緑色の復讐
百合ひろし:作

■ 第四話9

走り去る車の中で会話が聞こえていた───。真由羅には周りは何も見えなかった。既に夜なのにどうやらこの車の中は明かりが無い、それ処か態々光が入って来ない様になっている様である。前席と後席は壁で仕切られていて前席の様子は全く窺えない。頼りになるのは運転席から聞こえてくる男性と遥と子供の声だった。それと、頭に感じる肌の温もりと制服らしき布の感覚───。つまり真由羅は遥の太股に頭を乗せて上半身を横たえていたのだった。
真由羅は、
「今何処に向かってるの?それと私が責任取るって何をすれば……」
と言った。遥は、
「暗くて怖いでしょ……私も最初にこの車に乗った時はそうだったよ。でも───我慢した」
と真由羅の質問には答えずに話し始めた。そして、
「でも、今は真由羅さんが何を見ようとしてるか判るよ。そういう訓練したから。全ては新潟小夜子を潰す為に───」
と続けた。真由羅は質問に答えてくれない事を不満に思う事は無かった。自分は遥に火傷を負わせた等酷い事をしたわけだから───罪滅ぼしに遥に殺される事を望んだのに遥は、殺したら友達になれない、と断ったから───。真由羅は思った。遥が居なくなった席で泣いた日、遥は自由に羽ばたいたと思ったが、そうではなく未だに小夜子の呪縛から逃れられずにいて、だから復讐に走ったのだ、と。
「私───話せばいいかな?誰かに。私、酷い事したから……」
真由羅は言った。遥にかかった小夜子の呪縛を解き放つ事が責任取ることなのかな、と思って口に出した。すると遥は、
「うん───お願い。それは真由羅さんじゃないと出来ないから」
と答え、真由羅の頭を撫でた。それから、
「今は───ある山奥に向かってるよ。二日我慢してそこで暮らして。私が監禁した事にするから。二日経ったら迎えに行くよ」
と答えた。真由羅は遥の手が僅かに緊張している事に気付いた。二日経ったら、ということは二日以内に小夜子を潰すという意味に他ならなかった───。


真由羅は目を覚ました。そこは山奥の小屋の中らしき所だった。起き上がると、そこには生活に最低限必要なものしか置いて無かった。ハンガー掛けが目に入ったがハンガーには何も掛っていなかった。
真由羅はゆっくりと立ち上がり、自分なりに状況を整理しようとした───。黒い高級車に乗せられて遥と子供、そして運転手の男性と共に移動したのだった。その際に遥が二日我慢して欲しいと言ったがここがその場所なのだろうか───?しかし、誰もいないと不安になる。
と、その時ドアが開いた。
「青山さん───?」
真由羅は言ったが入って来たのは遥では無かった。真由羅自身や遥と同じ位、もしくはもう少し身長が高い女性と小学生位の子供だった。
子供は顔を見せていたが女性は遥と同じ様に面を着けていた。長い髪をなびかせ、白いスーツにスカートスタイルだった。
「青山さんは───もう行ったわ」
女性はそう答え、真由羅は
「もう、行っちゃったん……ですか」
と視線を落とした。少し話をしたいと思っていたので残念だった。


電話が鳴った。小夜子がスマホの画面を見ると、そこに名前は無かった。電話帳に無い物は何も記され無く、たまにそういった類の迷惑メールが入って来るので別段珍しいものでも無かったが、今回は妙な胸騒ぎがしてそのメールを開いた。

『新潟小夜子、明日夜に学校に一人で来なさい───熊本薫』

「面白い───、行ってやるわ。正体を暴いてやるわよ。私を目の前にして今までみたいにやれるのかしら」
小夜子は言った。あくまでも今までに通り魔、つまり遥にやられた人達は小夜子の部下で小夜子の命令を聞いていじめをしていた実行犯である。幾等周りの連中を葬れてもリーダーである小夜子の顔を見たら恐怖が蘇り、足がすくむと考えた。しかし一つ引っ掛かった。
「熊本薫って誰かしら───?」
小夜子は思った。しかしそんな事はどうでもいい。そしてまだ残っている他校のグループメンバーに連絡を取り、密かに後をつける様に指示をした。
相手から呼び出して来たのは却って好都合。それに乗る振りをして───、
「フフフッ、私の勝ちよ。呼び出すなんて馬鹿な真似を……袋叩きにしてやるわ───」
と言った。

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