Midnight Hunter
百合ひろし:作

■ 第二章 伝統6

放課後―――。理彩は生徒会室の奥にある生徒会長の席に掛けて電話をしていた。他の役員や生徒には内容が分からない様に気を使っていた。電話の相手はホックだった。
「今日、宮原さんが来るわ」
『何で?』
「彼女に決まったからそれの説明に」
『私が何か出来る事ある?』
「引き継ぎの時にお願いしたいわ」
『了解ですよ』
といったあんばいだった。
葵は部活を早めに切り上げて下校時刻の少し前に生徒会室の前に来たが、扉の前で緊張した表情を見せた。生徒会長の理彩は非常にビシッとした威圧感の様なものがあった。それが凄いとかかっこいいとか思っていた訳だが―――。
葵は扉をノックして入った。すると理彩は一番奥の生徒会長の席に、他の生徒会の生徒はそれぞれ持ち場について賑やかにやっていた。葵の予想とは違っていた、もっと張り詰めていると思っていた―――。
「こんにちは、待っていたわ。早速ですが出ましょう」
理彩が言った。葵は、
「はい……」
と少し間の抜けた返事をした。理彩はクスッと笑い、
「生徒会はもっとピリピリしてると思ったの?」
と聞いた。葵は、
「え?どうしてわかったんですか?」
と聞き返した。理彩は、
「貴方、勘違いとはいえ生徒会にマークされた訳だし、生徒会の権力と言えばいいのかしら。そういうのからそう思っても不思議は無いわ。特に今は―――その見回りの前ですし」
と答えた。葵は、
「やっぱり先輩は凄いです。すぐ分かっちゃうんですね」
と笑顔を見せた。理彩は苦笑いをした。
「貴方の方が凄いわよ。自信持った方がいいわ。格闘技やるなら尚更よ」
と返した。葵の観察眼―――それが葵の強みだがそれに本人が気付いていないのは勿体なかった。
その様な会話を少し交しながら葵を用務員の小屋に案内した。葵はこの日は寮からではなくこの小屋から登校した―――昼休みにシャワーを浴びに寮に一旦帰ったが―――、夕方に見るとまた違った感じだった。朝より存在感が無く、このまま夜になれば存在自体分からないのでは、と思いたくなる程―――。
理彩は注意深く周りを観察し、誰も見ていない事を確認してから葵を裏口に案内した。そして声を殺して、
「初めてだから分かりやすいように明るい時間に連れてきたわ。でも今の時間じゃ早すぎるわ……。見られるリスクが高すぎるから、明日からは20時にしましょう。本来の仕事は22時からと覚えておいて」
と言い、ドアを開けて葵を先に入れた。そして葵が入ると、
「暫く待ってて。見回りをしてくるから」
と言って出て行った。

葵は30分程小屋の中に居たが、その間他には誰も居ない1人の状態だった。理彩は生徒会で居ないのは解るがピエロ―――用務員も居なかった。
それから暫くして理彩が戻って来た。理彩は葵に、
「何か周りで変わった動きはあった?」
と聞いた。葵は、
「い、いいえ―――」
と答えたが、理彩は葵の額を人指し指で軽く突いて、
「細かい情報収集は忘れてはいけないわ。毎日やりなさい」
と言った。葵は、
「は、はいっ―――」
と返事した。理彩は葵が何もしていない事にはさっきここに来るまでの会話で気付いていた。今までは榊の事件やミッドナイトハンターについてかぎ回っていたのに急にやらなくなってしまったからだった―――。しかし学園を守る以上、小さな情報も逃さないよう気を付けなければならなかった。
もっとも1人で全てをやるには無理がある―――。その為理彩は1つのものを渡した。
「携帯電話……?」
古びた携帯電話を見て葵は呟いた。恐らく3世代位は前のものである。形は時代遅れで、丁寧に使われていた感じはしたがそれでも表面の塗装が所々剥げていた。理彩は頷いた。
「ミッドナイトハンター専用よ、関係者に繋がるわ。逆に言えばその人達以外には繋がらないわ」
と言った。今まで「ホック」等とミッドナイトハンターとして電話をしていた時は全てこの電話を使っていた。自力で集めるだけでなくこういった機器も活用してやっていけ、という事だった。
この携帯を持ち歩くかどうかはその人その人によって違った。理彩は隠密性を重視し、携帯の着信音は勿論バイブの振動音が鳴ることすら嫌った為、見回りの時は制服の中に入れていたが、理彩の先代の由紀子は足に携帯ホルダーつきのバンドをつけてその中に入れていた。それも白だったのは言うまでもない―――。勿論着信はバイブにしていた。
葵はとりあえずこの日は携帯ホルダーは持っていない為ここに置いていく事にした。


