瑞希と悠希の放課後
木暮香瑠:作

■ 交錯する思い3

「おい、ちょっと待てよ」
 二時間目の授業を終え、職員室に戻る瑞希に声が掛けられた。声を掛けたのは裕司である。
「こっちへ来い!」
 裕司は瑞希の手を取り、階段の影に誘った。陰に隠れるなり、後ろから瑞希に抱きつく。うなじにキスをしながら、左手で胸を握り潰す。右手はスカートの中に忍ばしてくる。
「いやっ、今日は許して……。今日は……」
「今日だけ許せばいいのかい?」
 裕司が皮肉のこもった言葉で瑞希を責めた。
「ううっ、それは……」
 瑞希は俯き、言葉を濁す。
「つべこべ言わずに黙ってろ! 人に見られるとまずいだろ?」」
 裕司は、スカートに忍ばせ太腿を摩っていた手を股間へと滑らす。
「だ、だめっ」
 瑞希が腰を引き、裕司の手から逃れようとする。そんな事お構い無しに裕司は、瑞希のショーツの中に手を差し入れた。
「ん?」
 いつもと違う違和感に裕司の顔が怪訝に曇る。指に触れる茂みがないのだ。

「どうしたんだ?」
 見られれば恥ずかしい陰毛だが、なければそれでまた恥ずかしい。無いことに気付かれ、恥辱に固まる瑞希の前に裕司は、腰を落としスカートを捲る。
「自分で剃ったのか?」
 そして、瑞希のショーツを下ろして確認した。そこには、陰毛がないだけではなかった。さまざまな悪戯書きがされていたのだ。

『ザーメン便所』
『セックス大好き!』
『若いチ○ポが良いの!!』
 清楚な瑞希には到底似合わない言葉の数々が、臍の下から股間の膨らみにかけて書き込まれている。白い腹部を汚すように、黒い油性マジックで書かれた文字を裕司は読んでいった。
『オマ○コ−正』
(五回やったってことか)
 おしゃぶりで四回、パイズリで三回、手コキで二回と、正の字で回数が書かれていた。
「ううっ……。み、見ないで……」
 消え入るような弱い声が、裕司の頭の上から聞こえてくる。昨日の屈辱の記録が記されている股間を見られることが、瑞希に恥ずかしい記憶を蘇らせる。何回も逝かされ、自ら貪った記憶が記録が書き込まれているのだ。恥ずかしさに声が震えた。

「誰にやられた! 言えよ、誰にやられたんだよ!!」
 裕司は立ち上がり、眉毛を吊り上げ瑞希に鋭い視線を向け訊ねた。
「い、言えない……」
 瑞希は答えることを拒んだ。言えば少しは気持ちも楽になるかもしれない。しかし、もっと酷い屈辱を味あわされるかもしれない。恐怖観念が言うなと瑞希に告げていた。

 昨夜の惨劇を思い起こし辛さが蘇ってくる。閉じた瞳からは、涙が零れ落ちた。
「なぜ消さなかったんだ?」
 裕司は、声を抑えて質問を変えた。
「写真を撮られてるの。消すなって命令されてるの」
「誰なんだ? こんなことしたヤツは!!」
「言えない、言えないの……。判って……」
 再びの裕司の問いにも瑞希は答えなかった。その顔には不安の色が浮かんでいる。そして、弱々しく顔を横に振るだけだ。
「大体判ってはいるけどな、こんなことするヤツは……」
 裕司は、それ以上瑞希を責めることをせずその場を後にした。



 裕司には、大体の予想が付いていた。こんなことをするヤツは、学園内にそうは居ない。ヤツ等の仕業だ。午後になれば学園を抜け出し遊びに行くヤツ等も、午前中は授業をサボって時化込んでる筈だ。裕司は、体育館裏に向かった。

 人目につかない体育館裏では、紫煙がゆらゆらと揺れていた。
「ここに居たか」
 裕司の声に、三人の男子生徒が振り返る。
「おう、裕司じゃねえか。どうした?」
「お前も吸うか?」
 新垣は、タバコの箱を差し出し裕司の方に振り返った。

「お前も昨日、来ればよかったのにな。最高だったぜ、瑞希先生のマ○コ。ウヒヒ……」
 自慢げに昨日の話をする新垣の鳩尾に、裕司は握りこぶしを思いっきり埋め込んだ。
「ううっ、な、何するんだ、ううう……」
 身体をくの字に新垣が蹲った。
「裕司! 何しやがる!!」
「てめえーー!」
 仲間を痛めつけられた織田と古田が、裕司に飛び掛った。織田は握りこぶしを作り襲い掛かる。しかし、裕司の顔にパンチが届く前に、蹴りが股間に見舞われる。
「うおおお……、うううっ……」
 股間を押さえ転げまわる織田を見て、古田は怯んだ。裕司は、古田の顔に握りこぶしを打ち込んだ。

 裕司が見下ろす地面で、三人の男が蹲り呻き声を上げている。裕司も怒りに、はあ、はあ、はあと息を荒くしていた。

 不意に背後に気配を感じた裕司は、振り返った。そこには、真莉亜が腕組みをして立っていた。
「真莉亜、お前の指図か?」
 裕司は、地面に視線を落とし真莉亜に聞いた。
「そうだとしたらどうする? あんなザーメン臭い女のどこがいいの? 男のチ○ポなら誰でも悶えまくるんだから、あの女……」
 真莉亜は、フンッと鼻を鳴らした。裕司は、キッと真莉亜に視線を向けた。
「殴りたいの? 殴ればいいじゃない。さあ、殴れば?」
 真莉亜も裕司から視線をそらすことなく言い放つ。

 裕司の拳に力が入り、ブルブルと震える。地面に落とした視線は、熱く煮えたぎっていた。
「どうしたの? さあ、殴りなさいよ! 殴りたいんでしょ?」
 真莉亜の声が高圧的に響いてくる。裕司は、震える握り拳をゆっくりと開いた。そして、視線を真莉亜に向けることなく横を通り過ぎていった。

「どうして逃げるの? 殴りなさいよ。女だから殴れないの?」
 去っていく裕司の背中には、真莉亜の罵声が浴びせられる。裕司には、真莉亜を殴れなかった。親父は真莉亜の父親に雇われている。それだけではなく、真莉亜の父親に裕司の起こした問題をいつも処理してくれている。それどころか裕司を諭し、何とか今まで学生生活が送れているのは真莉亜の父親のお陰なのだ。

 真莉亜のしたことは許せないが、真莉亜の父親には義理がある。その義理を裏切りことは、裕司には出来なかった。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