Midnight Hunter
百合ひろし:作

■ 第二章 伝統4

そして、宗一にとって想定範囲外の事が起こった。それはミッドナイトハンターの継承だった。宗一は奈緒が気まぐれで始めた事だと思っていたのでまさか次に引き継ぐなんて―――と驚いた。奈緒も奈緒だが引き継いだ方も引き継いだ方だ。下着姿でいるのが好きなのは奈緒だけだと思っていた。
意外に学園生活はストレスが溜るのか?引き継いだその生徒はストレスを発散するためにミッドナイトハンターを選んだのか―――?
「ううん―――彼女、私みたいになりたかったんだって」
宗一が聞くと奈緒はそう答えた。さらに聞くと、そう言われたので少し前に彼女を夜中の学園に誘い出して、仕事を見せた―――。
「こんな私だけど、本当に私みたいになりたいの?」
と正体を明かした上で聞いたら彼女はハイ、と返事した。彼女はクラスの委員長だった―――、委員長のステレオタイプである眼鏡に三つ編み姿で如何にも生真面目なタイプの人だった。それだけ、自分のイメージというものに苦しんでいたのか、そして自分と正反対で自由奔放な奈緒に対して憧れを抱いたのか?兎に角、奈緒とはどう考えても接点はありそうにないタイプの人が奈緒からミッドナイトハンターを引き継いだという事実だった。
奈緒も唯適当に引き継いだのではない。奈緒に憧れていた生徒が自分の後を継ぐのに足りる人物かどうか、それだけはしっかりと見ていた。彼女は少林寺拳法をやっていて、格闘技術に関しては奈緒とほぼ同等だった。しかし、奈緒とは違い好戦的ではなかったので奈緒が試しに勝負してみた時は奈緒が圧倒的な差で勝った。
宗一は、奈緒自身は適当に気まぐれで始めた事だったが後を継ぐ人に関してはきちんと考えてやっていた事に感心し、引き続きサポートをする事にした。しかし、今と同じやり方は出来ない。奈緒は妹なので出来たが、今度は全くの赤の他人―――。となると、自宅からではミッドナイトハンターの行動は把握出来ない、いざと言う時に助ける事が出来なかった。
そこで目をつけたのが用務員だった。その当時勤務していた用務員は奈緒が高校卒業するのと同時に定年を迎える。その用務員と交渉し、用務員小屋を買収する事に成功した。更に理事の仕事をしながら用務員もこなす。そしてミッドナイトハンターのサポートと3つの顔を持つ様になり、こうしてミッドナイトハンターをサポートする体制が出来上がったのであった―――。

理彩の頭の中からはミッドナイトハンターの事等消え失せていた高校受験直前―――。奈緒は理彩が屋島学園を受験すると知って応援に飛んで来た。昔のショートカットだった奈緒とは違い今は髪を伸ばし色っぽい20代後半の女性になっていた―――が、相変わらずファッションには疎く、ジーパンにシャツとか、何年前から穿いてるのか分からない赤いミニスカートとかかなり適当だった。その適当振りが一部の男にウケるらしいが本人は全く興味を示していなかったと言う。
「へぇ〜、ミッドナイトハンターになるんだ」
お茶らけた感じで奈緒が言ったが理彩は何の事か分からずにいた。

理彩は上位の成績で屋島学園に合格し、入学後にクラス委員になった。中学生時代は生徒会長をやったりして、こういう事は性に合ってると思った。そういう事には無縁で成績も丁度平均的だった奈緒とは正反対だった―――もっとも奈緒自体屋島学園に入った時点で全国平均より遥かに上ではあるが―――。
入学条件が厳しく嫌が応にも競争を強いられる、学業も運動も。そんな所だったのではみだし者が出てくるのは自然な流れであり、奈緒の時代とそういう点はあまり変わらなかった。しかし、理事長が父から息子に変わってから更に生徒会の権限が強まり、それに伴って風紀委員も強くなったりしたので、より夜に悪さをする者が増えていった。

