瑞希と悠希の放課後
木暮香瑠:作

■ 生徒会長は虐めの標的1

「悠希、出かけるときはちゃんと戸締りするのよ」
「判ってるって。早く出かけないと、飯山さん待たせちゃうよ」
 土曜日の朝、瑞希は、お洒落をして隆とのデートに出かけた。

 一人、家に取り残された悠希は時間を持て余していた。宿題も昼食も済ませた。
「出かけようかな?」
 悠希は、お気に入りのミニスカートに着替え出かけた。

 悠希の歩く姿は、道行く者達を振り向かせた。ボーイッシュにも見えるショートカットの髪が歩きたびに揺れ、大きな瞳が晴天の空を映し輝いている。小さな背中に、ミニスカートからすらりと伸びた脚。それはまるで、ティーンファッション雑誌から抜け出たジュニアアイドルのようにだった。屈託のない笑顔は、見るものを和やかにさせ思わず振り向かせた。

 悠希は、ウインドウショッピングをしながら街をブラブラとしていた。ゲームセンターの前を通りすがった時、センターから数人の少女が出てきた。悠希と同じ学年の生徒たちだ。
「あら、生徒会長さんじゃない」
 嫌味を込めた声を掛けてきたのは、笹岡真莉亜だった。

 真莉亜の周りには、いつもの取り巻き三人と三年生の高田裕司がいた。潮崎澪、新谷美帆、瀬川麻貴の取り巻き三人は、あまり評判の良くない生徒だ。真莉亜のお小遣いのお零れを期待し、いつも真莉亜に媚を売っている。金持ちの家に生まれた真莉亜は、高校生では考えられないお小遣いを貰っていた。気に入った娘には、嬉しいことがあるとすぐにプレゼントを渡したり奢ったりしていた。
 高田裕司は、父親が笹岡家の運転手をしており、真莉亜とは幼馴染である。不良生徒の巣窟でもあるラグビー部のキャプテンで、暴力沙汰の噂の絶えない男だ。何度か退学の危機も迎えていたが、その都度、真莉亜の父親が揉み消していた。長年、運転手として真面目に勤めてくれている裕司の父親に対するせめてもの人情であった。
 真莉亜は、年上の裕司を家来のように使っていた。裕司も、父親の雇い主である笹岡家のお嬢様の真莉亜には従順に接していた。退学の危機を揉み消してくれる真莉亜の父親に対する義理でもあった。

「ねえ、黒川さん、お金貸してくれない? 今月、携帯使いすぎて、遊ぶお金、ないんだ」
 澪が、笑顔で言うが目は笑っていない。大きな身体の澪は、女子柔道部に所属している。澪は、鋭い視線で悠希を見下ろしていた。
「えっ? お金を……?」
 悠希は、突然のお金の無心にきょとんとした。ここにいる四人は、名前位は知っているが、誰一人親しくしている人はいない。お金をせびられる理由が判らなかった。
「生徒会長に選ばれたんでしょ? じゃあ、みんなの為にならなくちゃ」
「そうよ、困ってる人がいたら手助けしなくちゃ。みんなの為の生徒会長さん」
 瀬川麻貴も相槌を打つ。澪たちの理由は、身勝手な道理の通らないものだ。それを平然と言う澪たちに、悠希は怒りが込み上げてきた。
「えっ、それとこれとは別でしょ。生徒会長でもそんなことする義務ないわ」
 悠希は、相手を見据えきっぱりと言い放った。
「じゃあ、あなたに何が出来るのよ。かわいいだけで選ばれたんでしょ」
「そうよ、男子に媚売って選ばれたんでしょ。勉強もそこそこのあなたが選ばれるなんておかしいわ」
 澪たちは、悠希の返事に難癖をつけてきた。取り巻き三人の後ろで、真莉亜が鋭い視線で悠希を睨みつけている。長身の高田裕司も、ニヤニヤとした薄笑いを浮かべながら悠希を見下ろしていた。

「そ、そんな、酷いわ……。わたしはただ……」
 悠希は悔しかった。なろうと思ってなった生徒会長ではない。クラスのみんなの推薦を受けただけなのだ。全生徒の投票によって選ばれただけなのだ。
「言い訳はいいから、お金出しなさいよ」
 取り巻き三人に囲まれ、その威圧感に悠希は一歩後ろに下がった。新谷美帆が、後退りする悠希の手首を掴み引き寄せようとする。
「い、いやよ……。は、離して……」
 悠希は、両手で美帆の胸を突いた。
 急な反撃に尻餅をついた美帆の目が、怒りに釣り上がる。
「生意気な娘ね。焼きいれようか」
 美帆は振り向き、真莉亜に同意を求めた。真莉亜が頷くのを確認し、澪と麻貴は悠希の両手を掴んだ。
「付いておいで!」
「いやっ、どこへ行くの?」
 嫌がる悠希を三人は、引きずられるように引っ張っていった。その後を、真莉亜と裕司も続いた。

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