瑞希と悠希の放課後
木暮香瑠:作

■ 妹に晒す倒錯2

「昨日見たんだから、先生と裕司が全裸でシャワールームに入っていくところを! 悠希も見たわよね」
 真莉亜は、憎悪に燃えた視線を向けたまま悠希に同意を求めた。悠希は、視線を床に落としたまま、否定も肯定もしない。
「えっ!?」
 瑞希の瞳が、驚きに大きく開かれる。無言の悠希は、その現場を見たことを認めているに等しい。妹の悠希に知られたことが、瑞希には耐え難い後悔を与えた。
「否定しないのね。それでも先生? 生徒を誘ったりして!」
 真莉亜は、軽蔑の眼差しで瑞希を叱咤する。
「ち、違うわ!! あれは高田君が……、昨日は無理やり……」
 妹に知られていることに動揺した瑞希は、慌てふためき口を滑らす。裕司と関係を結んだことを認めてしまった。
「昨日は無理やりってことは、今日は先生が誘ったんだ。今日もしたんでしょ?」
 真莉亜の追求はさらに続く。
「……」
 瑞希は真莉亜の追求を否定できずに、口を真一文字に結び俯いた。

 瑞希は戸惑いを隠せないでいた。自分は被害者なのだ。しかし、真莉亜たちは私を加害者として見ている。
「生徒の彼氏、寝取っておいてだんまり? 淫乱教師ね、瑞希先生って……」
 真莉亜が、挑発するように瑞希を詰る。
「寝取っただなんて、ち、違う! 今日だって……高田君に命令されて……」
 瑞希は、淫乱という言葉に動揺を隠せず反論する。
「生徒に命令されて教師がついて行くんだ。それって、立場が逆じゃない」
 あくまで真莉亜は、冷静を装い女教師を追い詰めていく。

 真莉亜は、サイドボードの上の写真を手に取り、瑞希に見せる。
「可哀そうね、瑞希先生の彼氏……。自分の彼女が、教え子とセックスしてるなんて知ったらどうなるんだろう?」
 瑞希は、写真の中で笑顔を作る恋人を直視ることが出来ない。生徒と関係を結んだことも確かだし、妹の為とはいえ、恋人である隆を裏切ったことは確かだ。弱みを握られているとはいえ強く拒否することさえ出来なかった。恋人への背信行為が瑞希の胸を刺す。

 言い返すことすら出来ず俯く瑞希の顔を、美帆たちが覗き込む。
「以外に喜んだりして。淫乱女なら、色んなことして貰えるんじゃない? 彼氏もスケベの変態だったりして……」
 美帆の茶化す台詞に強く反応したのは悠希だった。
「喜んだりしないわ!! 隆さんはそんな人じゃない!!」
 悠希が、顔を高潮させ怒りの篭った声を上げた。そこにいる全員が驚き、悠希に顔を向けた。
「生徒会長さん、なに興奮してんの?」
 美帆は不思議そうに悠希の表情を覗き込む。涙を浮かべた瞳の周りが興奮に赤味を射している。
「ああ、悠希ちゃんもこの人に惚れてんだ。お姉さんの彼氏に……」
 悠希の真意を察した美帆は、ニヤリと微笑んだ。

 真莉亜と美帆が瑞希と悠希を問い詰めてる隙に、麻貴が床に落ちていた瑞希のハンドバックから携帯を抜き取った。
「たかし、たかしっと……」
 悠希が口走った名前を探す。探し物は、意外にあっさりと見つかった。
「彼氏の電話番号ゲット! 先生、こんなに判り易い所に入れてちゃあダメじゃん。一番最初に入ってるよ、彼氏の番号……」
 にやりと笑い、番号が示された画面を瑞希と悠希に見せ付ける。二人の表情が、見る見る険しくなる。恥辱の事実を、一番知られたくない人の電話番号を知られてしまった。
「飯山隆って言うんだ、瑞希先生の恋人……」
 麻貴は、表示された番号とアドレスを自分の携帯に記憶させた。
「これで、あなたのオマ○コおっぴろげ写真も送ってあげれるわ。瑞希先生の浮気も教えてあげれるしね」
 麻貴の笑顔が、瑞希と悠希の心を凍らせた。

 真莉亜が、眼で合図を送った。巨漢の澪が、瑞希の手を取り後ろ手に拘束する。
「きゃっ!! 何するの?」
 澪の太い腕が、瑞希の背中と腕の間に差し込まれ、後ろ手になった瑞希の腕をギュッと抱き抱えるように絞り上げた。
「ううっ、腕が……。や、止めて、腕が折れるわ」
 女子柔道部の澪の締め付けは、瑞希に呻き声を上げさせる。怪力でかんぬきのように差し込んだ腕を持ち上げると、瑞希の身体が浮き爪先立ちになった。
「ううっ、は、放して……」
 背中に差し込まれた腕に瑞希の身体は、仰け反るように固められてしまう。大きな胸を突き出すように……。

「お、お姉ちゃん!! ……」
 姉を助けようと走る悠希の手を、美帆が捕まえた。
「黙ってな! あなたの恥ずかしい写真、愛しの隆さんに送ってもいいの?」
 美帆が携帯を手に悠希を脅迫する。画面には、悠希の恥辱写真が映し出されている。
「麻貴、どうする? 送ってやる?」
 麻貴は携帯を操作し、送る準備を整えていた。嬉しそうに写真添付メールを打ち込み終え、後は送信するだけと告げる。
「いやっ……!」
 悠希は、声を飲み込んだ。隆さんにだけは決して見られたくないと思う気持ちが、動きさえ止められてしまった。

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