つまり、闇の戦士であるミッドナイトハンターの重要性が高まっていた。高まってもらっても困るのではあるが―――。


理彩がクラス委員をきっかけに生徒会に入ったのは1年生の時の夏―――。丁度その時、かつて体育会推薦で入学し部のレギュラーになりながら、怪我でレギュラーから外れ、それが元で素行不良になった男子が他の部の女子を監禁し乱暴しようとした事件を起こした。しかし、それは未遂に終わり、被害者の女子生徒の証言により、主犯の男子生徒は退学、仲間の2人は2ヶ月の停学になった。所属していた部は、その男子生徒は事実上休部していたので生徒会による取り潰しは免れた―――。
理彩は色々な話を被害を受けた女子生徒から聞いていたが、彼女が警察や職員、理事には言ってない内容があり、それが引っ掛かった。
もっとも3人の男に襲われるという恐怖の中ではあったので、本能的に恐怖心を消す為に見えないものを見たり聞こえないものを聞いたりする―――。最悪は発狂してしまうが。発狂は兎も角そういう可能性もあった。
その為理彩は調査を始めた。被害者の女子生徒から話を聞き終わると加害者の停学中の男子生徒に聞きこみした。その中で―――。
「下着しか着てない女にやられた」
「突然現れた。何だか分からないうちに、気が付いたら警察だった」
これらの証言に理彩は馬鹿な、と思った。女が1人でいくら油断してるとはいえ男3人を倒すなんて有り得ない―――。やられた男子生徒まで恐怖体験で錯乱してしまったのか―――?これはもう実際行って調べるしかない、と思った。

理彩は生徒会の人間なので生徒会の動きは解っていた。その為、夕方は生徒会として校内を見回り報告会を終えた後、そのまま下校せずに校内に残った。
22時過ぎ―――、理彩は眠い目を擦りながら待っているとそこに現れた。その人は注意深く周りを見渡し、安全を確認すると移動して次の所を確認していた。
理彩の隠れている教室にも来た。理彩は教卓に隠れて様子を見ていた。理彩はその人が近くに来ると息を殺し音を立てずに気配を消した。拳法をやっているのでその呼吸法で消していた。その人が隠れている理彩の前、つまり教卓の後ろを通った時―――。スカートを穿いていない下半身―――、パンティ姿だった。

理彩の意識の奥底に封じ込められた記憶―――かつて奈緒が夜中に幼かった理彩を連れて学校内でしていた下着姿での取り締まり。10年たった今でも脈脈と受け継がれていたなんて―――。受け継がれていたということは最低でも学年で1人はそういうのが好きな人がいなければならない。しかも格闘術に優れた人が―――。そんなに都合良くいるとは思えなかったが実際こうして見回りをしている。しかも、彼女が強姦を企てた男子生徒を葬り去っていたのは事実だった。

理彩は数日後に奈緒と会った。奈緒は笑って、
「居たでしょ?ホラだから言ったじゃん。理彩ちゃんが受験する時に―――」
と言った―――。
今思えば、奈緒は理彩をミッドナイトハンターにしたかったに違いない。現役時代は、僅か7歳の理彩に自分の仕事ぶりを見せたりした。理彩が中学生になって、ブラジャーをつけるようになったら、その姿を見て、まるでミッドナイトハンターみたい、とか言ったりした。話の所々にそれらしいことを混ぜて、最初に見た奈緒の仕事を見た事そのものを忘れても、何かあったらスイッチが入る様に仕組んでいたのかも知れない。更に理彩が奈緒とは違い、生徒会に入ったりして正義感を振り撒いてるのを見て尚更強く思ったのかも知れない―――。

正義感が強いなら、絶対にやらずにはいられなくなる。例え下着姿でも。

奈緒の考えは当たっていた。理彩はその後ミッドナイトハンターに会ってしまった。
「そう―――。貴方が私の後を継ぎたいと?」
理彩より僅かに身長が低い162cm〜3cm位の彼女は黒くて美しいストレートの髪をかき上げながら聞いた。勿論服は着ていない―――、白い靴下と靴を履き、白いブラジャーとパンティを身に着けていた。そして顔全体を覆うマスクをしていた。そのマスクも白い。この間隠れて見た時も白いパンティを穿いていた。白は暗闇でも目が慣れれば目立つ―――。それでも白に拘るのはきっと普段から清楚で綺麗好きであり、ミッドナイトハンターになっても譲れない線だったのだろうと思った―――。理彩は、
「はい―――。学園を守りたいんです」
と答えた。すると先代は、
「ならば私に勝って、私の正体を見破って下さい」
と言って構えた。理彩も構えた。従姉妹の奈緒や宗一が教えてくれている拳法の構え―――。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