瑞希と悠希の放課後
木暮香瑠:作

■ 生徒会長は虐めの標的6

 瑞希が買い物を終えスーパーから出てくると、通りを挟んだ向かいの本のリサイクルショップに悠希が入って行くのを見つけた。
「あらっ? 悠希じゃない。何してんだろ?」
 瑞希は、通りを見渡し横断歩道を探した。100mmほどのところにある横断歩道を見つけ、そちらに向かって歩いた。

 瑞希はびっくりさせようと、そっと店から出てきた悠希に近づいていった。店から出てきた悠希を、四人の少女と男一人が取り囲んだ。全て、瑞希が教鞭をとる渋山学園生徒だ。その中に、高田裕司がいるのが気に掛かった。不良の問題児として名を馳せている高田と悠希の接点が、瑞希には判らなかった。

 教師の間でも、授業中も手のつけられない生徒だと言われている。その高田裕司が、瑞希の授業だけは邪魔することは無かった。それでも他の教師からは、高田には注意するようにと警告を受けていた。授業中、何も喋らず瑞希に視線を這わせている。最初のうちはそのことが気になっていた。授業を邪魔するわけでもなく積極的に受けるでもなく、ただ見詰めているだけなのだ。そのことが不思議であった。
 その高田裕司が悠希と一緒にいる。
「どうしたのかしら?」
 瑞希は、看板に身を隠し成り行きを見守った。

「たったこれだけ? やっぱりあの写真売った方が良いんじゃない? その方が儲かるわよ」
 美帆は、悠希から手渡された硬貨を受け取り不満そうに言う。三冊のコミック本では大したお金に換金することは出来なかった。
「だめえ、それだけは許して……。そんなこと……されたら、わたし……」
 悠希は、表情を曇らせ俯いた。

 ただ事ではないと察した瑞希は、悠希に声を掛けた。
「悠希、どういうこと? どうしてお金、渡してるの?」
 瑞希の出現に驚き、みんなが一斉に振り返った。
「お。お姉ちゃん……」
 悠希は、驚きに一言発し俯き、後は何も喋らない。代わりに美帆が瑞希に説明する。
「生徒会長さんが、わたしたちにくれるって言ったの」
 美帆は受け取ったお金を瑞希に見せた。
「でも、リサイクルショップから出てきたわ。そのお金って……」
 瑞希に不安がよぎる。
「悠希さんが万引きしてきた本を換金したのよ、自分から進んでね」
 瑞希の顔が驚愕に蒼ざめる。悠希に限ってそんなことをするなんて思いも寄らない。
「うっ、嘘でしょ? ねえ、悠希、嘘よね」
 瑞希は、悠希の肩に手を沿え問いただした。しかし、悠希は否定することは無かった。ただじっと唇を噛んだまま俯いていた。

「嘘じゃないよ。ほら、こんな写真まで撮らせてくれたんだよ。みんなに喜んで欲しいって言って……」
 携帯の画面を覗き込んだ瑞希の目が大きく見開かれた。画面の中には、悠希が自らスカートを捲り股間を晒している姿が映っていた。そこに在るはずのショーツの姿は無く、淡い翳りと柔肉の膨らみに刻まれた縦裂が鮮明に写っている。よく見ると亀裂からは何かが顔を覗かせている。それは、半身を秘孔の中に埋めたボールペンだ。
 瑞希は、驚きの表情を悠希に向けた。しかし、悠希は何も語らず俯いたままだった。
「どう言う事? ねえ、どう言う事なの?」
 瑞希は、美帆たちに詰め寄った。
「うるさいな! 悠希が自分でスカート捲って見せてくれたんだよ」
「うっ、嘘よ!! 悠希がそんなことするはずが無いわ!」
 瑞希は信じられない事の連続に、教師であることも忘れていた。悠希の肩を持ち、手で揺さぶった。
「面倒くさいから帰ろ! みんな!」
 それまで何も喋らなかった真莉亜がそう言うと、五人は瑞希と悠希を残しどこかに行ってしまった。

 家に帰っても、悠希は何も語ろうとはしない。沈黙を守る悠希に痺れを切らした瑞希は、強い口調で問いただした。
「どうして万引きなんか……。嘘でしょう? 自分から進んでやったなんて……」
 それでも悠希は、黙ったまま俯いていた。
「悠希ちゃん、どうしてあんな写真……。虐めに遭ってるの?」
 写真について問いただした途端、悠希は強張った顔を上げた。
「い……、言えない……。聞かないで、お姉ちゃん……。言うと……、いやっ!!」
 悠希は、最後の言葉を濁らせた。それだけ言うと自分の部屋に閉じこもってしまった。

(判らない……。どうして悠希があんなことを……。万引きなんてする娘じゃあないわ。ましてやあんな写真を撮らすなんて……)
 虐めに遭っているのは想像に容易い。しかし、悠希はそのことについて肯定も否定もしないし喋ろうともしない。いままで、隠し事なくなんでも話をしてきた。その悠希が自分に話をしてくれないことが、瑞希の自信を揺する。

 瑞希は、両肘をテーブルに付け頭を抱えた。恋人の隆の言葉が思い出された。
『おまえ、がんばりすぎるなよ。新米教師、悠希のお姉さん、そしてお母さん代わり……、がんばり過ぎてんじゃないか?』
(わたしには無理なのかな? ……そんなこと無いわ、今までうまくいってたんだもの……)
 瑞希は顔を上げ、弱気になる自分を叱咤するように首を横に振った。

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