緑色の復讐
百合ひろし:作

■ 第四話10

夜───。遥はシャワーを浴びた後、教室で公開オナニーをさせられた時に着けていた黄緑色をベースにした下着を二年振りに着けた。あの後洗濯してそれからずっとタンスの奥にしまっていたものだった───可愛くて気に入っていたのだが、どうしてもあの日の事を思い出してしまい苦しかった。頭を抱えて床に転がっていた時もあったが、捨てようとしても捨てられず今まで来てしまった───。
白い部分は少し黄ばんでいた、着ていた頃はその部分はもっと白かった。聞いた話ではあるが、幾等洗っても体の脂が布に僅かに残る為、一度使ったものは洗濯後に長期間放置すると脂が酸化して黄ばんで来るらしい。遥はそんなウンチクを思い出し、クスッと笑った。
そしてその上に制服を着た。それから面を鞄に入れてアパートを出た。


遥は二年振りに学校に来た───とは言っても今は外部の者が不法侵入している立場に過ぎなかった。いくつか防犯カメラがついていてそれに映っているのも承知だった。面は来る途中で着けていたのでこの時点では分からないが、もしかしたら警察が来るのは時間の問題かも知れない、と思った。
小夜子を呼び出したのは体育館裏の裏庭で一番人目が付かない場所だった。遥は時間前にそこに行き、小夜子が来ているか確認したが来ていなかったので一旦その場を離れて、屋外トイレに入った。
遥は個室に入りゆっくりと鞄を置いた。一息ついてから鞄を開け、それからブレザーを脱いだ。
「…………」
何も言わずに静かにブレザーを脇の棚の様な所に置き、それからリボンを外した。それはドアについているハンガー掛けの様なものに掛けた。そしてスカートを脱ぎ、ワイシャツもボタンを一つ、また一つと外して脱いだ。それから鞄の中にある携帯ホルダーを出し、太股に着けてから脱いだ制服をしゃがんで一枚ずつ畳んで入れた。二年間毎日やっていたので暗闇の中服を畳むのは体の感覚で出来ていた。
「…………」
遥は何も言わずに立ち上がり、ハンガー掛に掛けたリボンを取り、制服に着ける時と同じ様に首に巻き身に付けた。下着姿にリボンを着けるというシュールな姿になった遥はゆっくりとトイレから出て、小夜子を呼び出した体育館裏に向かった。

「フフッ……五分経っても来ないわ。今頃ボコボコにされてるか、見に行こうかしら」
時間通りに呼び出された場所に来ていた小夜子は壁に寄りかかりながらスマホ画面を見た後、通り魔がまだ来ない事に満足気な笑みを浮かべて言った。
「しかしバカよね───こんな人目につかない場所に呼び出すなんて。まあその馬鹿さ加減をじっくりと後悔させてあげればいいかしら」
小夜子がそう言って壁から背を離して歩き始めた時───。
「動くな」
と後ろから組み付かれた。小夜子は心底から驚いた。その声は以前真由羅が襲われた時に電話から聞こえた声そのものだった。小夜子はなるべく平静を装い、
「あなた───熊本薫ね……一体何の為に」
と言った。すると熊本薫と言われた人物───つまり遥は、
「何の為?この名前から何も感じないの?」
と聞いた。小夜子は、
「知らないわよそんな名前───私が今まで会った人の名前なんて全員言えると思ってるの?」
と答えた。遥は小夜子を放し、それから肩に蹴りを入れた。小夜子は叫び声を上げて倒れた。
「う……ぐっ───こんな事してタダで済むとは……」
小夜子はうめくように言った。遥は、
「心底クズだね、あなた。熊本さんも薫さんも───あなたにいじめられて転校していったのに」
と言った。それを聞いて小夜子は思い出した。
「ああ……あの二人ね」
と答えてその後、横に遥が立ってる事に気付いた。暗がりで白いスニーカーと紺のソックス以外はシルエットでしか見えなかった。しかし、体のラインがいやにはっきりしている───。そう言えばさっき組み付かれた時、服と服が触れ合うというよりは肌が直接触れた感触だった。
その遥の後ろに人影が見えた瞬間、小夜子はニヤリと笑った。
「あっ!」
遥は何者かに後ろから組み付かれた。その者は、
「小夜子さん!捕まえたよ」
と言って遥を後ろ手に絞め上げた。遥は、
「う……ぐっ───ああ……っっ」
と苦しそうに声を上げた。小夜子は立ち上がり、
「形勢逆転ね───さてと貴方の正体を見───??」
と言い掛けて驚いた。スマホのアプリである簡易ライトを使って取り押さえられた遥を照らすと、ボブカットの髪型に顔には面を着けていて、服は着ていなくブラジャーとパンティの姿だったのだから───。
「プッ……くくくっ。みんなこんな女にやられてたの───??真由羅の時は出し抜かれたと思ったけど」
小夜子は笑いが堪えられなくなった。そして先程食らった蹴りの威力は相当だったので用心して遥の横に立ち顎に手を掛けて自分の方に向かせた。

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