Midnight Hunter
百合ひろし:作

■ 第二章 伝統5

2人の闘いが始まった。いい勝負になるかと思いきや意外とあっさり勝負が着いた―――。
「嘘……、柏原先輩―――!?」
マスクを剥がすとそこに現れたた顔は文化部会会長の柏原由紀子だった。彼女は学園の天使と呼ばれていて清楚で大人しくて口数は少なく、読書をしてる事が多かった。そのイメージが余りにも強く、体育祭で活躍しても体育でいい数値を出しても記憶に残らない程だった。
理彩は入学当初から美人と言われてはいたが、彼女には敵わないと思っていて憧れだった。そんな彼女がミッドナイトハンターになっていたなんて―――ショック……いや、逆だった。嬉しいとさえ思ってしまっていた。自分が後を継ぐ為に倒した相手がそんな憧れの人だったなんて、と。理彩がそう思った時点で奈緒の仕込みは成功だった―――。
所でミッドナイトハンターは下着姿で居る為に負ければまず犯されるというリスクがある。その為、引き継ぐ際には格闘技の心得があるかどうかテストされる。由紀子も例に漏れず格闘技は身に付けていた。しかし、由紀子の格闘術は今、理彩と闘った様にだだっ広い場所で闘うのではなく、狭い所に誘いこみ相手を叩く類のもので、ある女子生徒を強姦をしようとした男子生徒達もそうやって倒したのだった―――。その為、狭い広いに関わらずどういう所でも対処出来る拳法を操る理彩には勝てなかった―――。
「明日から引き継ぎをしますから、私の後は宜しくお願いします―――」
由紀子はそう丁寧に言った。やはりこの人はミッドナイトハンターになっても自分の心を貫いた心優しい清らかな人なんだな、と理彩は思った。
そういう経緯で理彩はミッドナイトハンターになり、今まで勤めてきた。奈緒に無意識のうちに刷りこまれたとはいえ、理彩自身、生徒会長である表の顔とミッドナイトハンターである裏の顔、そのどちらにも誇りを持っていたのだった。

由紀子は引き継ぎに2週間と時間を掛けた。それだけ理彩に託したいものがあったからだった。そして最後に柏原由紀子が言ったのは、
「裏でこういう事やる人も必要なんですね。私が役に立てて良かった―――、そう思いました。赤城さん……、いや、リボンさん。頑張って下さい」
という言葉だった。由紀子はそれから人指し指で純白のパンティを直してからその場を去って行った。


それから2年近く理彩はミッドナイトハンターを続け、学園を裏から守って来た。その話を聞いて葵は、
「私……誤解してました。赤城先輩の前の先輩なんて凄く真剣で―――」
と呟いた。学園の正義を守るみたいな事を言いながらも何処かで、ただ脱ぎたいだけじゃないのか?と軽く見ていた告白した。理彩はそれを聞いて、
「奈緒姉さんは遊びでやってたわ。でも柏原先輩は違ってたわね。何世代も続くうちに随分変わったのかも知れないわね―――」
と答えた。葵はそれを聞いて、
「何世代も、か……」
と言った。葵は空手部、体育会系だった。如何にも体育会系的な性格ではなく大人しい性格をしているが、体育会的な伝統を重視する心は中学、高校と体育会系の部に所属していた為に充分に育まれていた。しかもその途絶えさせてはいけない伝統を自分に伝えようとした人が憧れの先輩だったら尚更だった。

葵は何処かでこうなる事を望んでいたのかもしれない、と思った。半信半疑ながらもミッドナイトハンターの存在を考えながら下着姿になっていたり、それ以上に、先程理彩と闘った時、絶対にパンティを見せたくないと思ったら、最初ローキックしか出さなかったがそうではなく、スパッツなどを穿くべきだったのだ。しかし葵はもしかしたらミッドナイトハンターと闘うかもしれないという状況の中でそれをせず、普通にパンティの上にスカートを穿いただけだった。

