Midnight Hunter
百合ひろし:作

■ 第三章 葵4

22時―――。
葵は昼に理事長室で言われた時間に寮から出て屋島学園に行った。そして例の小屋に入って挨拶すると、理彩が待っていた。髪を解き、ウエーブの掛った髪に顔の上半分を隠すマスクに黒い靴下、そして黒いリボンの付いたブラジャーとパンティ姿になっていた。
「こんばんは。早速ですけど、貴方まだミッドナイトハンターとしての名前が無いわ。考えて下さいね」
理彩はそう言い、葵が服を脱ぐのを待った。葵は1枚ずつ丁寧に制服を脱ぎながらハンガーに掛け、
「どういう名前にするのがいいんですか?」
と聞いた。すると理彩は、
「下着の部分部分の名前から取ってるわ」
と言って自分のブラジャーのリボンを指し、その指を下に移動させてパンティのリボンを指した。
「私は『リボン』よ。他にも『ホック』とか『ストラップ』とか『ハーフバック』も居たわね」
と言った。これには暗黙のルールがあって直接『ブラジャー』『パンティ』と名乗らない事、そして、『フロント』『バック』等下着の名称と判りにくいものにはしないというルールがあった。『カップ』は可で過去に居た。
「……」
葵は制服を脱ぎ終わり下着姿になった後、鏡の前に立った。今はマスクはしていない―――鏡には『自分』が映って居た。赤いリボンの付いたピンクのブラジャーとサイドが細めで同じく赤いリボンの付いた可愛いパンティ姿の自分を見て葵はドキッとした。解ってはいるものの、鏡に映る自分を見るのは恥ずかしかった。
パンティを直す時に少し足を動かした。その時にチラッと目に入った所―――、
「クロッチ―――はどうですか?」
葵は顔を赤くして理彩から目を逸らしながら聞いた。理彩はクスッと笑って、
「そこですか。赤くなりながら大胆なのね」
と言った。それを聞いて葵は益々赤くなってしまった。取り消そうにも他に名前が出て来ず結局そのまま『クロッチ』で通す事になった。葵は顔を赤くしたまま髪に手をやって横に小さく縛ってあるのを解き、その後後ろで縛りそして髪留めで上に上げた。そしてそれが終わると葵は理彩の前に立ち、手を後ろに組んで指示を待っていた。顔は終始理彩から逸らしていたが―――。
「名前の次はマスクね。どんなのが良いかしら」
理彩は聞いた。葵は、
「赤城先輩の前の人みたいに、顔全体を隠すのが……いいです……。柄は拘りません」
と顔を逸らしたまま言った。理彩は、
「分かったわ。その辺はピエロに作ってもらうわ」
と言った後、葵の顎に指を掛けて自分の方を向かせた。
「あと、クロッチ。恥ずかしがり過ぎよ。気持ちは解るけど、仮にも貴方の意志でもあるのだから、せめてその半分くらいにしなさい」
と厳しく言った。葵は、
「は、はい」
と返事した。理彩はコクリと頷いて、
「あと、名前が決まったのだからミッドナイトハンターとして会話する時は私の事は『リボン』と呼びなさい。呼び捨てで良いわ」
と言った。葵は、
「はい……、分かりました」
と答えた。理彩はそれから、
「先に行ってて。体育館の外側をチェックしてて。その後追い掛けるから」
と指示した。葵はその指示に従い先に出て体育館の外周をチェックし始めた。

特に異常は無く、暫くすると理彩が追いついて来た。理彩は、
「外は貴方のやり方に任せてみるわ」
と言って昨日とは逆に葵に任せてみた。そして体育館、校舎の外周は終わり、中に入った。昨日と同じく職員室から入り、理彩は後からついて来た。理彩に見せて貰った様になるべく音を立てない様にして、階段を登って行った。

するとその時―――、上の階から小さなゴミの様な物が1つ落ちてきた。ミッドナイトハンターは小さい事でも見逃してはならない。葵はそれを拾い、ついて来た理彩に見せた。それを見て理彩は、
「行きなさい」
と言った。そのゴミの様な物は小さな紙切れだった―――、綿埃ならば自然に落ちてくる事も考えられるがこの状況で紙は考えにくい。戸締まりがしっかりされている屋島学園では尚更である。
葵は2階に上がり、左右を見渡したが何も無かったので3階に上がって同じ様に確認した。しかし、そこにも何も無かったので4階に上がった。
とその時、強烈な殺気に襲われた―――。

