緑色の復讐
百合ひろし:作

■ 第一話8

「もう……いいでしょ?」
どの位痙攣して余韻に浸っていたかはわからなかったが、痙攣が収まり現実に帰って来た遥は左手を顔から退けて恥ずかしさから赤くなっている顔を小夜子に向けた。小夜子は、
「そうね、そろそろみんなも───そして貴方も帰してあげる」
と完全勝利を確信した表情を見せた。青山遥はもう明日からまともに学校には来れない、来る為にはもう小夜子の庇護が必要なのだ。しかし、念には念を押しておく必要があった。
「真由羅───やりなさい」
小夜子は真由羅に指示をした。真由羅は指示通り素早く遥の体に馬乗りになり、自由の利く左腕を自分の膝裏に挟んで遥の自由を完全に奪った。そして右のポケットから箱を取り出して開けた。

入っていたのはマッチの頭が3個とマッチ数本───。

真由羅はマッチの頭3個を取り出し遥の乳首を避けるようにして右の乳房に乗せた。そして頭だけではないマッチを取り出し、摺ろうとしたがうまく火が着かず何本も折った。
遥はその間、自由が利かない体をくねらせ脱出を図るも完全に押さえられて逃げられなかった。
「真由羅、何やってるのよ。早くしなさい」
小夜子はマッチ1本にまともに火をつけられない真由羅に催促した。真由羅は遥の乳房から落ちたマッチの頭を拾い、もう一度乗せ、箱からマッチを取り出してすった。今度は火が着き、それを遥の乳房に近付けた。遥は乳房の上で火が上がる事に恐怖して顔をそらしかけたが───、

火の着いたマッチを持った真由羅の震える右手、マッチの頭が乳房から落ちない様に乳房に添える左手、そして歯をカチカチさせながら泣いている真由羅の表情を見て───、彼女は私より酷い目にあって来たんだ、と悟った。その真由羅は声に出していたのか、それとも万が一でも小夜子に聞かれるのはまずいから声には出さなかったのか、わからなかったが真由羅の口が、
「ごめんなさい───」
と動くのを見て完全に抵抗するのをやめ、目を閉じた。
「早く、楽になろうよ」
遥は真由羅にだけ聴こえる様に呟いた。真由羅は同様に遥にしかわからないように頷き乳房の上のマッチに着火した。
炎は激しく上がり、遥は乳房から来る強烈な痛覚に叫び声を上げ、体を跳ねさせた。真由羅は遥と同じ位の割りと大柄の体格だったが遥の力にはね飛ばされ横に転倒した。
辺りには燐の燃える臭いに混じり僅かに皮膚の焦げる臭いが混ざり、近くに立ち込めた。遥は横向きになって背中を丸め、マッチで焼かれた乳房を押さえ、痛みに堪えるように歯を食い縛っていた。
そして何とか痛みに慣れ、目を開けてみると───。尻をついた状態で顔を覆って泣いている真由羅のスカートの中がモロに見えていた。白の可愛いパンティから出ている太股の内側に醜い火傷の跡があった───。

遥は気付いた。自分には乳房に、そして真由羅には太股の内側、股間から5cmも離れていない所に火傷を負わされた理由を───。もし教師に、小夜子にやられたと言うなら、やられた証拠を見せなければならないが、クラスの担任も学年主任も男性である。その教師に、ブラジャーを外したりスカートを捲ったりして火傷させられた、と見せられるだろうか?答えは否。仮に覚悟を決めて言いに行ったとしても見せている現場を押さえられて、教師による生徒への不純行為やら生徒の方から教師を誘って売春してる等と騒ぎ立てられて教師もろとも潰されてしまう───小夜子はここまで考えていたのだ、と。
遥は思った。これ以上この学校では生き残れない。生き残るには真由羅の様に何でもいう事を聞く小夜子の奴隷になるしかないんだ───と。


小夜子はショーはお開きという事でクラスメートを帰した後自分達も帰り支度を始めた。そして、遥の制服を手に取りその中からリボンを見付けた。
「約束の証としてこれはこうしておくわ。きちんとした物が欲しかったら───」
と言ってリボンをほどき、ハサミを取り出し半分に切ってしまった。そして半分になったリボンを同じ様に結んだ。小さいのは言うまでも無い、校則違反で内申点は減点である。
「真由羅、後は頼むわよ」
小夜子はそう言ってグループのメンバーを連れてサッサと帰ってしまった。

教室に残されたのはパンティ一枚姿の遥と真由羅だけになった。遥はゆっくりと起き上がり、なにも言わずに窓際に行き、外を見た。そして、
「全国大会……出たかったな」
と一言だけ呟き、暫く何も言わずに外を見ていた。掃除をしない小夜子に目を付けられ暴行を受けた時は、中学の時やっていたバトミントンを高校でもやろうと仮入部をしていたが、特別補習なるいじめを受ける様になってからは部活には行けなくなっていたので入部自体が消滅してしまった。
その件について謝罪してバトミントン部に入ったとしても、この高校にいる限り、小夜子にいじめを受け続けるだけである。それこそ死ぬか、真由羅の様に奴隷として生きるかするまでは───。小夜子が言った約束の証とは、奴隷になるのならばリボンを買って返してやる、という事だった。真由羅を見ながら言ったそれらの言葉からはそういう意図があった。


真由羅は遥に制服と、その上にブラジャーを乗せて返した。そして、
「私が掃除するから……」
と言って遥が汗と愛液で濡らした床を掃除した。遥は掃除をしている真由羅に対して、以前の様に自分がやるとも手伝うとも言わず、黙ってブレザーの中にはしまってあるハンカチで手を拭いた後、ブラジャーを着けその上からワイシャツを着てリボンを着けた。そしてスカートを穿いて、最後にブレザーを着た。それから鞄を手に取り、
「じゃ、帰るよ……」
とだけ言いい、ドアに手を掛けた。真由羅は切られたリボンが半分床に落ちてる事に気付き、
「あ、青山さん……!リボン、半分……」
と遥を呼んだ。遥は振り返り、
「あげるよ、記念に。生まれ変わったらお互い幸せになろうね」
と言い、教室を出た。そして早足で校門を出て一度だけ振り返った。
「夢に……終わったな……高校生活」
遥はそう呟いた後走った。もう、振り返る事は無かった。

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