Midnight Hunter
百合ひろし:作

■ 第三章 葵9

3週間後―――。歴代ミッドナイトハンターの中で一番時間を掛けた引継ぎとなったが、それも最後の日となった。
「私から貴方への引継ぎの時より時間掛かったじゃない」
由紀子は電話で理彩に言っていた。理彩はクスッと笑って、
「ええ。クロッチはなまじ攻撃力あるし、色々出来るからどうしても正面から闘う癖が抜けなくて―――ね」
と答えた。しかし、3週間という短い期間で葵は様々な闘い方を覚えて行っていた。

とりあえず教えられる事は全て教えたので、最終試験として一人で見回って貰う事にした。
葵はミッドナイトハンターの格好になるために着ている制服を一枚ずつ脱いで、最後にスカートを足元に落とし、赤いリボンが付いた可愛いピンクのブラジャーとサイドが1.5cmと細めのパンティ姿になった。それから髪を後ろで縛ってから髪止めで上向きに止めて、理彩の説明に対し、
「わかりました」
と答え、それからカラスマスクを着け、靴をはいてから音を立てずに小屋から出た。出来るだけ音を立てない方法は理彩に仕込まれていた。
「この格好で表に出るのは今日が最後になるのかしら……」
理彩は少し寂しそうに呟いた。なんせ二年近く―――、ウエーブの掛った髪、顔の上半分を隠すマスク、身に付けているのはリボンの付いた赤い艶のあるブラジャーとパンティ、靴下のみという姿で毎日夜の学園を守っていたのだから―――。

葵は理彩から教わった事の飲み込みは非常に早かった。最初はぎこちなかったが、今は殆んど不自然さを残さなくなった。音を立てずに校舎の外を先ずグラウンドから見ていった。この日は月明かりが葵の姿を照らしていた。月が出ていない日はグラウンドの周りに植えてある木が街灯の光をほぼ完全にブロックして光が届かないが、この日は満月―――、葵が何色のブラジャーとパンティを身に付けているのかさえも分かる位の明るさだった。
葵はグラウンド側には異常が無いことを確認すると、中庭に移動した。勿論物音を立てずに―――である。中庭は逆に暗闇だった。グラウンド側の校舎と逆の北側の校舎に挟まれた谷間。月の光はその北側の校舎を照らしたが地面までは届かなかった。
自分の足元も見えない暗闇の中進んでいるとその時背後から殺気を感じた。葵は思わず殺気に対して間合いを開けた。
その殺気の正体―――、暗闇をバックにしたシルエットは葵より遥かに大きく、ピエロと同じ位の長身に感じた。相手は身長185cm前後で、普通に考えたら男である。更に、この間葵を犯そうと襲った男も180cm位あったが、その男とは違い、締まった肉体に思えた。
ジャリ……
相手が地面を鳴らした瞬間拳が飛んで来た。葵はそのパンチをいなして後ろに飛び退いた。その攻撃は重く、捌いた左腕が痺れたので葵は腕をブラブラさせてからパンティを直した。更に相手は蹴りを出してきたので葵はしゃがんで避けてそのまま足払いをした。
「うぐっ」
攻撃が効いたらしく相手は声を上げた。声からして男であるのは間違いなかった。
その後何発か打ち合って葵は男の攻撃を受けてしまった。物凄い攻撃力に吹っ飛ばされたが何とか受け身を取った。
「うう……っっ」
大の字になった葵に男が近付いてきた。
『パンティ汚すのはご法度よ』
葵は理彩の言葉を思い出した。―――そう、汚す状況とはこういう風にピンチになるということ。この間も同じ状況になりながらも気付かなかったが―――。
男が捕まえに来たので葵は男の胸を蹴飛ばして飛び起きた。捕まる訳には行かない、この間は理彩達が助けてくれたが今回は助けてくれないかもしれない―――、と思い必死に蹴り、飛び起きたのだった。しかし、その感覚に違和感を感じた―――。
「上半身―――裸?」
葵は思った。靴底から伝わった感触は大胸筋を直接蹴った物に感じたからだった。これだけ近距離でも相手の姿が分からないほどの暗闇だった。
その時北側の校舎が目に入った―――。葵は胸に蹴りを受けて男が怯んだ隙に走って逃げた。男が相手だったらこうするのがいいかもしれない。別にミッドナイトハンターだからといって逃げてはいけないなんて事はない。典子―――ホックは葵を目の前にして逃げ、自分の舞台で闘ったのだから―――。男は追いかけて来たが追いつかれる前に葵はグラウンドに出た。そして男もグラウンドに出た。

