瑞希と悠希の放課後
木暮香瑠:作

■ 自ら受けた口辱1

 悠希は、ラグビー部の部室を訪れていた。六時間目が自習になったので、教室を抜け出し高田に会いに行く為だ。廊下を足音を立てないよう、それでいて早足で進む。教室棟を抜けた途端、悠希は走り出した。悠希には、どうしても確かめなければならないことがあった。焦る気持ちが悠希を走らせた。姉と高田の関係である。悠希は、ラグビー部の部室のドアを押した。

 はあ、はあ、はあと荒くなった吐息が漏れる。紫煙の向こう側にタバコを燻らす裕司がいた。足元には、缶ビールの空き缶が転がっている。悠希は、紫煙の煙たさに負けまいと鋭い視線で裕司を睨んだ。
「あれ? 生徒会長さんが何の用事だい?」
 突然の訪来に驚いた素振りを装いながらも、眼は冷静に悠希を見射っていた。
「タバコなんか吸って! 未成年でしょ?」
 裕司は、悠希の言葉を無視し大きくタバコの煙を吸い込み悠希に向かって吐き出す。
「それに、今は授業中じゃあねえのか?」
 タバコを乱暴に灰皿に押し付け火を消しながら裕司は、ゴホッ、ゴホッと煙たさに咽返る悠希に質問を続けた。
「自習になったの……。どうしてもあなたに聞きたいことがあるの」
 落ち着かなければと思いながらも、悠希の声は昂ぶりを隠せないでいた。それは、急いで来たことによるものだけではなかった。
「俺にねぇ。優秀な生徒会長さんに、落ちこぼれの俺が教えられることなんて無い筈だがな」
 裕司は悠希から眼を離さず、低い声で皮肉を言う。
「お姉ちゃんのこと……」
 悠希は裕司の鋭い視線に押され思わず視線を逸らし、小さく呟くように本題を告げた。

「瑞希先生のことか……。それで?」
 悠希が訪れた理由くらいは察しが付いていた。しかし、裕司は、何を言いたいのか判らない振りをする。
「お姉ちゃんとどういう関係? わたし見たの。昨日、お姉ちゃんとあなたが……」
 悠希は、キッと鋭い視線で裕司を睨みつけ、単刀直入に訊ねた。
「見たって、何を見たんだ?」
 はぐらかす裕司に、悠希もむきになる。
「お姉ちゃんと、あ、あなたがシャワールームに入っていくところを……」
 悠希は、強い口調で喋り始める。
「ふ、二人とも……裸だった……」
 しかし、最後の方は聞き取れないくらいに弱々しい声であった。

「ふふっ、見られてたのか。自分から進んで脱いだんだぜ! 瑞希先生……。最近ご無沙汰だったんじゃねえのか。セックスに飢えてたんだろ」
 裕司の悪びれる様子もなく、しゃあしゃあと答える態度が悠希の逆鱗を逆撫でする。
「そ、そんなこと、うそ! わたしを使って脅迫したんでしょ!!」
 悠希は、紅潮した顔で叫んだ。真莉亜たちに撮られた写真、当然、裕司も持っているだろう。その写真を使ったのだろう。しかし、裕司は何食わぬ顔である。
「脅迫? まあ、そうとも言えるかな? お前がマ○コおっぴろげボールペンを咥え込んでるの写真見せたら、自分から進んで脱いだぜ! 妹のオマ○コ見て、興奮して淫乱が疼いたんだろうな。もっと太いので、ズバズバと射されたくなったんじゃのかな」
 裕司は、悠希の恥辱写真を見せたことをあっさりと認める。真莉亜たちに撮られた、恥辱の写真だ。しかし、瑞希が脱いだのは、あくまで自分の意思だと言う。
(やっぱりわたしの写真を使って脅迫したんだ。わたしのためにお姉ちゃん、恥ずかしい目に遭ってるんだ……)
 姉までを巻き込んでしまったことが、悠希の自責の念を責める。

 悠希には、確認しなければならないことがもう一つあった。
「今日も脅迫したんでしょ!」
 興奮で喉に詰まる声を必死で絞り出す。
「覗いてたのか? じゃあ判るだろ、先生が嫌がってなかったってこと……」
「覗いてなんかないわ!! 教室の窓から、お姉ちゃんとあなたがトイレに入っていくのが見えただけ……」
「ふーーん。じゃあ、声ぐらい聞こえるだろ、嫌がって悲鳴を上げれば……。嫌なら悲鳴を上げることだってできたんだぜ。そうすりゃあ、誰かに助けてもらえる」
 悠希の疑問を見透かしているかのような裕司の言葉に、悠希はうっと息を呑んだ。二人がトイレに入った後、助けを呼ぶ悲鳴を窓際で待っていた。しっかり者の姉なら、危なくなれば悲鳴くらい上げるはずだ。
「でも瑞希先生はそうしなかった。それどころか、フェラまでおねだりしたんだぜ。もちろんオマ○コもしたがな。ギュッ、ギュッと嬉しそうに俺のチ○ポを締め付けるんだぜ、先生のオマ○コは……」
「……うっ、ウソよ」
 悠希は喉の奥で詰まる言葉を、やっとの思いで吐き出した。白昼の中、二人が中庭のトイレでセックスしていたなんて信じたくなかった。風に乗ってかすかに聞こえてきた喘ぎ声が、否定する心を揺るがす。
(お姉ちゃん……、本当なの? なぜ悲鳴を上げなかったの……)
 悲鳴が聞こえれは、すぐにでも助けに行くつもりだった。耳を澄まして、トイレに入った二人を窺っていた。でも悲鳴は聞こえてこなかった。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