瑞希と悠希の放課後
木暮香瑠:作

■ 交錯する思い4

 放課後……。グランドにはたくさんの生徒が集まっていた。渋山学園と代館川高校のラグビー部の練習試合を観戦するためだ。スポーツに力を入れている渋山学園のラグビー部が、進学校の代館川高校に勝つところを見るために集まった生徒たちだ。毎年、全国大会に出場する渋山学園ラグビー部が勝つことは、当然のことのように思われる。進学校に大差で勝つことは、私立の渋山学園の生徒にとってはこの上なく痛快なことなのだ。

 悠希も生徒会長としてグランドに姿を現していた。スポーツクラブの試合を応援することは、生徒会としても大切な仕事の一つだった。しかし、今日の試合相手は悠希が密かに思いを寄せる飯山隆の勤める学校である。

 複雑な思いでグランドを見詰める悠希の背後から声が掛けられた。
「悠希ちゃん……」
 声を掛けてきたのは、代館川高校のラグビー部顧問の飯山隆だった。
「あっ、たっ……、飯山さん……」
 悠希は、隆さんと名前を呼びそうになった。さす学園内で名前で呼ぶのはまずいと思い、姓で呼び直す。
 会えるのではと期待していたが、そのことが実現したことに驚いた。悠希は、学園内といういつもと違う環境で会うことに緊張した。
「どうですか? チームの調子は」
 緊張を隠し、話しかける。
「胸を借りるってところかな? でも、ことしのうちのチームが今までと違うよ。僕が一年のときから教え込んだ生徒たちがレギュラーになってるからね」
 隆は、いつもと同じように笑顔を見せた。隆の笑顔に悠希の緊張も癒される。
「でも、渋山が勝たせてもらいますよ。うちの目標は全国大会ですから……」
 悠希も笑顔で返した。
「どうかな? 今年の代館川は、強いよ」
 隆は自信の笑みを見せた。緊張が解けた悠希も、和やかな笑顔で会話した。

 悠希と隆が会話を交わしているのを、真莉亜たちは怪訝そうに見ていた。
「あの先生……、代館川高校の先生、どこかで見たことない?」
 真莉亜は他校の教師と会話する悠希を、怪訝そうな顔で眺めていた。
「あっ! あれ、瑞希先生のところで見た写真の……、瑞希先生の彼氏だよ」
 新谷美帆が思い出し、驚きの声を上げる。
「ふーーーん、代館川高校の教師だったんだ。瑞希先生の彼……。めちゃくちゃに負ければいいんだわ、代館川高校なんて……」
 真莉亜は、憎しみの視線を代館川高校の選手に向けた。瑞希の関係するもの全てが憎しみの対象に感じていた。



 試合が始まり、男たちの声がグランドにこだまする。渋山学園が優勢に試合を進め前半が終わった。
「どおってことないな。今日も楽勝だな」
 渋山学園の選手たちが余裕の表情を見せる。前半に2トライを決め、すでに勝利を確信しているようだ。渋山学園が優勢に試合を進め、前半が終了した。

「やっぱりたいしたことねえな。代館川なんて!」
 勝利を確信している渋山学園の選手たちが笑みを見せる。一方、代館川の選手たちは円陣を組み、飯山隆の周りで渋山学園の分析とアドバイスを受けていた。思ったほどの大差がつかなかったことに、余裕さえ見せている。しかし、渋山学園の選手たちにはそんなことは気付く者はいなかった。

 しばらくの休憩の後、後半が始まった。

 ノーサイドの笛が鳴った。選手たちがグランドに這いつくばって、肩で荒い息をしている。地面に這いつくばっているのは、渋山学園の選手ばかりであった。
「ど、どうしてだ?」
 荒い息を上げる渋山学園の選手を尻目に、代館川高校の選手たちが代金星に歓喜の雄叫びを上げている。勝利を確信していた応援者たちも、言葉を無くし呆然と蹲る渋山学園の選手を見詰めている。

 裕司は顔を上げ、代館川高校教師の隆を睨んだ。
「コーチのアドバイスか?」
 代館川高校の動きが変わったのは後半からだった。渋山学園の選手の動きが全て読まれているかのようにタックルが飛んできた。パスの出す先に、代館川高校の選手が二人三人と集まってきた。パスカットされたボールが、次々と自軍ゴールにトライされていく。慢心から遊びに夢中になり、練習不足の身体は時間が進むにつれ体力を失っていった。無駄な動きがない代館川の選手との持久力の差は歴然としていた。それ以上に、組織的に動く代館川高校の選手のプレーに、渋山学園の選手はパス回しを封じ込められた。パスカットされ、ディフェンスの隙間が予め判っているかのように渋山学園の守備の隙間を代館川高校の選手が走り抜けた。

 飯山隆の周りに代館川高校の選手が集まり、歓喜のハイタッチをしている。隆の満面の笑みが、自身の表れを示していた。
「アイツ……、なにものなんだ? あんなに弱かったチームをここまで強くするなんて……」
 裕司は立ち上がり、疑念と共に隆の顔を鋭い視線で睨みつけた。

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