瑞希と悠希の放課後
木暮香瑠:作

■ 交錯する思い2

 無性に喉が渇いている。悠希は喉の渇きを潤そうと、水を求めて立ち上がった。悠希はそーっとドアを開け、姉の存在を確認した。姉はもう、リビングには居なかった。床にぶちまかれたザーメンも姉の垂れ流した愛液も綺麗に拭き取られている。
「お姉ちゃん、一人で掃除したんだ……。どうしてんだろ?」
 姉がどこに居るのか気を配ると、浴室からシャワーの水音が聞こえる。耳を澄ますと、ううっ、ううっ……と姉の啜り泣きが混じっているのに気付いた。
「お姉ちゃん……、泣いてるの?」
(あんなに感じていたのに……、嬉しそうにオチ○ポを咥えていたのに……、悲しいの?)
 悠希の脳裏に、姉の唇を秘裂を出入りする肉根の記憶が蘇る。
(うそよ! あんなに感じてたじゃない、隆さんって恋人がいるのに、生徒のチ○ポで……)

 その時、電話が鳴った。電話の呼び出し音は、シャワーの水音に掻き消され姉には届いていないみたいだ。真莉亜たち……、新垣たちかもしれない。悠希は、恐る恐る受話器を取る。
「もしもし、黒川です」
《あっ、悠希ちゃん? 隆だけど……》
「あっ、隆さん……」
 悠希は驚きと共に顔を赤らめた。さっきまで隆を思ってオナニーしていたのだ。その相手が今、電話の向うに居る。オナニーしていたことを気付かれたようなタイミングの電話に驚き、羞恥心が煽られる。
《どうしたの? なんかいつもと違うね》
 悠希の動揺に気付いたかのような隆の問い。しかし、受話器の向うから流れてくる声は、いつもの優しいものだ。
「ううん。そんなことないよ、なんでもないよ」
 隆に心の動揺を悟られまいと、いつも以上に和やかに答える。

《そう。ところで、お姉さん、いる?》
「お姉ちゃん? ……、お姉ちゃんなら、今は留守……」
 そうなのだ。隆さんは姉の恋人なのだ。そのことを思い知らせるように、姉に代わるようにとの電話に、悠希は嘘をつく。
《そうか……。じゃあ、戻ったら電話くれるように伝えて。携帯に電話しても繋がらないんだ》
 床に瑞希の携帯が落ちている。電源の切られたままの姉の携帯が転がっている。真莉亜たちが帰り際に、電源を切り投げ捨てたに違いない。
「うん、判った。連絡するように言っておく」

《あっ、そうそう。明日、君の学校に行くよ。渋山学園のラグビー部とうちの練習試合があるんだ》
「えっ! そ、そうなんだ」
 隆が学園に来ると聞いて、悠希の心臓の鼓動が早くなる。ラグビー部の練習試合のことは聞いていたが、それが隆の勤める学校のチームとは知らなかった。
《悠希ちゃんには、うちのチームを応援してくれっては言えないかな? 生徒会長になったんだもんね、渋山学園の……》
「そ、そうだね。やっぱりうちの学校のチームを応援しなくちゃ、生徒会長としてはね」
 悠希の答える声が上ずっていた。隆さんが学校に来る、そう思うと、それだけで鼓動が速くなり声帯が震えた。
《悠希ちゃん……、何か心配事でもあるの? やっぱりなんか変だよ?》
 隆がまた、悠希の態度を不審に思う。
「なんでもないよ。ほ、本当だよ」
《それならいいけど。生徒会長ともなると大変だと思うけど、心配があったら相談してね。いつでも相談に乗るよ》
 隆の気遣いに触れ、悠希の心が揺れる。恋人がいながら他の男に感じていた姉が、喘ぎ声を上げていた姉の記憶が悠希の心を暗赤に塗り潰していく。

 バスルームからは、未だにシャワーの打ち付ける音が続いていた。

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