悪魔のメール
木暮香瑠:作

■ 新たな要求2


(だれ? だれなの? だれが送ってるの?)
 美樹は、教室の中を見渡すが、クラスメートは推理ごっこを楽しむかのようにメールを話題にしている。由布子も、他の女子生徒たちと一緒に推理の輪に入っている。
(小林君? 彼?……)
 小林は、いつも卑猥な話をしている。しかし、彼は、卑猥な話も面白おかしく話し、クラスのみんなを笑わせている。明るい彼が、こんな卑劣なことをするとも思えない。
(佐伯君なの、美樹を虐めてるのは……)
 おとなしくパソコンやデジカメの操作にも長けた彼なら、送信者を不明にして送ることも訳ないことだ。その時、美樹は思い出した。彼は、先週の金曜日、夏風邪を引いて休んでいた。学校を休んだ彼が、盗撮のために学校に出てくれば、誰かに見つかってしまうだろう。
(大畠君かも……)
 根暗で存在感の薄い彼かもしれない。クラスメートと話をすることも少なく、何を考えているのか判らないような人間である。裏本を買っているところを見たと、クラスで噂になっていた。しかし、彼はパソコンの操作が苦手で、メールを送るのも四苦八苦するようなタイプだ。クラスのみんなが怪しく思えてくる。
(このクラスの人間じゃないのかも?……それとも、女子の中に犯人はいるの?)
 考えれば考えるほど判らなくなる。美樹の頭の中は、混乱していくばかりだ。

「高橋先生、来たぞ」
 男子生徒の一人が、先生が来るのを見つけ、みんなに連絡した。みんなは、メールのことを悟られまいと平静を装った。

 授業が平常通り始まる。しかし、美樹は上の空だ。あと少し顔が写っていたら、トイレで大をしているのが美樹だと判ってしまうだろう。そして、メールを送ったのが美樹ということにされてしまうだろう。すでに、クラスのみんなはメールの送信者の推理をはじめている。変態の女の子が、自分で送ってると主張するクラスメートもいる。写真の主が美樹だと判ったら、送り主が判らない以上、美樹が送り主だと疑われるだろう。恥ずかしい姿を見られて喜んでいる露出狂の変態と思われてしまう。

 授業中、男子が書いたと思われるメモが廻ってきた。男子たちは、変態女の仕業だと決め付けている。

変態女捜査隊結成

みんなで変態女を捜そう。
この計画に賛同する人は、
今夜7時、高平公園の噴水の前に集合!

(わたし……、変態女じゃない……、みんながわたしを探そうとしてる……)
 クラスメート達が美樹を探している。美樹の意思とは関係なく、事態は悪い方向に進んでいく。
(いやっ、わたし……、変態じゃない……、わたしが送ったんじゃない……)
 これ以上、写真が公開されたら、すぐに見つかってしまうだろう。そして、美樹が露出狂の変態だという噂が、学校中に広まるだろう。
(いや、そんなの……、いっ、いやっ……)
 頭の中を、メールに書かれていた命令がぐるぐると巡っている。

……………
今回の命令は、午後の体育の授業のとき、下着を着けずに
授業を受けろ。裸に直接、体操着とブルマを着ろ!
身に付けていいのは、体操着とブルマだけだ。
……………

(命令に従わなくちゃ、指示にしたがわなくちゃ、わたし、露出狂の変態と思われてしまう……。ウ○コをしてる写真を見られて喜んでいる変態に……)
 美樹は、いたずらメールを誰が送ったのかを考える余裕など無くなっていた。ただ、露出狂の変態女と思われることが怖い。美樹は、イヤッ、イヤッと顔を小さく横に振った。

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