Midnight Hunter
百合ひろし:作

■ 第三章 葵6

「これで終わりよ、とりあえず」
理彩は言った。この日は校内にはあの2人以外は誰も居なく、"夜中の職員室でのオナニーショー"も無かった。理彩と葵は職員玄関から出て小屋に向かった。
一方学習室ではピエロが―――、
「随分派手にやったなあ〜。明日箱を仕入れないとだな」
と言って壊れた箱をばらして教卓の横に積み上げていた。半分以上使い物にならなくなっていた。


「戻りました」
葵は小屋に入って挨拶した。すると先に戻っていた白と黄色の下着姿の2人が、
「お疲れ様」
と言ったがそのうちの1人に対して驚きを隠せなかった。
「小倉……先生―――?」
葵は思わず声に出した。するとベレー帽を被った方の女は、
「うん、そうだよ」
と答えた。この声はさっきのおばさん声ではなく、いわゆる萌えアニメ声―――"小倉先生の声"だった。葵はアルバムを見た時、5代目の人が何処かで見た事あるなと思っていたが、まさか教師がかつてミッドナイトハンターだとは思ってもいなかった。
まあ元締めが理事長で葵の先代が生徒会長、その前が今ここにいる元文化部会会長とあれば教師がいてもおかしくは無い―――、もっともいうまでも無い事だが、小倉典子は現役当時は当然生徒だった訳だが。
「小倉先生は―――」
葵が言うと典子は手を前に出して言葉を遮った。そして、
「"小倉先生"はやめて。さっき私の事5代目って言った位なんだから私の名前はわかるでしょ?」
と言った。葵は、
「は、はい―――。"ホック"と……」
と答えた。典子は笑顔を見せて、
「そう―――。そう呼んで。どうしても名前で呼びたかったら、それでもこの小屋の中に限るけど、呼び捨てで"典子"にして」
と言った。葵は、
「分かりました……」
と答えた。ミッドナイトハンターは皆平等―――、だから先輩後輩の概念は薄い。というルールがあった。だから典子は葵に敬称を付けない様に言った。だいたいそうでなくたって『先生』と呼ばれる者が下着姿で夜中の校内をうろつくのはまずいだろう。典子はそういう意味も含めて呼び捨てで呼ばれる事を望んだ。

「典子……は何で先生になっても―――?」
葵は改めて聞いた。典子はブラジャーのストラップを直した。ちなみに二重構造になってる所とそうでない所の模様が分かれている可愛い黄色のブラジャーとパンティを身につけているが、リボンはついていないタイプだった。
「逆だよ―――。教員免許取ったんだけどね、ミッドナイトハンターをサポートしたかったからここの採用試験受けたんだよ」
と言った。由紀子は、
「ミッドナイトハンターは理事長室に入れますからね。話もしやすいのよ」
と付け加えた。葵はそれを聞いて考えたくない事を考えてしまった。すると典子は、
「わかるよ―――。無試験でとか、試験問題の横流しみたいな不正でとかそういう可能性」
と言った。葵はどうしてそれを言おうとしてた事に気付いたのか不思議だった。典子は、
「不正とかは無いよ。過去問は貰ったけどそれだけ」
と言った。典子が着任したのは2年前の春。今ここにいる由紀子が3年で、理彩が入学した年だった。その時は由紀子がミッドナイトハンターをやっていて、今葵が持っている専用の古い携帯電話は由紀子が使っていた。
典子は由紀子が仕事を始めた時間を見計らって電話を掛けて2人は顔合わせをした事があった―――勿論典子はその時は下着姿でだが―――。その為顔馴染みであり、それは理彩も同じだった―――。
まあ由紀子、理彩共最初はまさか教師がと驚いたが、教師の立場から様々な情報を集めたりと、色々な所で協力してくれた為、典子を頼りにするようになっていった。
「もしかして……」
葵は言った。典子は、
「どうしたの?」
と返した。葵は、
「裏サイトに書いてた人って……先―――、典子なの?」
と聞いた。典子は、
「そうだよ、私はその1人。まさか貴方が事件を探るとは思わなかったけどね。リボンと協力して―――ね」
と笑顔で答えた。葵は典子に直接習った事は無いが、見るといつも笑顔でいる。その時も、そして―――今も。凄く可愛くてそして人生楽しいんだな、と場違いながら思った。
「榊君の事件は細かく調べられればミッドナイトハンターが絡んでるって判るし、彼の為にもならないでしょ。あんな事がバレたら退学は免れてももう―――来れないから」
典子は葵から顔をそらして下を向いて言った。葵は、
「あんな事?」
と聞いた。葵はタバコは彼には有り得ないと思っていたが更に重大な事だとは思わなかった。典子は、
「女子の体操着目当てだったんだよ。ある時気付いてそれから張ってたの―――」
と答えた。

