売られた少女
横尾茂明:作

■ ケモノたちの宴2

 光男は美由紀の涙を見て内心は驚き、そして憎しみに満ちた目に変わった。

 可愛さ余って憎さ100倍とはこのようなことかと光男は思った。この俺の想いをあっさり踏みにじり・・なんで中年のオヤジの玩具なんぞに成り下がったのか・・。

光男は母から聞かされたときは半信半疑であった・・しかし今の美由紀の変貌をみてやっと確信した。神格的に美由紀を美化していただけに今の現実は、光男には狂いたいほどの衝撃である。

憧れの女神が汚れてしまった・・もうあの美由紀じゃない・・光男は無性に腹が立ってきた。

(クソー・・どうしてくれよう)
(犯してやる・・どうせ汚れた玩具なら思う存分汚してやる)

「美由紀! 誰にも知られたくなかったら日曜の3時に狭間神社に来い!」
「来なかったらもう終わりだと思え」
「いいか! 俺が何を要求しているのか玩具のお前なら分かるだろう」
「絶対来いよ・・」

 光男はわざと唾を吐き捨てて踵を返した。

 夕闇のせまる駅裏・・美由紀は数分間その場を動けずにいた。




 学校から帰ると家の前で久三が煙草をくわえて立っていた。

「美由紀帰ってきたか・・久しぶりだなークククッ」
「若旦那に可愛がってもらってるようで・・肌に艶が出てきたじゃないか」
「んーどうよ、若旦那は毎日来るのかい?」

 美由紀はようやく気を取り戻したのに・・また心が暗くなっていく。

 この屈辱の元凶・・私を弄びそして売った男・・

 しかし美由紀は怒りを抑えた。

「旦那様は今週一杯は関東の方に出張でいないの・・」

「へー旦那様って呼んでるのかい」
「若旦那はおまえの体に夢中のようだねー・・先日もうちに来てな、正式に養子として籍入れしたいとよ」
「ヘン・・色ぼけた若旦那だぜまったく・・何でも奥様はもう長くないみたいでなんかウキウキしていたぜ野郎・・ククク」
 
「でっ・・義父さんは何しにきたの!」
 
「何しにはねーだろう・・オメーがうまくやってるか心配だからわざわざ見に来てやったんじゃねーか」

「しかし気がきかねーな・・義理の父親がこうやって来たんだぜ、こんな道端じゃなくて中に入ってお茶でもどうぞってのが筋じゃねーのか?」

「・・・・ごめんなさい義父さん」
 
 美由紀は鞄から鍵を取り出し、鍵を回してガラガラと引き戸を開けた。

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