悪魔のメール
木暮香瑠:作

■ 新たな要求5

 その日、美樹は、男子生徒の好奇心の対象として過ごすことになった。体育館では、由布子が男子たちの間に割って入ってくれ、事なきを得た。しかし、同級生の官能的な姿を見せつけられた男子たちの話題は、いたずらメールから美樹に移っていた。

「美樹ちゃん、今もノーブラ?」
 男子は、露骨に美樹の前に回り胸を覗き込む。すでにブラジャーは着けているが、それでも覗き込まれることは恥ずかしい。
「そ、そんなことありません」
「もったいないよな。あんな立派なおっぱいしてるのに……、へへへ……」
 美樹の周りには、数人の男子が取り囲んでいる。男子の視線は、どうしても美樹の胸に向けられる。
「ねえ、バストのサイズ、いくらなの? 90くらいあるの?」
「そんなにはないよな。美樹は華奢だから……。でも、カップは大きそうだね。Eくらい?」
 美樹は、中学生の時に感じたのと同じような羞恥心を感じる。高校生になってからは、他にも胸の大きな娘がいたし、フルカップのブラで押さえ込んでいた。おとなしい美樹に男子の好奇心が向けられることも少なく、安心していた。それが、今日の体育の授業から一変した。クラス中の男子の注目を集めてしまった。それどころか、隣のクラスからも、美樹を覗きに来ている。
「みんな席につきなさいよ。6時間目、始まるよ。ほら、ほら」
 由布子が、美樹と男子の間に割り込み、男子たちを遠のけた。美樹を取り囲んでいた男子も、しぶしぶ自分の席に戻る。
「いやらしいわね、うちの男子たち。もう、イヤになっちゃう」
「……うん」

 授業中も、美樹は背中に視線を感じる。美樹より後ろに座ってる男子は、みんな美樹を見ている。
「ブラジャーのライン、見えるな。残念、ブラジャーしてるのか」
「体育だけじゃなく、他の授業もノーブラでして欲しいよな」
「あほ! 俺たちの席からじゃ、見えねえだろ」
「それもそうだ……」
 美樹の耳にも、そんなヒソヒソ話が、後ろの方から聞こえてくる。横の席や前の方に座ってる男子たちも、先生の目を盗み、チラッ、チラッと美樹の胸を盗み見てくる。
「体育の時、美樹のヤツ、乳首立ててたよな」
「立ってた、立ってた。ツンとシャツ押し上げてたよな。揉みてぇーーー、あんな胸……」
「オレ、顔を埋めてペロペロしてなぁ。パイズリだって出来るぜ、あの胸なら……。あのオッパイで挟んで、シコシコしたら……、考えるだけで立ってきちゃったよ」
「おれも……、早く授業終われ! トイレで抜かなくちゃ我慢できねえよ」
 男子たちのヒソヒソ話は、授業中、ずっと続いた。
(いやっ、そんな目で美樹を見ないで……)
 美樹は、恥ずかしさから赤く染まった顔を俯かせ、突き刺さる視線に耐えた。



 学校から帰り、美樹が自分の部屋に戻ると、宮本博史から携帯に電話が掛かってきた。
「美樹、今日はどうしたんだよ。ノーブラで体育の授業、受けるなんて……」
「な、なんでもないの……。替えのブラジャー、忘れたから……。それだけのことなの……」
 美樹は、それ以上の言い訳を出来ない。まして、メールで脅迫されていたなどとは言えなかった。それを言うと、クラス中に配られてる恥ずかしい写真が自分だと認めなくてはならなくなる。恋人の博史にも、友人の由布子にも相談できないでいる。トイレでも写真が自分だと知られることは、それが博史であっても由布子であっても恥ずかしいことだった。美樹は、誰にも相談できないままでいた。
「クラス中で噂になってるぞ! 美樹の胸のサイズがいくらかって! 隣のクラスでも……」
 博史の声は、怒っているような強い口調だった。
「ごめんなさい……」
 美樹は、謝ることしか出来ない。
「お前、そんなに男子たちの注目を集めたいのか? それじゃ、いたずらメールを送ってくる変態女と一緒じゃないか」
「ち、違うわ……。うっ、うう……」
 美樹は、声を詰まらせた。頬を伝う涙が、床に落ちる。
(ち、違うの……。ううっ……、わたし……、違うの……)
 携帯を握り締めたまま、美樹は、夕日の差し込む一人の部屋で涙を流した。

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