瑞希と悠希の放課後
木暮香瑠:作

■ 悠希の決心2

 土曜日、瑞希は久しぶりに飯山隆と二人の時間を過ごしていた。隆の笑顔に、不安と緊張で強張っていた瑞希の頬がふと緩む。瑞希は気付いていないが、ここ数日は、瑞希の作り笑顔にも常に緊張が見え隠れしていた。裕司に、そして不良生徒達にも嬲られ、その疲れでやつれた表情を隠すため化粧も濃くなっていた。それが、清楚な中にも妖艶な色気を醸し出していた。
(一段と綺麗になったな……)
 隆は、隣に寄り添い歩く瑞希の横顔に目をやる。こんなに素晴らしい女性が自分の恋人だと思うと、つい頬が緩む。街中であるにもかかわらず、『これが俺の恋人です』と大声で叫びたくなる。自慢したくなる。隆にとって、それほど自慢の女性であった。

 瑞希も、隆と過ごす時間に久々の安らぎを感じていた。学園内では、いつ裕司に求められるかびくびくとしていた。本来なら安らぎの場である家庭まで、真莉亜たちの嫉妬と淫虐の場にさせられた。この休日も裕司に誘い出されるものと思っていたが、裕司からの呼び出しが無かったのだ。先日のラグビーの練習試合以来、裕司の行動が大人しい。
(どうしたのかしら? 裕司君……)
 隆は、瑞希の頭をよぎった疑問と不安を見逃すことは無かった。
「瑞希、何か心配事でもあるのかい?」
「えっ? 心配事なんてないわ」
 隆の問いに、瑞希は我に帰った。
「どうしてそんなこと聞くの?」
 瑞希は、隆とのデート中に一瞬でも裕司のことを考えてしまったことを悔やんだ。
「いや、今朝会った時から何か乗らない感じだから……。無ければいいんだ」
 隆の言葉に、瑞希ははっとする。
(今朝からおかしかった? わたし……)
 裕司のことを考えたのは一瞬だと思っていた瑞希には衝撃だった。
(気付かれてる? わたしに起こっていること……)
 瑞希を不安が襲う。しかし隆は、いつものように優しい眼差しを向けている。

 その時、瑞希の携帯が鳴った。携帯の画面には、瑞希の心を凍らせる真莉亜の携帯番号が表示されている。瑞希は心の動揺を隆に悟られないよう、そっと携帯を耳に当てる。
《先生、今すぐラグビー部の部室に来てくれない? 恋人の高田さんもつれて来てね。今、一緒にいるんでしょ》
 携帯からは、一方的に真莉亜の声が流れてくる。
「えっ? どういうこと? どうして行かなくちゃいけないの?」
 瑞希は隆に悟られないよう、言葉を選びさり気無い会話を心がける。
《理由はどうでもいいからさ。来る気になるように写メを送るわ。じゃあね》
 瑞希との会話を拒むように、一方的に用件を流して電話は切れた。

(どういうこと? どうして隆さんといる事を知ってるの? すぐ来いってどういうこと?)
 瑞希の思考を遮るように携帯のメロディがメールの着信を知らせる。瑞希は、恐る恐るメールを開く。送られてきたメールには、悠希が吊るされている写真が添付されていた。両手首を縛られ、その手を頭の上に高く掲げ天井から吊るされていた。スカートを脱がされ、秘丘を包むパンツが露にされている。悠希は紅く染まった顔を俯かせ、恥辱に震えているようだ。

 瑞希の顔が蒼ざめ凍りつく。そして、携帯を持つ手が震えている。
「どうしたんだ?」
 尋常じゃあない瑞希の状態を察した隆が声を掛ける。瑞希を心配し、隆は顔を覗きこむが、瑞希は何も答えられない。隆は、瑞希の手で震える携帯を覗き込んだ。
「えっ? どう言う事なんだ?」
 妹のように思っている悠希の恥態に、隆も驚きを隠せない。悠希に起こっている災難が理解できないでいた。
「ゆ、悠希が、悠希ちゃんが……」
「急ごう!」
 隆は、動揺で動けないでいる瑞希の手を強く握り引っ張った。

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