Midnight Hunter
百合ひろし:作

■ 第三章 葵7

数日後の夜からonirokの名で学園裏サイトで書き込みを始めた。その内容は、縦読み等を駆使して、体操服の入手ルートとかそういった内容である。
何回か榊を尾行した結果判った事は、彼は裏サイトを覗いている事、そして仲間への出会いの斡旋だけで無く、そういった物品を自分が楽しむだけでなくマニアに転売していた事だった。
それを利用して罠を仕掛けて行ったが、なかなか榊は掛らなかった。警戒している事は彼の書き込みにそれはみられた。
『夜を守る女が居る噂、下着姿でめちゃ強いらしい』
と折り返し斜め読みで書き込んでいた。これほど分かりにくい斜め読みを使った位なので何処からか情報を得ていたのだろう。また、なるべく他の人には知られたくない情報であった。
暫く罠を張るのを止めて、1ヶ月後―――。
『生徒会長が体操着を持って帰るのを忘れた』
と仕掛けた。生徒会長とは理彩の事だった。後は流石の榊も生徒会長の理彩のならば少々危険を侵しても冒険すべきだ、美人という事で校外でも知られている赤城理彩のものとなれば幾等で取引き出来るか分からない。という事で学園に忍び込む事にした―――。
そして巡回していた理彩に仕留められたのだった。彼はミッドナイトハンターが噂ではなく本当に居たことを確認できたが、まさかそのミッドナイトハンターが体操服の持ち主である理彩だったとは夢にも思わないだろう。彼の中では彼を倒した女は永遠に闇の中である―――。
起きたのは用務員の小屋の中だった。とはいってもミッドナイトハンターの拠点である部屋とは別の部屋―――。
「用務員のおっちゃん!」
榊は叫んだが、もう1人居た事に驚いた。
「小倉先生―――??」
そう。典子が居たからだった。彼の知るところではないが、典子はミッドナイトハンターのホックとしてではなく、「(当然の事だが)きちんと服を着ている」小倉典子先生として居たから彼は驚いた。
「終電落ちちゃったから、今日は泊めさせて貰ってね」
典子は言った。それから、
「所で何で校内に入ろうとしたの?忍び込もうとした所見えたから―――」
と軽く尋問をした。榊は最初は隠していたが隠しきれなくなったので喋った。しかし崩れ行く時に見た、ウェーブの髪で顔の上半分を隠すマスクをした下着姿の女を見た事はとても言えなかった。仮に言ったとしても用務員と小倉典子先生には、自分がその女を襲って下着姿にした挙げ句反撃された―――と思われるに違いない。そう思われたら、今まで沢山の同級生の女子をうまい具合いにいいくるめて、仲間にSEX用に紹介していた事もバレ兼ねない。それは非常にマズイ事だった。
すると典子は、
「もう、一切から手を引くって約束するなら、タバコって事で手を打つよ」
と取引きを持ち掛けた。榊は典子が言った『一切』という言葉から、この先生は全て知ってる、『バレ兼ねない』と思ったが全てバレてるに違いない―――と観念した。


これが榊事件の真相だった。彼は去年、葵と同じクラスであり、クラス委員をやり、サッカー部では1年生ながらレギュラーを取るなど表では優良生徒として輝いていた。
「ただし、忘れないでね。この話はミッドナイトハンター内だけの話だよ」
典子は釘を刺した。あくまで榊はタバコを吸った事による停学―――この真実を外に知らせてはいけないのである。半分は榊への温情、もう半分はミッドナイトハンター自体の為―――。この事件の真相を広めると言うことは、榊を捕えたミッドナイトハンターの存在を公表しなければならなくなるという事―――。