葵は考えていた、というより決心するのに時間が掛ったと言った方がいいかも知れない。
「私―――やります。お願いします……」
30分考え続けた後、葵は言った。やはり、心境は違えども憧れの先輩から引き継ぎたい気持ちは理彩が由紀子から引き継いだ時と同じだった。ここで引き継ぎは確定した。理彩は伸びをして、
「ありがとう。じゃ、私は見回りに行って来るわ。もう少し休んでなさい」
と言って、パンティを直してから颯爽と出て行った。その後ろ姿は何というか、美しかった―――。


葵は見送った後、立ち上がってハンガーに掛けてある理彩の制服を眺めてから、タンスの上に置いてあるアルバムに目をやった。そして手に取り開いた。
初代から9代目までの写真が入っていた―――。6代目は何故か男子で驚いたが、みんな下着姿でそして顔はマスクやサングラスで隠すというミッドナイトハンターの格好だった。
「この人―――誰かに似てる」
葵は5代目が気になった。ベレー帽を被ってサングラスを掛けるスタイルで耳の下までのいわゆるショートボブの可愛い髪型の人が口元に笑みを浮かべていた。下着もそんな人らしく可愛いピンクの地に赤い花の模様だった。
初代と9代目も見た。初代の奈緒は血縁者のせいか、理彩と似ている感じがした。また9代目は、理彩が感じた様にとても神秘的にすら感じた―――。ここに納められてる人達は……正直カッコ良かった。


「話は済んだようだね」
突然の声に葵は驚き、アルバムを勢い良く閉じてタンスの上に置くと共に戦闘体勢を取った。そこに立っていたのは身長185cm程のピエロだった―――。ピエロは葵が警戒心を解かないので両手を上げた。
「理彩、いや、リボンから話は聞いただろう」
ピエロは言った。葵は警戒心は解いたが拳を下ろさずに、
「あ、はい。話は聞きました―――」
と答えた。ピエロは、
「なら話は早い。俺が誰だか分かってない様だからちょっと手合わせしてみようか」
とマスクの下で笑いながら言った。葵は、
「え?」
と言った。この部屋で手合わせ―――?お世辞にも広いとは言えないこの部屋でいきなり格闘を始めるのか、と思ったが、ピエロは構えたので葵も気を入れて構えた。
「一発何か入れてごらん」
ピエロは言った。その人を食ったような言い方とは裏腹に物凄い闘気を纏っていた。葵はその闘気に飲まれそうになるのを堪え、パンチからのコンビネーションを出した。
ピエロは葵のパンチを弾きローキックを避け、そしてパンティを丸出しにしながら放った回し蹴りをしゃがんで避けた。その時、頭を覆うフードの天辺についてるボンボンを葵は蹴った。
葵は先程理彩が避けた時と同じ避け方だった事に気付いた。もしかしてこの人は奈緒の兄なのか?兄だとすれば当時の理事、つまり今の理事長ということになる―――。
一瞬の間に間を詰め、ピエロは葵を突き飛ばした。葵は壁に背中から激突したが気絶はしなかった。ピエロが手加減したのは受けて解った―――。
葵は片膝を立てて手を着き立ち上がろうとした。膝を立てたのでスカートは捲れてパンティが丸見えになった。
ピエロは立ち上がる葵に近付き、そしてマスクを外し、フードを取った。そこに現れた顔は―――。
「よ、用務員……さん」
葵は立ち上がり、腹を押さえながら言った。ピエロの正体は、ワイルドな顔立ちに無精髭、そして5〜7cm位の髪を立てている用務員だった。
「いかにも―――。用務員であり、理事長でもある権田原宗一だ。まあ理彩の話には出てきただろう」
ピエロは権田原宗一と名乗った。
「話に聞くのと実際にこうやって会うのとでは違うだろう―――」
宗一は言った。葵は、
「は、はい……」
と答えた。理彩の話の中で何度も宗一が出てはいたがやはりこんな時にこうやって目の前に現れると驚かずにはいられなかった―――。宗一は、
「今日は自己紹介だけにしておくよ。明日―――生徒会室に行くといい。今日はゆっくりとは行かないけれど休みなさい」
と言った。葵はお言葉に甘えてこの部屋で朝まで寝ている事にした―――。

理彩が見回りを終えて戻って来た時には、葵は既に眠っていたので音を立てずに服を着てそのまま宗一に挨拶して帰っていった―――。その時、東の空は赤くなっていた。

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