瑞希と悠希の放課後
木暮香瑠:作

■ 白昼の恥辱1

 裕司は、昼休みの時間に登校して来た。午前中には、瑞希が担任の授業は無かった。他の授業など受ける気は無かった。午前中に瑞希の授業が無い時は、午後からの登校がいつもの事だ。教室には向かわず、とりあえず部室に向かった。

 裕司が部室棟に入ると、部室の前に真莉亜が立っていた。
「なんだい? 俺に用か?」
 裕司は素っ気なく尋ねた。真莉亜の尋ねてきた理由は、裕司にはなんとなく察しがついた。
 真莉亜は、裕司の目を鋭い視線で見ながら口を開いた。
「昨日、瑞希先生を抱いたでしょ……」
「さあな。もし抱いたとしたら、それがお前に何か関係があるのか?」
 思っていたとおりの質問に、裕司は曖昧に答えた。裕司の女性関係になると、真莉亜はいつもヒステリックになる。これ以上、機嫌を損ねられては敵わないと、裕司もぶっきらぼうな返事をした。

 冷静を装っているが、真莉亜の眉がピクリと釣り上がる。そして、しばらくの間をおいて話を続けた。
「嫌なのよ、あなたが他の女を抱くの……」
「いい加減なものだな。この前は、悠希を抱けと命令するし……。今度は抱くなって命令か?」
 ぶっきらぼうに裕司が答える。
「わたしが命令?」
 真莉亜は不思議そうに顔を傾げた。

 お嬢様として育った真莉亜は、自分では気付かないでいるがその言動は相手に高飛車なイメージを与えた。良家の生まれの真莉亜には、大人たちは誰もが謙って接した。わがままを言っても、それを咎められることなく通る環境で育ったのだ。真莉亜は、横柄な喋り方を自然なものとして身に着けてしまっていた。
 裕司は、笹岡家の使用人の子として真莉亜に従っている振りをしているが、そのことが子供の頃から癇に障っていた。使用人の子供として、自然と身につけた世渡り術だった。しかし、父親の手前、年下の真莉亜に従っている自分が許せないでいた。笹岡家に接する時には我慢する癖が付いてしまったのだ。笹岡家から解放されたときには、その分だけ外に向かって乱暴な行動に出てしまっていた。

「そうか? 俺には命令に聞こえるがな」
 裕司は、再度、不機嫌に答えた。
「そんなんじゃないわ。命令なんてしてないわ! 女を抱きたければ、私を抱けばいいじゃない」
 真莉亜は、ヒステリックに日頃の思いを口走ってしまった。
「俺のおやじが、お前のうちの使用人だからって、俺にまで命令はして欲しくないな」
 しかし、真莉亜の願いはあっさりとかわされてしまった。
「酷い! 命令じゃないわ」
 真莉亜は、ぷいっと顔を背け教室棟に向かって歩き出した。弱みを感じさせないよう背筋をピンと伸ばし、颯爽とした姿勢の後姿で歩く。
「判ってるくせに……」
 裕司には聞こえないよう小さな声で呟き、早足で教室棟に向かった。

 裕司が冷たくなったのは、裕司が高校に入学してからだ、真莉亜はそう感じ取っていた。きっと、学園で瑞希と会ってから裕司は変わったのだ。真莉亜も同じ学園に入学し、瑞希を見てそう思った。同性の真莉亜から見ても、瑞希は魅力的な女性だった。すでに学園のマドンナ先生として人気を博していた瑞希に、真莉亜は嫉妬心を覚えた。裕司の男としての自我の葛藤など気付きもしない真莉亜には、瑞希の存在が全ての原因だと思い込んでいた。
「許さない! あの姉妹……。絶対!!」
 男子生徒の人気を二分する瑞希と悠希に対する嫉妬心を新たにし、真莉亜は、裕司の心を奪った瑞希の憎悪を燃やしていた。

「ちぇっ! 面白くねえ……」
 裕司は、舌打ちし中庭に向かった。



 教室棟と職員室棟に挟まれた間には、憩いの場となる立派な庭園が造られていた。生徒や先生達の中には、ここで昼食の弁当を摂る者も多い。普段から瑞希もここで昼食を摂っていた。休み時間も半分過ぎ、生徒たちは食事を終え数人がお喋りをしているだけだった。噴水の脇のベンチに、瑞希は一人うかない顔で座っていた。白いブラウスを押し上げている豊かな胸、膝丈の紺のタイトスカート、そこから伸びるすらりとした脹脛とキュッと絞まった足首、何もかもが男を魅了する。何かに思い悩むような憂いを含んだ表情が、いつもに増して下半身を熱くする。

「よっ、先生。話でもしねえか?」
 裕司は親しい女友達に話しかけるように、気軽に声を掛ける。裕司の声を聞いて、瑞希の顔が強張った。
「何、浮かねえ顔してんだ?」
「こ、こないで……。高田君と話すことなんてないわ……」
 裕司は、ニヤッと微笑み瑞希の横にドカッと腰を下ろした。背もたれに両手を預けそっくり返る様に腰を掛けた裕司は、無視を決め込む瑞希に話しかけた。
「つれないこと言うなよ。昨日は、楽しくオマ○コした仲じゃねえか」
「言わないで! 人に聞かれるわ……」
 瑞希は、声を殺し裕司の顔を睨んだ。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