緑色の復讐
百合ひろし:作

■ 第四話14

霞は遥を追いながら初めて会った日から今までの事を思い出していた。遥は時々ガサッと周りの草に触れたりして音を立てていたが、それでもこの獣道をここまで走れるようになるとは思っていなかった。折角ここまで上達したのに刑務所に行ってしまったら勿体無いと思い乍ら追い掛けた。

遥が小屋に着いたのは希美が着いてから五分過ぎた後だった。希美は遥が息を整えるのを待ち、それから、
「最後にやっておきたい事とは何かしら」
と訊いたが訊く必要なんて無かったかもしれなかった───。
「貴方が先に服を脱ぐなんて初めてね」
希美はクスッと笑った。遥は呼吸を整え、リボンを外した後ブレザー、スカート、ワイシャツと脱ぎ、希美が言葉を発した時には遥は両手を背中に回してブラジャーのホックを外し掛けていたがそこでピタッと動きを止めた。ここで服を脱ぐ事自体は今までに何回もやっていた事だったが、素顔の希美の目の前でかつその様な事を言われてなので躊躇したが、希美の弟子である自分から勝負と言った以上、今更なにを戸惑ってるのかと思い、ゆっくりとホックを外してカップを乳房からどけた後、落とさずに右手に持った。
パンティ一枚姿になった遥は顔を赤くしながらも希美を見据え、
「勝負───して下さい」
と言った。その後小屋を気にした。中には真由羅が居て寝ているからだった。この姿で今まで修行していた事は真由羅には見られたく無かったが、恐らく一撃、真由羅が出て来る前に決まるだろうから構わない───恐らく見られる事は無いだろうと思った。
「お互い素顔で対峙するのは初めてね」
希美は服を脱ぎながら言った。遥は、
「はい───初めて対戦したのは私がここに来た時でしたが、希美さんは面をしてましたから……」
と答えた。その時は遥だけ素顔だったが、桜流忍術を全く覚えていない状態だったのでハンディキャップにならなかった。今は遥は忍術を覚えたが、師範の希美も面をしていないので、初めての時以上に不利かも知れない、と思って身震いした。
希美はタイツを脱いだ後背中に両手を回し、素早くブラジャーのホックを外して胸から退けた。巨乳では無いが何度見ても芸術品の様に素晴らしい乳房が晒されると希美は顔を下に向け体をブルッと震わせて、
「ん……」
と軽く声を上げた。遥が目の前に居るので声のトーンは極力落としたが遥の耳に僅かに入った。それからブラジャーを地面に落とした。その後乳房を好きなだけ鑑賞しなさいと言わんばかりに両腕を後ろで組み、
「いつでもどうぞ」
と言った。遥は、
「小屋の中には真由羅さんが居ますから、終わったら───服着て下さい……」
と言った。希美は、
「解ったわ」
と答えた。

遥は希美の返事を聞いてから目を細めた。
面をしていないので何時もの百倍は希美の姿や動きが見える気がしたが、それ以上に目は口ほどに物を言う───希美からも遥の動きは丸分かりだったからだった。普通に見据えるよりは頭の中で希美の何処を狙うか考え、あとは風が教えてくれるのに従えばいい。そう思い、目を細めたまま視線をそらし、頭の中で一、二、三、と数えてから右人指し指と中指から力を抜いた───。すると指に引っ掛かっていたブラジャーがスルッと抜けて落下を始めた。そしてユラユラと揺れながら落ち、小さく音を立てた瞬間に遥は一直線に希美に向かって突っ込んだ───。
初めて会った時は希美の癖を見付けてそれを合図に突っ込んだが今回は完全に自分でタイミングを取った。しかも何処を最初に狙うかは悟られないように目を細めて、最初から決めていた、敢えて希美の腰、暗い中でも目立つ明るい色のパンティのサイドだった───。

「目立ちません───か?」
「お洒落よ」

そんな会話を思い出したからだった。敢えて目立つ所に狙いを定め乍も、希美の立場に立てばそこを狙うメリットは余り無い───だからこそそこを目がけてミドルキック。希美に動きを読まれない様に二重に備えての攻撃だった。
しかし希美はまるで読んでいたかの様に遥の攻撃を受けずに捌いた。空振りした遥はバランスを崩し、そこに希美は攻撃を入れたが遥は防いだ。
「フッ……」
希美は口に笑みを浮かべて、追撃をした。最初の一撃は遥に防がせるもの───それを食らうのならこの二年間何をやっていたのか、という事だった。その瞬間を遥は待っていた。遥も最初の一手は外されて反撃が来ると思い、そこに狙いを絞っていた───。左足でしっかり地面を踏みしめて右足を振り上げ、追撃に来た希美にカウンターのハイキックを見舞った。

「可愛いわね───」

しかしその瞬間、宙を舞ったのは希美ではなく遥だった。遥は吹っ飛ばされ、きりもみと言う程では無かったが、グルグルと回りながら横向きに河原に叩き付けられた。
その後一回跳ねて仰向けに大の字になって動かなくなった遥を見下ろしながら希美は、
「大きいのを狙い過ぎて基礎を忘れたわね───。まあでも一撃では決まらなかったから、さっきの移動の時と合わせて良くここまで成長したわ」
と言って乳房を下から当てがい揺らして、遥が乳房を大きく揺らした事───つまり桜流の体の軸をぶらさずに闘う事を忘れたのが敗因だという事を示した。それから落ちている服を拾って、惜しむように一枚ずつ着ていった。

希美は服を着た後、倒れている遥の足元に立った。
「真由羅さんに見られたいの?」
と遥の太股を軽く蹴ってから言った。真由羅に見せない為だけに服を着てしまうのは勿体無い───自分も遥もここにいる以上パンティ一枚であるべきだが、遥の希望なのだから今回位は、と思った。

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