復讐を企てたが、奈緒はそれを先読みしてうまい具合いに誘いこみ1人ずつ料理した。
その頃、学園の裏サイトの前身ともいえるサイトが立ち上がった。そこで、カラスマスクのブルマー戦士として噂に上がった。
奈緒は話が大きくなるのはまずいと感じ、作戦を変更した。より隠密に動き、姿を見られない様に倒す事だ。また、カラスマスクをやめて小さ目で闇に溶けて目立たない紫の蝶のマスクに紫の鉢巻きにした。こうすればシルエットが分かりにくくなるからである―――。この作戦が当たり、カラスマスクのブルマー戦士はいなくなり別の人になったと思われた。どちらもブルマーなのに何故か、である。

宗一もその噂は知っていたがまさか奈緒だとは思わなかった。
たまたま、奈緒が帰って来た時にサブバッグのチャックが空いていてそこからマスクが落ちたので宗一は聞いてみた。すると奈緒は、
「私がその噂の人よ」
と隠しもせず、逆に兄に知って欲しいと言わんばかりだった。宗一は、
「直ぐに止めろ、拳法やってるからって強いヤツは沢山いる。痛い目にあってからじゃ遅い」
と反対した、当然である。しかし奈緒は、
「お兄ちゃんの改革を手伝いたいの!いくらやったって夜の悪人は消えないわよ。やっつけなきゃ」
と答えた―――。実は半分でまかせだった。兄の改革を助けたいのは事実だが、残りの半分はただこうするのが楽しいから―――。悪いやつらをやってけるヒロイン気分に浸りたいからだった。
2人の言い合いは続いた。そして2時間後―――。
「解った。そこまで言うならバックアップしよう。父さんに何か聞かれたらうまくごまかしとく」
変な趣味を持ってはいるがいつもはお兄ちゃん子で喧嘩などした事が無かったのにこれだけ食い下がって来たのには正直驚いた。そこまでしてやりたいのか、そんなに気に入ってしまったのか―――。その情熱(……?)に宗一は折れた。その代わり可愛い妹に1人でそんなに危険な事をただやらせる訳にも行かなかったので―――。

奈緒は戦士として行く時は部屋で仮眠を取っていた。部活動には入っていないので15時30分位に帰って来て19時まで寝ていた。そして起きると準備して20時過ぎに出掛けて行った。宗一は奈緒の行動パターンが分かればそれに合わせて動くのみであった―――。

夜の屋島学園―――、奈緒は何時ものように見回っていた。この日は何も無い様に思えたのでそれから職員玄関に回って中に入ろうとした。下校時刻を過ぎるとロックされてしまうが鍵の暗証番号は知っていた。下校時刻後に兄に呼ばれて番号を打つ必要があった時に教えて貰ったからだった。その番号を打とうとした瞬間、何者かの気配を感じた。
奈緒は反射的に足を飛ばした。しかしその陰はその攻撃が来るのが分かっていたかの様に攻撃を弾いた。そして2人はお互い構えたまま対峙した。相手は185cm程ある。自分も170cmと男の中に入ってもそれなりに見劣りしない大きさだが、相手は大きい―――間違いなく男でパワーではまず勝てないと思った。
ロータリーにある水銀灯、そして職員玄関にある玄関灯が自分と相手を照らす。相手はピエロの格好をし、マスクも着けていた。何かおかしく、笑いそうになった。まあ体操服にブルマー姿で蝶のマスクに鉢巻きを巻いてたら人の事は言えないが―――。
ピエロは構えた。奈緒も吊られて構えたがその構えはいつも見慣れたものだった―――。
「お兄ちゃん!?」
奈緒は驚いた。


真夏の夜―――、奈緒は制服のままいつもの様に屋島学園に忍び込み、そして校舎と体育館を繋ぐ渡り廊下の下に来た。ここにあるトイレを本拠地として活動していた。
トイレに入り個室のドアを閉め、鞄をフックに掛けた。この鞄には変装用のグッズが入っている。奈緒は制服を脱いでハンガーに掛けた。ワイシャツは汗でベッタリしていたので脱いだ瞬間スッと汗が蒸発する感覚が気持ち良かった。

この時思った―――。

体操服着ても再び汗でベットリするだけなんだから着なくてもいいではないか。つまりスカートも脱いだ後、ブルマーも穿かずに下着でもいいのではないか、と。どうせまともな人はこんな時間に学園内にいやしないのだから―――。
奈緒は下着姿になり、鞄の中から暫く使っていなかったカラスマスクを取り出して顔に着けた。
「フフッ、イケてるね」
個室から出て鏡を見ると闇の中に薄ボンヤリと自分の姿が映っていた。それを見て奈緒は笑った。

この時下着姿で闘う人、ミッドナイトハンターが誕生した―――。

宗一は奈緒が下着姿で居たことに直ぐに気付いたが奈緒のこの活動をバックアップしようと決めた以上は、幾等おかしな趣味してるといっても下着姿はないだろ、と呆れながらも何も言わなかった。ただ、今まで以上に注意して守ってやらないとならない―――と。

従姉妹の理彩は時々奈緒の、いや、伯父の理事長の家に親と一緒に泊まりに来ていた。奈緒は理彩が来ると喜んだ。来たのは夜だったが着替えもせずに制服姿のままで―――。そして色々な事を教えようとするが、
「コラ、奈緒。理彩ちゃんに変な事教えるなよ」
と父に止められた。奈緒は空返事をしたが、やめる訳が無かった。まだ7歳だった理彩をどうやって自分の色に染めあげるか―――。それも生き甲斐の1つだからだった。
「理彩ちゃん、今日は変わった事をやるよ」
奈緒は笑顔でそう言って、理彩を外に連れ出そうとした。理彩は何だか状況が理解出来ないながらも奈緒がやる事は変わってて面白かったので喜んでついて行った。2人が向かったのは夜の屋島学園―――。奈緒は笑顔で、
「正義の味方は悪人をバッサリだから―――さ」
と言った。

その夜に理彩が見たものは―――。奈緒は言葉通りに悪い奴等、受験のストレスから器物破損に走った2人を鮮やかに倒した。勿論カラスマスクを着けて下着姿で闘う奈緒の姿だった。
まだ7歳の理彩には下着姿で闘う奈緒の気持ちは解らなかった。理彩の周りの女の子で人前で喜んでパンツ1枚姿になる子など居なかった。子供心に1つ解った事は、奈緒は決して普通では無い事だった。
しかし、この時に見た奈緒の姿は理彩の深層意識に埋め込まれる事になった―――。

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