葵はここは闘わなければならないと思い、身構えた。そして、殺気の位置を把握する為に少しずつ周りを確認しながら移動した。
そして教室の扉に背をつけて中を確認しようとした時に攻撃が来た。葵は間一髪でかわした。
「女―――?」
葵は思った。しかし、葵の頭を正確に陰から狙って来たものだったので、相手は何らかの拳法をやってると思った。
音を立てるのは良くないがあえて扉をガラッと乱暴に開けた。そして中に入ると―――、再び攻撃が来た。
葵が応戦すると相手は姿を現し、机と机の間で構えていた。つまり、こういった乱雑な中で闘うのが得意な人の様である―――。
真っ暗で頼りは外からの明かり―――。その僅かな光はその人のシルエットを映し出した。髪はストレートの黒髪、そして対照的に僅かな光の逆光の中でも確認出来る雪の様に白いマスクで顔を隠し、体のラインがシルエットになっていた。つまり服は着ていない―――。マスクと同様に雪の様に白いブラジャーとハイレグ気味のパンティを身に着けていた。更に足も同じ様に真っ白な靴下とスニーカーを履いていた。

もしかしてこの人は―――?でも思った通りの人だったら何故卒業したにも関わらずこんな時期にここに居るのか―――?

女は葵が何もしてこないのを見て、一歩踏み込み蹴りを放った後、再び下がった。葵はその蹴りをガードし、机の無い所に下がった。2人の間合いは開いた。
「この人―――本気じゃ……無い?」
葵は思い、構えたまま動かなかった。しかし、ここで闘うのは自分にとって不利なのは気付いていたので廊下にどうにかして誘き出したかった。広い場所で闘うのが得意な葵と、逆に乱雑な場所で闘うのが得意らしい女―――。

女は教室の後ろの扉を気にした。逃げる場所を確認するようだった。葵はその動きに気を取られたがその隙を逃さなかった。女は一気に間合いを詰めて突きの様な蹴りを葵の腹に打ち込んだ。葵はとっさに後ろに飛んでダメージを減らしたが受けきれずに吹っ飛ばされ、壁に激突した。
女は素早く崩れ落ちた葵に馬乗りになり、止めを入れようとしたが、そこに理彩が割って入った。
「そこまでよ、ストラップ」
ストラップ―――!?やはり葵の思っていた事は当たっていた。この人は理彩の先代の柏原由紀子だった―――。葵は、
「どうして今こんな……所に……?」
葵は腹を押さえながら苦し気に聞いた。すると理彩は、
「貴方の闘い方から大体の弱点は解ったわ。それを具体的に知って貰う為に協力して貰ったのよ」
と答えた。理彩と闘えば葵は負けるので、絶対的な強さが足りない事は確かに解る。しかし、それでは葵がただ強くなればいいのかという事になり、自分の土俵に引き込み、相手の土俵では闘わないというスタイルが出来上がらなくなる。ただ、打撃力や反射神経だけを求めても限度があり、それでは男を倒すことは出来ないのである―――。
また、葵の強さは更地での打撃力―――、それは理彩が初めて学習室で闘った時に気付いていた。ならばどうやって相手をその場に引きずり出すか―――?そこまで考える事が出来るのかを見る為に葵とは反対のタイプの由紀子に頼んでいたのだった。
結果は由紀子にやられてしまった通りである。由紀子は態と大きな隙を見せて葵の警戒心をそらした後に勝負を決めた。それは、葵が入って来て僅かに打ち合った時、葵の攻撃力を把握して瞬時に立てた作戦だった。
「まともに打ち合っても勝てないわ。貴方、攻撃力はリボン位あるから―――」
由紀子は葵に言った。威圧感のある理彩とは全く違うタイプで、マスク越しでも解る澄んだ声だった―――。由紀子は立ち上がって、
「貴方、相当リボンに気に入られてるのね―――。普通はこんな訓練してくれないわ」
と静かに言ってパンティを直した。葵は下から見上げる様に見ていたが、暗くても解る―――、本当に綺麗な人だと思った。
「私は先に戻ってるわ。気を付けて……」
そう言って由紀子は教室から静かに出て行った。

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