Midnight Hunter
百合ひろし:作

■ 第二章 伝統7

21時まで2人はそのままの姿で布団を被って寝ていた。真夜中に仕事をし、更に昼の学業や部活に影響が出ない様にしなければならないので眠れる時には寝て置かないとならないのである―――。
そして周りも充分に暗くなった21時―――、理彩と葵は準備をしてから外に出た。学園の敷地内は周りに植えた木の為に街灯の光が入って来ない為結構な暗さになっていた。これも今にして思えば理事長がミッドナイトハンターが活動しやすくする為に周りにはもっともらしい事を言って実施した事の様に思えて来た。葵はそんな暗いグラウンドと街灯の光が当たる3階より上のコントラストが美しい、と感じた。
「目立たない様にグラウンドとクラブハウスをチェックして、それから校舎に行くわよ……」
理彩は葵の耳元で囁くように言った。葵は小さく、
「はい」
と返事した。そして2人はグラウンドを終えて校舎のチェックに入る―――。この日は事件の匂いは無さそうだ、まあそれが普通なのであるがそんな感じであった。校舎の外側をチェックした後2人は最初の所に戻って来た―――、小屋から出て直ぐの渡り廊下の下の所である。そこには初代ミッドナイトハンターの奈緒は居城にしていたトイレがあった。
「じゃあ、目が慣れた所で少し訓練をしましょうか。今日は外は異常無いですし」
理彩が言った。葵は何の事だが分からず、
「何の訓練ですか?」
と聞いた。理彩は、
「闇で闘う訓練よ―――」
と言って構えた。葵は理彩の闘気を感じて構えた。そう―――、要は理彩と葵が闘うのである。理彩は葵が構えたのを確認すると、素早く攻撃に入った。

「あぐっ」
葵は理彩の蹴りを本能的にガードしたが、この間の学習室での攻撃とはまた違った威力に驚いた。あれで理彩は手心を加えていたというのか?その位威力が違った。もっともあの時は理彩は葵の攻撃を受け流したり避けたりした後で反撃をするという闘い方だったが、今は違う。始めから攻撃に入ってきた。
葵は何発か受けて吹っ飛ばされた。そしてグラウンドまで飛ばされ大の字になった。カラスマスクをした下着姿の女子がグラウンドで大の字になっている姿はとてもいやらしく感じたが葵本人もそう思った。葵は大の字に倒れている自分をもう1人の自分が上から眺めている様な感じを覚え、顔を赤くしながらも痛みに耐えて起き上がり、渡り廊下の下のコンクリートの床の所まで戻って来た。すると理彩は、
「土を叩きなさい」
と言った。葵は言われた通りに髪、肩、背中、そして尻と叩いた。理彩は、葵の後ろに廻って来て、ブラジャーの後ろ側とパンティを入念に叩いた。
「パンティを埃なんかで汚すのはご法度よ……」
と注意した。葵は、
「は、はい……」
と返事した。
その後何度も葵は理彩の攻撃を受けて何度も大の字にされた。その度に入念に埃を叩いていたが、最後に一発強烈なのを受けた。これ程実力差があったのかと思い知らされる程の攻撃だった―――。葵は背中を叩き付けられた後浮き上がりうつ伏せに落ちた後、更に勢いで半回転して大の字になっていた。理彩が近づいても葵は動けなかった。胸は激しい呼吸で上下し、マスクの中でハァハァ言っていた。理彩は軽く葵の腕を踏み付けたが反応が無かった為気を失ったと判断して、葵をそのままおぶさって小屋へと連れて帰った。
「闘いの他にももっと貴方が耐えなければならない事があるわ……」
理彩はそう呟き、ピュッと指笛を吹いた―――。


AM1時―――、葵が目を覚ますとそこは小屋の最初の部屋の中だった。小さなタンスがありその上にはアルバムが置いてあった。また、壁には理彩の制服と葵の制服が並んで掛けてあった。葵は制服は脱ぎっぱなしで出て来たので何者かが、ここではあのピエロ―――理事長兼用務員が掛けてくれたと考えると妙に恥ずかしかった。
「面―――着けてよう……」
葵は横に置いてあったカラスマスクを着け、立ち上がった。壁に鏡があるのでその姿を眺めたら、何とも言えない恥ずかしさで沸き起こってマスクの中で顔を真っ赤にしていた。
鏡に映る下着姿の自分を可愛いと思ってしまいドキドキが止まらなくなって右手で胸を押さえた―――。髪をまとめて顔にはマスクをしている為、自分なのだが自分では無い別の誰かに見えた―――。そんな『別の誰か』は青のリボンが付いたかわいいブラジャーとパンティを身に着けて紺の靴下をはいていた。
よく見るとその可愛い下着は汚れていたので叩いた。理彩が「汚すのはご法度」と言っていたのだ―――。愛する下着姿を汚してはいけないのと、そういう状況になるという事は自分が窮地に追い詰められているという事。学園を守る者が追い詰められてはならないのだった。
その時理彩が戻って来て、
「起きたのね、校舎に入るわよ」
と言った。葵は、
「はい」
と返事をしてついて行った。

職員玄関でいつもの様にキーを打ち込み鍵を開けて中に入った。
「この番号は覚えなさい。あと、定期的に変わるからその時はピエロが教えてくれるわ―――」
理彩はそう教えてくれた。葵は、
「はい」
と返事して中に入った。そして下駄箱―――。
実はここも2つ、職員は知らない事だがミッドナイトハンター用として確保されていた。理彩は蓋を開けて室内用のスニーカーを履き、葵にも履き替える様に言った。
「でも私、持って来て―――」
と言った。理彩は、
「分かってるわ、でも貴方の普段履いてる上履きとは行かないわ。闘いにくいし学年が割れますからね。兎に角開けてみて」
と言った。葵が開けるとそこにはきちんとスニーカーが入っていた。ピエロが前もって葵の外履きのサイズから丁度いいのを用意していたのである。
葵はそれに履き替えて今まで履いていたスニーカーを下駄箱に入れて蓋を閉めた。

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