典子は生徒同士の会話を聞いてた時があり、その中で、ある時から榊が急に羽振りが良くなったとの噂があった事が気になっていた。
「ちょっと―――怪しいな」
その噂を聞いて典子は呟いた。勿論周りには分からないように―――。
放課後、暫く美幸とは一緒には帰らず単独で行動した。榊をマークして尾行していると―――。彼は他校の生徒とつるんで何かをやっていた。
「じゃ、ヤらせてくれたお礼だ―――」
「確かに2万、毎度あり」
榊は他校の人間―――仲間にクラスメート等を紹介していたのである。表向きは彼女の欲しい自分の仲間と彼氏が欲しいクラスメートを合コンの様な場を設けて出会いの場を提供してたのだが、本当は仲間のSEX相手として提供していたに過ぎなかった。
しかし、これだけでミッドナイトハンターとして行動する訳には行かなかった。あくまでも夜の学園を守るのが仕事だから学園の外には出られない―――。そもそも出たら捕まってしまう、というのがひとつ。もうひとつは、典子は現役のミッドナイトハンターではなく、教師であるからだった。
「リボン―――。ターゲットは榊君、クロよ。でも何か仕掛けないと……」
後者については現役のミッドナイトハンターに連絡すれば良い。実際今までも典子は赴任してから由紀子、そして後を継いだ理彩に協力してきたのだから―――。その為、典子は理彩にそう連絡した。

それで理彩と典子は榊を捕える為の罠を張る事にしたのだが、何とかしてテリトリーである夜の学園に誘いこむ必要があった。
たまたまだった―――。典子は久し振りに美幸に送って貰った。その途中に怪しい店があり、そこに榊が入って行ったのを見たのである―――。
「先輩、ご免なさい。ここで降ろして下さい」
典子はそう言って降ろして貰った。美幸は笑って、
「何?典子、あの店で大人のオモチャでも買うの?」
と言った。典子は、
「違いますよ先輩」
と笑って答えた。典子は"先輩、何かスルドイ"と思ったがそれは間違いだった事には気付かなかった―――。

美幸は典子を降ろした後そのまま車を運転して帰って行ったが、その時思った事―――、
「オナニーしたいなら言えば幾等でも協力するのに―――。あんっ……、したくなっちゃった……典子、可愛いブラしてるから―――外してあげるのに」
という事だった。鋭かった訳でも何でもない、榊に気付いたのでは無く、ただ典子をオカズにしたいと思っただけだった。
美幸にとってオカズとは典子だけではない。他の男性教師―――特に体育教師や運動部の顧問等、更には男子生徒でも、自分の妄想のネタに出来れば良かった―――。

典子は人と待ち合わせしてる振りをしてうまくその怪しい店から見にくい位置に立ち、観察した。元ミッドナイトハンターだけあって隠密行動は得意である。そして待ってるとその時榊が店から出て来たが、その時つまづいて袋の中身をぶちまけた。
「体操着―――?」
典子は思った。榊は体操着マニアなのか―――?しかし、この様な店に出入りするなんて結構闇に染まっている。まあもっとも出会いの斡旋している時点で普通ではないが―――。

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