葵は敢えてここで構えた―――。グラウンドという野戦で体格も体力も力もどう考えても相手が勝る状況で―――。

月明かりが男の姿をはっきりと映し出した。男は葵と同じ様な顔全体を隠すマスクを顔に着け、そして上半身は裸だったが格等家の様な引き締まった筋肉質の肉体だった。そして下半身は黒のビキニパンツ―――。股間はきっちり覆っているが、サイドは殆ど紐の様に細いものだった、まるで股間の盛り上がりをアピールするが如く―――。
「6代目―――??」
葵は思った。それしか考えられない。葵や理彩、そして典子や由紀子の様にマスクで顔を隠して居て更には下着しか身に着けていない。しかも、小屋にあるアルバムの写真にあるのと同じマスクをしていたら、この男は唯一の男子であった6代目のミッドナイトハンターとしか考えられなかった。
「クッ……」
男の様子が少しおかしくなった。その隙に葵は男に向かって足を飛ばした。男はその攻撃をかわし、パンチを出した。葵はその攻撃を裁いて肘を男の腹に入れた。男はその攻撃をまともに受けたが、腹筋に力を入れてダメージを減らした。男はそれから懐に入って来ていた葵を捕まえようとしたが、葵は素早く男から離れた。
何回か打ち合った後、葵は男から集中力が無くなっている事に気付いた―――。暗闇の中で闘った時は断然葵が不利な状態だったが今は男が集中力を無くしたせいか五分五分の状況だった。男の攻撃を避けた後もう一度葵は男の懐に入り膝を入れたがその時脛にあるものが触れた―――。その触れたものは湿っていた。男はダメージを受けて腹を押さえながら膝を付いた。

葵がその男、つまり6代目のミッドナイトハンターだと確認出来る程姿が見えたのと同様に男からも葵の姿は良く見えたのだった。葵がカラスマスクで顔を隠し、赤いリボンの付いたピンクのブラジャーとパンティを身に付けていたのが―――。男は最初は暗闇の中だったので葵が下着姿だったのは何となくわかってはいたが、グラウンドに誘われた事でその姿をはっきりと目にしてしまい、性的に興奮して力を出し切れなくなってしまったのだった―――。そう―――、勃起して我慢汁を出していたのでパンツを濡らしていたのだった。
葵は男が立ち上がろうとした時に止めの一撃―――、一瞬男の視界のど真ん中に、片足を振り上げた可愛いピンクのパンティの股間部分がドアップで入り、目に焼き付けたと思ったらその直後に気を失って崩れ落ちた。葵は足を振り下ろしていた、踵落としが男の頭に入ったのだった。

この間、葵は犯され掛けたがその時相当相手の男は興奮していた。逆に性的に興奮させれば隙が生まれるかもしれない―――、そう思って取った作戦はこの男に対しては成功した。自分の土俵に相手を引きずりこんで闘うというやり方だけでなく、この3週間、闇での闘い方を理彩に仕込まれた御蔭でもあったが、それだけではない―――。
『空手のルールに救われたな。もしリアルファイトなら―――宮原の方が強かった』
葵は気付いていないが、かつて空手の試合で葵が負けた時先輩が呟いた一言―――。リアルファイトで勝てる様に先輩が仕込んできた事がここで活きていた。先輩が仕込んできていた事の積み重ねがあった為に、たった3週間で理彩の特訓をモノに出来たのであり、更には集中力を失ってたからとはいえこの男にも勝てたのだった。

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