「じゃ、服は脱いで下さいね」
理彩は笑って言った。そう、ミッドナイトハンターはパンティ姿を愛する人―――、仕事をするのに服を着ているのは有り得ない。理彩は外が暗くなったのを確認すると葵をけしかけて、ミッドナイトハンターの鉄の掟を説明した。

1, パンティ姿を愛しその姿でいる事。パンティは死んでも守らなければならない。
2, 正体を知られてはならない。
3, 正体を知られた場合は見破った者を後継者にしなければならない。
4, 卒業と共に引退する。通常の引退時は任務を適性を持った者に引き継がなければならない。
5, もし4,以前に希望者が現れたら適性を見た後に闘いによって決定する。希望者が勝てばそのまま弾き継ぎ、負けた場合は経過観察し、希望者に適性があるならば引き継ぐ。

葵はそれを聞いてから黙って恥ずかしそうにブレザーのボタンに手を掛けたが、その時1つの疑問が湧いた。
「冬はどうしているんですか?」
葵はブレザーのボタンを外して聞いた。そしてブレザーを脱いで床に置いた。冬は当たり前だが寒い、下着では防寒機能は殆ど無くそういう意味では裸と一緒であり、その状態で気温一桁以下の所になどいたら凍死してしまう。理彩は、
「下着の上にコートを羽織るわ」
と言ってタンスの引き出しを開け、コートを取り出した。上半身をすっぽり覆う厚手のコートだった。これを着れば成る程、凍死は防げる。その他レッグウォーマーや手袋等を着ければかなり暖かくなる。しかし、そのコートの長さだとパンティは見せている状態になる。ミッドナイトハンターはパンティ姿を愛する人なのだから―――当然である。もっとも今は夏―――、そんな心配は要らない。理彩はコートをしまい、葵が制服を1枚ずつ脱ぐのを見届けていた。
葵はブレザーを脱いだ後ネクタイを解き、それからベルトを外してスカートを落とした。床に落ちたスカートを跨いでからワイシャツのボタンを1つずつ外してワイシャツも脱いで、床に落とした。それから手を背中に回して指を組んだ。
「……これで、いいですか……?」
制服姿から水色のリボンが付いた薄い空色の可愛いブラジャーとパンティ姿に変わった葵は恥ずかしそうに言った。理彩は制服を脱ぎながら、
「ええ。後は、髪型を変えた方がいいわ」
と言った。それから理彩は葵とは対照的に黒いリボンが付いた濃い赤のブラジャーとパンティ姿になり、後ろに流す為に長めに縛っていた髪を解いた。これだけでも随分違うのである―――。生徒会長からいつものミッドナイトハンターに変貌した理彩を見て葵は鞄の中からゴムと髪止めを出して、先ずは右横でピョコンと小さく縛っているのを解いてから、肩より少し長い髪を後ろで束ねてそれを上に跳ねさせて、今度はそれを髪止めで止めた。今迄とは逆に完全に耳が出る形になり、シルエットで見ればショートカットにも見える。まあ、上に跳ねさせた髪も影となってうつるが―――。それを見て理彩は、
「ふふっ。髪型も決めていたのね」
と言うと葵は恥ずかしそうに、
「はい……、こうしようと思っていました……」
と顔を赤くして目を逸らして言った。そして再び両手を下ろして後ろに組んだ。理彩は制服をハンガーに掛けた後、マスクを取り出して顔に装着した。そして、
「貴方はどんなマスクがいいのかしら。それとも5代目のホックみたいに帽子にサングラス?まあどちらにしろ今日は無理だから、奈緒姉さんが使っていたカラスマスクをつけなさい」
と言ってタンスからかつて奈緒が着けていたカラスマスクを出して渡した。葵はそれを受け取って顔に装着した。それが妙に恥ずかしく、顔面は勿論耳まで赤くなっていた。

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