葵は何だか力が抜けた―――。タバコを吸わないのにタバコで捕まった榊の事件はおかしい、榊は填められたのではないかと思って調べ始めたのに、その途中で自分が捕まって、その後の話の流れでミッドナイトハンターになり、更には実は榊はもっと酷い事をしていて裏で金儲けをしていただなんて―――。
しかしそれは葵が勝手に榊という男の像を描き、勝手に調査を始めてその結果勝手に裏切られただけの話である。それをしなければ葵の中では今でも榊は変なヤツではあるが品行方正な生徒であり、ミッドナイトハンターになることもなかったのである。
「貴方はそれでも普段、彼に会ったら今まで通りに接しないといけないわ―――。幻想打ち砕かれて幻滅しましたなんて態度は許されないわ」
理彩が言うと葵は気を取り直して、
「はい……解りました……」
と答えた―――。まだ語尾は詰まってはいたが―――。そう、あくまで葵は真実等何にも知らない生徒―――なのである。
「じゃ、そろそろ寝ておかないと後半がきついよ」
典子はそう言って壁に寄りかかって体に布団を掛けて直ぐに寝てしまった。由紀子も理彩も典子に続いて寝てしまい、起きてるのは葵だけになった。みんな、ミッドナイトハンターとしての体調管理の仕方は解っている。兎に角寝られる時には寝ておくのである。ミッドナイトハンターとしての自分を守る為に―――。その為葵も起きてる訳には行かなかったので同じ様に布団に丸まって眠った―――、かなり疲れて居たので眠りにつくのは早かった。


葵は理彩に起こされた。見ると典子と由紀子は部屋からいなくなっていた。
「典子と由紀子先―――、由紀子は?」
葵は聞いた。理彩は、
「もう"帰った"わ。貴方と闘うという目的は達成したから」
と言った後、
「2回目の見回りに行くわよ」
と言って葵に外に出るように言った。理彩は、
「私が中庭側を見るから、貴方は今度は1人でグラウンド側を見なさい」
と言った。葵は、
「はい」
と返事して、カラスマスクを着けてから小屋からグラウンドに出た。

―――とその時、強い殺気を感じた。理彩や由紀子、そして典子から感じた物とは違い、更にはピエロとも違う異質の―――纏わり付くような殺気だった。葵がその殺気の方に振り向くと締りの無い体付きの大男が立っていた。
「マジで居るとは思わなかったぜ……。この女、俺の餌にしてやる」
顔を見られない様にサングラスとマスクを着けた男がそう言いながら立っていた。マスクは涎で染みになっていて、股間は穿いているズボンを突き破りそうな勢いだった。
「しまっ……」
葵は闘う体勢が取れずに男に組み付かれてしまった。それでも何とか抵抗して振り解いて男に蹴りを入れたが、男はその攻撃を弾いた。
「え……?」
葵は一歩下がって呟いた。この男は格闘術の心得が有るのだと感じた。多分、ミッドナイトハンターに対抗するには「格闘術を持っている男」でなければならない、という事になっていたのかも知れないと思った。
「聞いてた話とは違う奴の様だけど俺には関係ない。大人しく犯されな。ヒヒヒ」
男はそう言って葵に向かってパンチ、蹴りを繰り出した。葵はそれらの攻撃を弾いたが相手の男は体格もかなり大きい男で攻撃が重く、耐え切れなくなってきた。
『貴方、一直線過ぎるのかな―――?』
『これでクロッチも自分に足りないのがわかったでしょう』
典子や理彩が言っていた事を思い出した。格闘経験のある大柄な男に対しまともに打ち合いしても勝ち目は―――無い。だから理彩は由紀子や典子に頼んでミッドナイトハンターとしての闘い方を教えてくれたのに、早速大きな隙を見せてしまった―――。
しかし、走って逃げるだけの余裕は無かった。このまま打ち合うしかなかった。葵は男と2、3合打ち合ったが、とうとう男の攻撃が―――。
「あぐっ!」
葵は側頭部に攻撃を受けて吹っ飛ばされ、背中から勢い良く落ち、大の字になってしまった。男が近づいて来るのはわかったが、そのまま意識は遠のいていってしまった……。

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