緑色の復讐
百合ひろし:作

■ 第四話13

先ずは自分が産まれ育った街に行きたいと遥は希望した。その希望通りに車はそこへ向かい、遥が降りた所は───萬田友近の家の前だった。
友近は遥を部屋に上げ、それから茶菓子を出して色々話をした。
「本当にありがとう、お陰で全てが終わった」
遥は礼を言った。友近は壁の方を向いて、
「ああ───。でも、本当に行くのか?」
と眼鏡を直しながら聞いた。話の中で遥は自首する事を示唆していたので確認した。遥はクスッと笑い、
「うん───やっぱり暴力はいけない事だから」
と答えた。しかしその表情は沈んだものではなく、逆に全てやり切ったという満足感があり、友近は止める事は出来なかった。また、止めるべきでも無かったのかもしれない。変に逃げ回って捕まるよりは、自首して洗いざらい高校であった事を話してしまった方が良いとも思った。真由羅は確保していると言うし、中村和歌子もまだ学校に復帰していない。彼女達も色々話してくれるだろうから───。

友近は別れ際に、
「何処に居るか教えてくれ、行くから」
と言った。遥は、
「手紙───書くから」
と答えて友近の家の前で待っていた黒い高級車に乗った。

次に向かったのは、駅前だった。そこに中村和歌子が来て待っていた。
『二日経って何も起こらなかったら好きにするといいよ』
と遥は言ったが、その間に小夜子グループのメンバーが通り魔に襲われる事件が発生し、言葉通り実行した事を確認し自殺を思いとどまり今に至る───。
「ここが青山さんが育った所か……」
和歌子は思った。和歌子にとっては初めての街だったので不安になり、遥がなかなか来なかったのでキョロキョロしていたが、その時ポンと肩を叩かれた。
「キャ……」
と軽く悲鳴を上げてその方向を振り向くとそこには和歌子を呼んだ遥だった。
「こんばんは」
笑顔で挨拶すると和歌子は恥ずかしげに視線を下げて、
「こんばんは……」
と返事した。遥が呼んだ時に話した内容から、この間自殺しようとしていた時に現れた仮面の女子高生が遥であることは分かったが、いざ素顔の遥に会ってみると恥ずかしさがあった。それから遥は近くのファミレスに和歌子を案内し、そこで話をした。
丸聞こえじゃないか?と思ったが元々遥は大声で話すタイプではなく、店の中の色々な音の為逆に聞かれ辛いというのもあった。
「死なないで良かった」
和歌子は安堵の溜め息をついた。もう小夜子は再起不能───これで復学出来ると思った。
「最後に頼みがあるの」
遥は言った。和歌子は、
「あ、いいよ。何でも聞く」
と言うと遥は、
「斉藤真由羅さんは許してやって欲しいの───彼女、全て喋るって。真由羅さんもいじめの被害者だから」
と言った。和歌子はそれを聞いて下腹の火傷の箇所が痛んだ。そして、
「でも───アイツはあたしに……」
と言った。遥は和歌子が言わんとしている事は解っていた。"約束の印"をつけた真由羅は小夜子の命令で逆らえないとは言え、あくまでも実行犯なので許せない、という事だった。遥は、
「火傷の印の事?それなら真由羅さんにも私にも───あるよ」
と言った。和歌子は驚いた。真由羅はその印のせいで小夜子の奴隷になり、自分は死のうとし、そして遥は復讐に走ったという事だったから───。三者三様に人生を狂わされ、不幸を背負わされていた事に。
「わかったよ……恩人のあんたが言うなら」
和歌子は言った。そして、
「あんたはどうするの?」
と聞いた。遥は視線を落としてクスッと笑った。それから、
「暫く刑務所生活かな。明日自首するよ」
と答えた。和歌子はその答えに何も言えなかった。この人は小夜子にいじめにあった後、その後の人生全て捨ててまで復讐に走ったのだと気付いた───。自分にも真由羅にもその覚悟が無かったから小夜子があそこまでのさばったのだと。


その後遥は和歌子と別れ、車に戻った。後やることと言えば真由羅に暫しのお別れをする事と、希美にお礼を兼ねて稽古をつけて貰う事だった。それが終われば思い残す事は無かった。
車は何時もの山の中へ向かった。後席はいつも通り真っ暗だったが、遥は普通に過ごしていた。この中でこうやるのも暫くは無い───。そうこう考えながら目を閉じた。


「着きましたよ」
初老の男性の声で遥は目を覚ました。
「寝ちゃってた……」
遥が言うと隣に乗っていた霞はクスッと笑った。
「遥お姉ちゃん、潰れる程疲れてなきゃ寝なかったのに」
そう言うと遥は、
「そうだったね」
と笑顔を返した。初めて乗った時は何処か別の世界───そう、この車は呪い車で貴方の行く先は死後の世界ですよ、と言われている感覚だったが、今は、暫くこの車に乗る事は無い事にちょっぴり寂しさを感じている所だった。
そして車から降り、二年間通った獣道を歩いて天宮家の私有地を目指した。
「そう言えば青山さんがどれだけのペースで進めるか、チェックしたことは無かったわね」
希美はそう言い、ついて来なさい、と先行した。遥は希美を追い掛け、殿は霞が勤めた。
先頭の希美は音を立てずにしかしどんどん前へ行き、門の所に到達した時には遥の気配は感じられなかった。
「まだまだね、でも───二年で良くやったわ」
希美は嬉しそうに呟き、それから門柱にカードをかざして門を開けた後、更に先へ急いだ。

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