瑞希と悠希の放課後
木暮香瑠:作

■ 濡れた肢体は凌辱を……5

 悠希はただ一人、ラグビー部の部室の前に佇んでいた。すっかり暗くなった廊下に佇んだ少女の横顔を、ラグビー部の部室の窓から漏れる明かりが影を鮮明に作り照らしている。真莉亜たちが帰った後も、悠希はその場から動くことが出来なかった。悠希は、全裸でシャワールームに消えていった姉を見て、自分の責任ではと思う自負の念に苛まれ、ただ俯いていた。

 そんな悠希も、遠くから聞こえる獣のような呻き声にはっと我に帰った。
(えっ? なに? あの声……)
 悠希はあたりを見渡した。ずらっと並んだ部室は、どこも電気が消えていて無人のようだ。ラグビー部の部室だけが明かりが点いていて悠希の横顔を照らしている。しかし、そこからは何も聞こえてこない。悠希は、耳を澄まして、音の発信源を探った。

 確かに聞こえてくる。獣の泣き声のような、それでいて子猫が母を求めて泣いているような憂いを含んだ声……。
(えっ? お姉ちゃんの声……?)
 悠希は、身動きも出来ずシャワールームのドアに視線を向けた。シーンと静まり返った暗い廊下の向うに、そこだけが明るく浮かび上がっている。確かに聞こえてくる小さな声は、シャワールームからのものだった。
(あの声……、何なの? そ、そんなはず……ない……)
 裸の男女が消えていったシャワールームで行なわれる行為は、そんなに多くない。性の知識の少ない悠希にも、その声の意味するものは判った。
「うっ、嘘よ! お姉ちゃんに限って……」
 獣のような呻き声に混じった甘美な響き……、嫌がってるだけではない声色が混じっている。今まで聴いたことのない姉の媚声である。悠希は顔を小さく横に振りながら、一歩、二歩と後退った。何か得体の知れないものに魅入られたような戸惑いが襲ってくる。
「いやっ、いやぁ……、いやあああぁ!!」
 悠希は、部室棟を逃げるように駆け出した。

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