悪魔のメール
木暮香瑠:作

■ 最後の命令1

 お昼休み、美樹は、パソコンルームに急いだ。前日の体育の授業で、体操着の下に何も着けるなと言う命令に反して、パンティーを履いていた。ブルマーからはみ出したパンティーを、クラスの男子に見つけられている。犯人にも見つかったかもしれない。そんな不安が、美樹をパソコンルームに急がせた。

 廊下を小走りにパソコンルームに向かった。前からお喋りをしながら来る人たちが、すれ違うとき無言になる。美樹が通り過ぎると、また会話を始める。美樹の背中に笑い声が聞こえてくる。
(わたしの噂、してるの? 昨日のこと? それとも……、いたずらメールの写真のこと?)
 教室の窓から男子たちが、美樹に視線を投げかけてくる。男子みんなが見ているような気がする。視線の向かう方向は、美樹の胸に、スカートから覗く太股に向けられているように思える。それどころか、スカートに隠れた股間に向けられている視線が、生地を透かし通してパンティーの中まで覗き込んでくる気さえする。
(わたしを見てるの? わたしの胸? それとも、恥ずかしい格好を想像して見てるの?)
 美樹は、頬を、耳を赤くし、下を向いたままパソコンルームに急いだ。

 パソコンルームに付いた美樹は、教室の一番後ろのパソコンを起動させた。前の方では、数人の男子がパソコンでインターネットをしていた。いやらしいページを見ていたのか、美樹が教室に入ると、急に会話を止めた。そして、パソコンを操作している美樹をチラッ、チラッと盗み見ている。
(わたしを見てる……、メールの写真? それとも、ノーブラで体育したこと、噂してるの?)
 美樹は、誰もが自分の噂をしているように感じる。たわいない会話でも、美樹を中傷し笑い者にしているような気がして仕方ない。パソコンが立ち上がる僅かの時間がとても長く感じた。体育の時間、パンティーを履いていたことがばれていたら……、新しい命令がされていたら……、不安が頭を過ぎる。

 パソコンが起ちあがり、美樹はメールソフトを開いた。そこには、新しいメールが来ていた。マウスを握る美樹の手が震える。緊張と不安から目眩さえ感じる。このメールを見たら、美樹は新しい命令に従わざるおえないことに気付いていた。これ以上、不安な毎日を過ごすことには耐えられない。クラスメートの視線が、学校のすべての生徒の視線が美樹に向けられている気がする。それどころか、町ですれ違う全ての人たちの視線が美樹を責めているような錯覚に襲われる。美樹は、そんな不安な毎日から、一刻も早く逃れたかった。
(犯人の命令に従えば、写真を見られることもなくなるの? いたずらメールがみんなに送られることも……。そうすれば、噂もなくなるの? 疑いの目で、みんなに見られることも……)
 美樹は、震える指でマウスのボタンをクリックした。

 開かれたメールには、命令に従わなかった美樹を叱咤する言葉と、新しい命令が書かれていた。

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